ガチャ311回目:あれから一ヵ月

「まあそんな感じで、父さんには幼い頃から俺達のせいで苦労させたし、『アンラッキーホール』で稼げるようになってからは毎月欠かさず仕送りをしてたんだ。妹の方は、ステータスが出るまでは仲は良かった方なんだけど、アイツは俺と違ってステータスが大当たりだったからな……。スタンピード事件から2年くらい経過した辺りで、あいつのステータスの高さが噂になってさ。当時はまだ中学生だったってのに協会からスカウトが来て、あいつは次代を担うホープになって、俺はといえばハズレ扱い。そこからまた色々とあって、どんどん顔を合わせ辛くなっていった感じかな」

「そうだったんですね……。あの頃は、今よりももっと低ステータスへの偏見が酷かったですから」


 マキは慰めるように俺を強く抱きしめてくれた。


「……となるとご主人様。ご家族の方は、冒険者を続けてる事自体知らない可能性がございますね」

「え、なんで? 毎月仕送りはしてたけど」

「はい、ご主人様の通帳を管理してますので存じております。ここ1年は毎月100万送られていましたね」

「うん」


 レベル20になってからは80万。25を超えてからは100万仕送りしてたからな。一般的に見れば大金だし、俺は頑張ってるアピールをしていたつもりだったんだが……。


「多いわね? でもショウタ君の稼ぎを考えるとおかしくもないか……」

「そうなんですの?」

「ええ。だってショウタ君、スライムの『極小魔石』の納品だけで、1日5万円くらい平気で叩き出していたからね。勿論ダンジョン税を引いた上で。それが休みなく、毎日よ?」

「単純計算で毎月150万円。仕送りに100万円。確かに、冒険者で稼いでるとは思われていないかもしれませんね」


 俺はクエスチョンマークを浮かべていたが、彼女達から説明されてようやく理解した。

 俺は長らく……。正確に言えば2年以上の間、ずっとEランク冒険者だったのだ。確かにランクだけで見れば、月100万も仕送りに出すほどの稼ぎを、冒険者業だけで賄っているとは思われないかもしれない。なんなら、割のいい仕事に就いて、冒険者の登録は趣味で続けていると思われても仕方がないかもしれないな。


「……まあでも、そうか。妹からは特に言われてたからな」

「なんて?」

「『お兄ちゃんは私より弱いんだから、冒険者は向いてないよ。危ない目にあうから、普通の仕事に就いてよ』って。その事で喧嘩になって、2歳下の妹に取っ組み合いで完敗したのは今でも鮮明に記憶に残ってる。ダンジョンが出るまでは腕力も年相応に俺の方が上だったんだがな……」

「ダンジョンが出てすぐの頃は、腕力や脚力が急激に変化して困惑する子が、周りにたくさんいたわね」

「……それでも、ショウタさんは諦めなかったんですね」

「うん、こんな理不尽に負けてたまるかって思ったんだよね。その想いを原動力にして、家を出てから6年間走り続けて、今があるんだけど」


 今度はアヤネが飛びついてきた。


「旦那様はとってもとっても頑張りましたわ!」

「ああ、ありがとうな」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 翌日、俺達は『初心者ダンジョン』を改めて攻略する為、いつものようにダンジョン協会第525支部へとやって来ていた。授与式は昨日終わったはずだが、いつもよりも冒険者の数が多いように感じた。視線が俺に集まるのは、もはやいつものことではあったんだが。

 ちょっと不思議に思っていると、見知った顔が俺達に近付いてきた。


「やあ、ショウタ君。待っていたよ」

「ああ、シュウさん。お久しぶりです。何か御用ですか?」

「その反応を見るに、最近は掲示板は見ていないようだね」

「あはは、ちょっと予定が立て込んでまして」


 そういえば、久しくあの掲示板は開いてなかったな。

 スタンピードや修行で忙しかったのもあるけど、この1週間はずっと彼女達への贈り物を作るのに必死だったから、完全に忘れていた。


「君は忙しそうだし、仕方ないさ。少し時間を頂いても良いかな」

「いいですよ。向こうのテーブルに移動します?」

「ありがとう」


 そうしてテーブルにつくと、シュウさんは真面目な顔をした。


「ショウタ君、今日が何の日か知ってるかい?」

「……なんかありましたっけ?」

「ああ。実は君が第四層のフィーバーを起こしてから、今日で丁度30日になるんだ」

「……え、もうそんなに!?」


 そういえばそんなのがあったな。

 そうか、もう30日が経過したのか。


「あの時の告知では『一ヵ月』となっていたが、改めて今朝の0時を回った段階でモンスターのステータスを確認したら、全て元通りになっていたよ。だから、第四層のフィーバーは終わったと見て間違いない」

「なるほど。じゃあシュウさんのお願いって言うのは……」

「ああ。『初心者ダンジョン』に潜り続ける冒険者を代表して、君に依頼を出したい。もう一度ユニークボスを倒してくれないか。報酬に、君が取得していなさそうな珍しいスキルをチョイスして持ってきた」

「へぇ……」


 報酬にスキル、か。

 別にそんなの無くても、第四層は通り道だし倒しても良いんだけどな。あいつとは成長した今、改めて再戦してみるのも良いとは思ってたし。でも、だからといってここで無報酬で動いたりしたら、今後面倒な事になるのは間違いないよな。『Sランク冒険者』という肩書に相応しい行動を取るのなら、ここは報酬をきちんと受け取って、依頼という形で請け負うのが一番ベストのような気がする。

 友人としてではなく、同じ冒険者として。


「それで、スキルっていうのは?」

「『飛剣術』と『硬化』と『霊体感知』だ」

「おお。見事に全部知らないスキルだ」

「それは良かった。第一エリアでは中々お目に掛れないスキルだからね。第二エリアのオークションから取り寄せた甲斐があったよ」

「直接見せて貰っても?」

「いいよ」


 こっそりと『真鑑定』を使い、それぞれのスキル詳細を覗き見る。


 名前:飛剣術

 品格:≪希少≫レア

 種別:マジックスキル

 説明:念動と風の力で剣を飛ばし、対象へ突き刺す技術。『風魔法』『風塵操作』『念動力』のスキルがあると威力・操作性上昇。


 『飛剣術』は丁度良く全部持っているが……これは多分あれだな、ダンジョンの仕組みと同様、本人の認知次第で説明が増えていくタイプだろう。


 名前:硬化

 品格:≪通常≫ノーマル

 種別:パッシブスキル

 説明:身体の一部を意識的に硬化させ、被ダメージを減少させるスキル。


 これは……なんだ?

 『通常ノーマル』だし、特殊な効果は何もないパッシブ枠か? わざわざチョイスしてくる以上デメリットは無いだろうし、ありがたく貰っておこう。


 名前:霊体感知

 品格:≪最高≫エピック

 種別:アーツスキル

 説明:幽霊や霊体モンスターを感知する能力。オンオフ可能


 ……いや、最後こわ。

 知らない感知スキルだったから興味を惹かれたけど、モンスターだけじゃなく本物の幽霊も知覚出来ちゃうスキルかぁ……。まあでもオンオフは出来るっぽいし、今の俺には『聖魔法』があるしなぁ。

 逆に家の周りに気付かないけど居たとしたら嫌だし、除霊してみるのも有りか?


「それで……どうだい? 受けてくれるかな」


 おっと、今は交渉中だった。


「わかった、依頼を受けるよ」

「おお、ありがとうショウタ君!」

『おおおお!!!』


 なりゆきを見守っていた冒険者達が、皆歓声を上げた。

 彼らも皆、フィーバータイムの再開を待ち望んでいたのか。これは期待に応えないとな。


 ……あれ? スキルを使ってから改めて考えたんだが、確実に『ガダガ』が再出現する保証も無ければ、再討伐でフィーバーが発生する保証もないんだよな? フィーバータイムが起きなかったらどう詫びを入れようか……。

 最悪何も起きなかった場合は、『管理者レベル』を上昇させてフィーバーを自発的に起こせるか確認することになりそうだな。

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