ガチャ309回目:愛の贈り物

 サクヤお義母さんの抱擁から解放されたが、頭は未だにクラクラしていた。

 人はレベルが上がれば魅力が増す。可愛い子はもっと可愛くなるし、綺麗な人はもっと綺麗になるとされている。割と普通の部類だと思っていた俺でも、最近は高レベルのままでうろつく機会があったからか、周囲から格好良いと言われることが増えてきていた。なら、元々妖艶な美魔女がレベルを上げたらどうなるか。その結果が、今のサクヤお義母さんなのではないかと勘繰ってしまう。

 アキもマキもアイラも、レベルが300を超えた今、出会った頃以上に綺麗になっているし、アヤネは可愛さが爆発してるけど、サクヤお義母さんのそれはもう次元が違う気がするんだよなぁ。

 デフォルトで『黄金香』がついてるような、とんでも補正が掛かってるというか……。あれ? そういえば例の下着って……。


「ああ、そうだわ。指輪の効果だけど、他にもあって」


 おっと、まだあったのか。


「『装着者はいかなる強奪・簒奪の危機からも回避される』と明記されていたわ」

「『強奪』と『簒奪』……?」


 なんだその不穏な単語は。


「誰にも奪わせないとしている点を褒めるべきかしら。アマチさんはあのことを知らないはずだし……」

「ご主人様ですから」

「ふふ、そうなの。素晴らしいわね」

「???」


 アイラとサクヤお義母さんは何やら通じ合ってるけど、わかるように教えてほしいものだ。


「ご主人様はまだ気にされる必要はないかと」

「ふふ、それにしてもミキ姉さんほど打ち解けてはいないと残念に思っていましたが、こうも頼ってもらえると存外嬉しい物ですね。まさか、ミキ姉さんがお邪魔したすぐ後に呼んで頂けるなんて」

「……え!?」


 ミキ義母さんを内緒で呼んだことが、バレてる!?

 旅行から帰還後、『楔システム』の件を誰に伝えるかで皆と相談して、つい昨日支部長会議が始まる少し前にミキ義母さんをこの家に呼び出して、『レベルガチャ』以外は『コアホルダー』を含めて全部伝えたんだけど……。会話の内容までは知られてないはずだが、つい昨日の事だというのに、この人の情報網は本当に末恐ろしいな。

 だからこそ余計に、この件を伝えても良いのかと、悩んでるんだけど。


「ふふ」


 そんな風に驚き悩む俺を見て、蠱惑的に微笑むサクヤお義母さん。まあ、敵ならわざわざこんな怪しまれる発言はしないと思うが……。ううん。

 以前はサクヤお義母さんの事を警戒しなくても良いんじゃないかと思ってたけど、直接会ってからというもの、無意識に警戒してしまうんだよな。頼みの綱の『直感』も機能しないし。

 仕方ない、もう少し様子を見るとするか。


「ところでご主人様。これはもう完成ということでよろしいのでしょうか」

「ん? ああ、そうだな……」


 指輪もネックレスも、満足の行く結果だった。これ以上手直しするところは……。あ、どれが誰のか分かるように、名前の彫り込みだけはしなきゃな。指輪はもう済んでるけど、ネックレスだけまだだった。

 そう思い至ったところで、全てを悟ったアイラが次の道筋を問い掛ける。


「今少しかかりそうですね。では、いつ頃贈られるのですか?」

「え? ああ、これくらいならすぐにでも……。至急箱を用意する」

「あら、アマチさん。もしかして箱も……」

「はい。アイラに素材は用意してもらってたので、こっちも自作をします。ちょっと部屋の外で彼女達と待っててもらえますか?」

「ええ、わかったわ」



◇◇◇◇◇◇◇◇



「お待たせー」

「あら、もう終わったのですか?」

「早かったじゃない」

「んぇっ!?」


 リビングには、サクヤお義母さんだけでなく、ミキ義母さんも待っていた。そして2人の膝には、エンリルとセレンが乗っていて、どっちも可愛がられていた。相変わらずミキ義母さんは水系ゴーレムが好きだな。セレンも撫でられて気持ち良さそうだった。

 そしてサクヤお義母さんの膝でご満悦の表情を浮かべるエンリルを、ちょっと羨ましいと思ったりもしたが、今はそれどころじゃない。……どうしてこんな事に。


「一世一代のイベントが起こりそうだという事で、私がお呼びしました」

「何事かと思ったけど、珍しく楽しそうなサクヤの声を聞いたらいてもたってもいられなくてね。支部で仕事してたけど、一気に仕事を片付けて、駆けつけさせてもらったわ」


 2人ともご機嫌な様子だった。

 サクヤお義母さんは事情を知っているけど、ミキ義母さんは事情こそ知らずとも予想はついているのかもしれない。口には出さずとも、その表情は雄弁だった。

 めっちゃニヤニヤしてる……。


「うー。ねえショウタ君、今から何するつもりなのよー。お母さんに聞いても教えてくれないし……」

「ショウタさん、教えてくれませんか……?」

「お母様が今までで一番笑顔ですわ。ちょっと怖いですの……」

「ご主人様」

「わかってるよ」


 観客が増えているのは想定外だったが、やることは変わらない。


「皆、『愛のネックレス』は今も身に着けてる?」

「「「「はい」」」」

「そっか……。じゃあ、皆目を閉じてくれるかな」


 彼女達に外させる訳にはいかないしな。ここは、俺が新しいのを着けさせてあげよう。

 そうして4人のネックレスを新しい物へと取り換えた俺は、そのまま全員の手に小さな箱を持たせた。


「目を開けても良いよ」

「「「……!」」」


 彼女達の視界には、真っ先に自分の手の中に収められた指輪が飛び込んできた事だろう。誰もがその輝きに目を奪われる中、アイラは1人満足そうに微笑んでいた。


「……こっちも着けてあげるね」


 返事は無かったが、俺はその指輪を手に取り、1人1人順番に、左手の薬指へと指輪を嵌めると同時に言葉を贈る。彼女達は涙を流しながら喜んでくれた。

 やっぱり、自分で作って正解だった。効果を伝えたらもっと喜んでくれるだろうか? ……いや、それを今言うのは野暮だよな。皆が落ち着いてからにするとしよう。

 そうして、観客やゴーレム達が歓声を上げたり喝采をしてくれる中、俺達は幸せを分かち合うのだった。

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