ガチャ310回目:授与式
2人の義母に見守られながらの指輪イベントの翌日、俺達はダンジョン協会第525支部へとやって来ていた。今日ここに来たのはダンジョンを攻略するためではない。ランクアップの授与式を大々的に執り行い、世界に発信するするためにやって来ていた。
Aや『A+』の時はミキ義母さんからの厚意により、協会のメインフロアで細々と行ったが『Sランク冒険者』ともなれば世界有数、それも国を代表するくらいには高い階級らしく、こっそりと授与するのは不可能。そのため今回は、協会前の広場をイベント会場にして貸し切りするようだった。そして通達が1日前というタイムスケジュールだったにも関わらず、『Sランク冒険者』の誕生に立ち会うため、広場には無数の観客やマスコミでごった返していた。
いまこの時になってようやく、俺は『Sランク冒険者』という肩書がどれほど望まれていた存在かを感じ取っていた。そしてそんな光景を、俺達は協会内にあるいつもの会議室から眺めていた。皆の視界の先にあるのは壁に埋め込まれたTVで、そこには外の光景がリアルタイムで中継されており、参加する人々の表情から、誰もがその時が来るのを楽しみに待っている様子が伺えた。
「盛況ねー。ショウタ君、緊張してない?」
「んー、大丈夫」
「ショウタさん、段取りは大丈夫ですか?」
「うん。特段難しい事はないからね。名前を呼ばれたらまっすぐ歩いて、ミキ義母さんにバッジを返却して、新しい物へと交換してもらう。……だよね?」
「バッチリですわ!」
「てか、いつもの恰好で良かったの?」
俺達は、いつもダンジョンに潜るときと同様、武器と防具を身に着けていた。
一番の心配は俺の全身コーデだ。彼女達の手により見た目は良い感じに仕上がって入るが、結局のところ俺の全身はなんちゃって蛮族スタイルなのだ。果たして、こんな姿で出てしまって良いのだろうか。
「今回はパーティーでは無いですし、我々は冒険者ですから。スーツに身を包む必要はありません」
「でもさぁ」
「見る人が見れば、それがふざけた装備では無い事くらいわかりますし、わからない者には囀らせておけばいいのです」
「そういうもんか」
「はい。そういうものです」
その後ハナさんに呼ばれ、チーム全員でレッドカーペットの上を歩き、無数のカメラのフラッシュを浴びながらバッジを交換した俺は、名実ともにトップクラスの冒険者として世界から認められたのだった。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇
そして授与式を終えた俺達は、協会側が整えてくれていたインタビューの場を無事乗り越えて、家に帰って来ていた。
「……疲れたぁ」
「お疲れ様でした、ショウタさん」
「んふふ。ショウタ君の晴れ姿、もうネットニュースに掲載されてるよ」
「エンキ達の姿もバッチリですわ」
『ゴゴ』
『ポポ~』
『プルル』
『~~♪』
彼らも楽しかったらしい。そんな感情がハッキリと伝わって来る。
「これ以降、国内の冒険者でご主人様を知らぬものなどいなくなる事でしょう。インタビューでも触れられていましたが、たった2カ月での大躍進、おめでとうございます」
「あー……。ありがとう?」
「もー、相変わらず反応薄いなー。ショウタ君を馬鹿にしてた連中を見返せるんだよー? もっとさ、してやったり! とか思わないの?」
「ん? あー……」
そういえばそんな連中もいたな。
でも『初心者ダンジョン』に通い出した頃に馬鹿にして来たような連中は、すぐに手のひら返ししてきたし、それ以前の『アンラッキーホール』は関わった人間が少なすぎる。だからアキが言うように見返したいと思う対象がいるとすれば、それよりも前の人間関係になるだろう。高校時代の頃や、生まれ育った故郷の連中だ。
だが正直言って関係性は希薄だったし、顔は覚えていても名前が出てこない。その上、俺の出身はそもそもこの辺りではなく第二エリアだ。
昔の俺を知っている奴は、恐らく第一エリアにはいないんじゃないか?
そう考えていると、不意に皆の視線が集まっていたことに気付く。
「どうしたの?」
「ご主人様の考えを読もうとしましたが珍しく解析不能でした」
「言うなれば、虚無しか感じなかったって感じ?」
「ショウタさんの過去を思うと、交友関係が少ないのも仕方ないですけど……」
「あう。わたくし、旦那様の昔の話、ほとんど知りませんわ!」
「まあ、ステータス面で苦労したこと以外、なにも伝えてないしな。……聞いてもないけど」
アキとマキについてはふんわりと聞いた事があるけど、アヤネやアイラの昔話は聞いたこと無いんだよな。だからといって聞いてないから教えない、なんてつもりもないんだが。
「それに、面白くない話だぞ」
「無理でなければ、教えてほしいですわ……」
「そうねえ。こんな指輪貰っちゃったし、次は式を挙げてくれるんでしょ? お母さんにも言質取られちゃったしね」
「まあね」
そうなのだ。
指輪を贈ったあの日、義母さん2人から『式はいつ挙げるのか』と興奮気味に詰め寄られてしまったのだ。俺としても結婚する事そのものに忌避感はないし嬉しい気持ちはあるのだが、それをするとなれば自由な時間はほとんどなくなり、準備にかかりきりになるだろう。そうなってしまってはダンジョンの方はしばらくお預けになるだろうし、今のこの『管理者レベル2』の状態を放置するわけにも行かなかった。なので2人には、『落ち着いてから』と答えるしか無かったのだ。
まあでも、
「となると、いつ挙げるかはさておき、やっぱり新郎側の親族も呼ぶ必要あるじゃない?」
「そうですね。絶縁でもしてない限り、呼ぶのが一般的です」
「今日のニュースで、ショウタさんが『Sランク冒険者』になったのは誰もが知る事実となりました。ご家族の耳にも届いたはずです」
「旦那様の所も、仲がよろしくありませんの? でしたらわたくし、旦那様の為に一肌脱ぎますわよ!」
……まあ、彼女達になら伝えても良いか。
「わかったよ。皆なら、聞く資格があるだろうし」
「ほんと!?」
「ありがとうございます、ショウタさん!」
本当に彼女達は何も知らないようだから、何処から説明するべきか。……よし。ここは、ステータスが出現するよりも前、世界が輝いて見えていた頃からでも良いかもな。
アイラの事だから、俺の家族構成なんかは事前に調べてあるだろうし、それは義母さん達も同じはずだ。けど、今まで1度もその手の話題は口にしなかったし、その素振りも無かった。きっと気を遣ってくれてたんだろう。
「じゃあ、何から話そうか」
「まずは家族構成からですわ!」
「はは、わかった。俺は父さんと妹の3人で暮らしていて――」
そういえば、高校は全寮制だったから、あの家を出てもう6年ちょっとになるのか。最後に連絡したのも、高校卒業してすぐの時以来だし……。
父さんとカスミは、元気にしてるかな。
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