ガチャ308回目:魔女の訪問
俺が想定しているよりも早く、事態は動いた。
アイラがサクヤお義母さんを呼び寄せると言った次の瞬間には本人に電話をかけ、忙しいはずのあの人は翌日の夕方にやってきたのだ。
「ふふ、皆さんこんばんは。お邪魔します」
「お、お母様!?」
「サクヤさん!?」
「え!? い、いらっしゃいませ……?」
彼女達は、俺が部屋で何かしている事は把握していても、その全容は知らない。その為俺も、アイラが思い付きでサクヤお義母さんを呼び出したことは教えるべきか悩んでいたんだが、まさか昨日の今日で来るとは。あまりのフットワークの軽さに、彼女達だけでなく俺も面食らっていた。
そんなサクヤお義母さんは、何食わぬ顔をしたアイラによって俺の部屋へと案内され、俺はその後ろを慌てて追いかける。ちなみに困惑した彼女達にはあとで説明するとだけ伝えて、リビングで待機だ。悪いとは思うが、後で謝っておこう。
「ここがアマチさんのお部屋ですか。ふふ、緊張しますね」
椅子に腰かけたサクヤお義母さんは、見惚れるような笑顔を向けて来る。やっぱりというか、この人は魔性の存在だ。こうしてただそこにいるだけで心臓は高鳴り、薄着でもないのにその美貌を前に顔が熱くなり、一呼吸一仕草、その全てが計算されているかのように目が吸い寄せられる。あまりに妖艶な現代の魔女。
これが4児の母だとは、まるで想像がつかない。
彼女と、直接面と向かって話し合うのはこれで2度目だけれど、最初の時とは違う点があった。
それは手を伸ばせば届くほど物理的に近い距離にいて、この人が発する芳香に鼻孔がくすぐられ、理性が削られる事。そして以前よりも彼女が俺に対して心を許しているのか、心の距離もぐっと近付いているところだ。
「それでアマチさん、何やら私に見て欲しい物があるのだとか」
「あ、はい。これなんですけど」
俺がスキルを使って創った装飾品を並べる。
1種は、『愛のネックレス』に似せて作った改良版だ。前回と前々回の『アンラッキーホール』のスライム戦で、各種宝石が山ほど在庫として残っていたので、それらを惜しみなく使わせてもらった。初代『愛のネックレス』は、元々完成していたネックレスの中心部分の宝石を『七色のダイヤモンド』に嵌め直した作品だった。
俺は土台の貴金属からスキルを使って形を整え、いろんな作品を参考に土台を作り上げた。そしてその中心に『七色のダイヤモンド』、その両隣を『ブラックダイヤモンド』で挟み、色彩と比重のバランスを整えた末に完成させた。
『真鑑定』によるアイテム名は、『真愛のネックレス』。
『真・愛のネックレス』とも読めるし、アイラ曰く『まかなしのネックレス』とも読めるらしいが……。俺のスキルでは名前までしか分からず、格も、備わったスキルも視えなかった。『真』がついたとしても、本家に劣るようなら俺は作り直したいところではあったが、はたして……。
「これは……」
「「……」」
別の意味で胸が高鳴る。不安な感情が心を揺るがす。
しかし、サクヤお義母さんの顔を見れば、その心配は無用だったと理解させられた。
「……すごいですね。本当にこれをあなた1人で?」
「は、はい」
「一般的な貴金属は私ですが、他のダンジョン素材の調達から材料の加工まで、全てご主人様がやりきりました」
「なるほど……。本当にあの子達を愛しているのが伝わってきます。身に着けるものも、どうせなら自分の手で整えたいと……。ふふ、こだわりと言えば聞こえはいいですが、独占欲が強いのね?」
「うぐっ……」
「彼女達は幸せ者ですね。こんなに愛されてるんですもの」
「それでその、効果のほどは」
「ふふ、せっかちさんね。まず元のネックレスと同等の効果がありました。それに加えて強力な状態異常への抗体。そしてアマチさん以外では、誰も壊す事も出来ないようになっています。恐らく、時間経過の劣化すら弾くほど強力なものです」
「状態異常への抗体……。なるほど、無効化では無い物の、かなりの確率で弾くことが出来そうですね。これもご主人様の独占欲のなせる業ですか」
「むぅ」
「それにほぼ完全な破壊不可ですか。これなら、ダンジョンで身に着けていても破損の心配はいりませんね」
状態異常は便利だが、それよりも
それは多分、作ってる最中に『ダメなら作り直そう』という考えが頭の片隅にあったから、その不安が形になったものかもしれない。でも、それはネックレスだけの話だ。もう1つの作品に関しては、作っている最中に雑念は湧かなかった会心の出来だ。失敗なんて、今の今まで微塵も考えていなかった。
だからこちらに関しては、もっと良い物に仕上がっている、はずだ。
「では次に、こちらですか……」
『真鑑定』で見た名前は『真愛の指輪』。
作ろうとしたきっかけは、最初に『ヒュージーレインボースライム』を撃破し、『七煌ダイヤモンド』を手にした時。本気で作ろうと思い至ったのは、二度目の挑戦で追加の3個を得た時。そして実行に移す覚悟をしたのは、『魔工彫金師』のスキルを得た時……ではない。
4人全員から、
「……なるほど。アマチさんらしい、素晴らしい効果を持った婚約指輪ですね」
「「……」」
黙って続きを促すと、サクヤお義母さんから告げられたのは、破格のスキルだった。
「この指輪を身に着けた者が倒したモンスターは、全てアマチさんが倒したのと同じ扱いになります」
「「!!?」」
つまり、今後はエンキ達ゴーレムや、イリスだけでなく、彼女達全員が俺の戦いに、本腰を入れて戦えるという事だ。
「そう、ですか……」
「あら。素直に喜べないと、そう顔に書いていますね?」
「あはは……。この指輪に関しては、どんな効果がついていても渡そうと心に決めていたんです。だけど、あまりに破格で便利なスキルだったもので、渡す目的が変わってしまいそうで困惑してます……」
「もう、仕方のない子ですね」
そういってサクヤお義母さんは立ち上がると、そっと俺を抱きしめてくれる。
「あっ……」
「そのような事を気にしなくても、あの子達なら大丈夫。あなたの本当の気持ちを理解してくれるわ」
思考がほどけ、とろけそうになるのをなんとか懸命に堪え、振り絞る様に言葉を紡ぐ。
「……はいっ」
「良い子ね」
押し付けられた柔らかい感触と、脳を麻痺させる甘い香りを前に、俺は抗う事も出来ず静かに落ちそうになっていた。
その後、指輪の衝撃から我に返ったアイラによって救出されなければ、どうなっていたやら……。
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