第十一章 Sランク冒険者

ガチャ307回目:引きこもった結果

「じゃ、盛大にお祝いする必要があるから、協会に顔を出せる日をお母さんに連絡してね」

「ああ、わかった」


 そう言ってアキが部屋を出ていく。

 先ほどまで、皆が部屋に押しかけて来ていて、俺のSランク就任を祝ってくれていた。スタンピードを止めた実績を買われてのことなんだろうけど、予想していたとはいえ嬉しくない訳が無かった。

 南の島でのスタンピード騒動から早いことでもう1週間。俺達が乗り込んだダンジョンのワープポータルは、別荘地の海岸端に出現していたようで、試してみたところいつでもダンジョンに出入りが可能だった。


 そのワープポータルの存在はサクヤお義母さんも初耳だったらしく、殊更喜んでくれていた。ただまあ第一層のモンスター構成からして、難易度が『上級ダンジョン』と比べて遜色ない状況である為、あそこの攻略は慎重に行うとの事だった。

 サクヤお義母さんには1086ダンジョンの『コアホルダー』になった事は伝えたが、『楔システム』についてはまだ話していなかった。そしてそれはサクヤお義母さん側でも同じようで、ミキ義母さん以外にはあのダンジョンが制覇済みであり、俺が『コアホルダー』になった事は伝えないようだった。

 慎重になる理由でもあるのかな?


 まあ鍵やダンジョンコア、『コアホルダー』というシステムなんて、ほんの一握りの人間にしか会得が出来てない特殊な権限だから、周知するのも難しいのはわかるけどね。ただ、いくらサクヤお義母さんの敷地内にあるとはいえ、あんな露骨に輝き続けてるワープポータルを隠し通すのは難しいと思うけど。


 ちなみに、ミキ義母さんには、直接この家に来てもらった上で、面と向かって『コアホルダー』と『楔システム』について説明した。特に『楔システム』は、詳細がほとんど分からないダンジョン特有のシステムであるから、この機能を使う事で事態がどう転ぶか見当もつかない。けど、試さないわけにはいかないからな。事前に何がきても良いように、『楔システム』の対象となる『初心者ダンジョン』、その管理者であるミキ義母さんには伝える義務があると思ったのだ。

 すでに起動中の『アンラッキーホール』は身内のアキが支部長だし、1086ダンジョンはまだ誰の物でもないからな。強いて言えば俺かもしれないが。


「気配を読めば来ることは察知出来るだろうけど、まさかノックもそこそこに突然入って来るとはな。作業に夢中になっていたら危うくバレるところだった」


 アイラから借りた腰巾着から取り出したのは、大小さまざまな貴金属に、ダンジョン産の武具を溶かして得た特殊鉱石のインゴット。俺はこの1週間、ひたすらに新スキルの検証を繰り返していた。

 今俺がしている事は、本来なら誰にも内緒で実行したいところではあったが、俺ではこれらの素材の調達すら出来ない。なので、アイラにだけは相談をして、アイテムの調達と同時に袋も一時的に貸してもらっていた。


「んー……」

「ようやく完成ですか?」

「いやー、まだ……うおっ!?」


 振り向けば、アイラが俺の手元を覗き込んでいた。

 一体いつからそこにいた!?


「おま……気配消してまで入って来るなよ。びびるだろ」

「ふふ、申し訳ありません。しかし、何かに集中している時のご主人様は魅力的ですが、同時に弱点でもありますね」

「それって、スタンピードの時の話の続き? そりゃ家の中ってのもあるけど、相手に殺気があるかどうかでだいぶ変わって来るだろ」


 集中してるからってのもあるけど、アイラほどの練達者が、本気で気配を消して息を殺した状態で、その上殺気もなく近付いてきたら、気付くのは不可能に近い。


「さようでございますか。ならば、モンスターが相手ではない場合の危険からは、私が護りましょう」 

「俺の身近に、アイラ以上の危険なんてあるのか?」

「ございますとも。ご主人様は今や『Sランク冒険者』。世界の情勢を引っくり返せる力を持った一個人といっても過言ではありません」

「それは言い過ぎじゃない?」

「少し前までは、ご主人様は『それなりの実力者』として評価される『A+』でした。その為唾をつけるために各国から『Sランク冒険者』が訪問してくる予定でしたが、それよりも前にご主人様は同じ土台に立たれてしまいましたからね。今までは水面下での動きは全て早乙女家と宝条院家によって抑えられていましたが……。これからは、様々な思惑が我々に直接降りかかってくる事でしょう」


 アイラに言われて、初めて俺は彼女達の実家である両家から守られていたことを知った。

 今まで何事もなく過ごせていたのは、『運』が良いだけでなく、そう言う側面もあったのか……。まあ、『運』が良かったからこそ、そう言った力を持った両家と、良好な関係を築けたのもあるだろうが。


「ところで、本当にそれは完成では無いのですか? 私の目からはこれ以上ない仕上がりに見えますが……」

「うーん、自信ない。なあアイラ、以前頼んだ所って、本当に冒険者専門の彫金師が在籍してるとかじゃないんだよね?」

「はい。一般の……とはいえ、高級店ですから。上流階級御用達のハイグレードなお店ではありますね。ですが、ご主人様が作り上げたそれは、私の目から見ても一級品ですよ」


 アイラと俺の視点の先には、美しく輝く指輪とネックレスが4つずつ並んでいた。指輪は作った瞬間に、これ以上ない会心の出来だと心から感じたのだが……。ネックレスの方はそうもいかなかった。

 これがもし俺の作った作品でなければ、『そういうものか』と判断して納得が出来るんだが……。スキルを使ったとはいえ素人の作った作品であり、プロの作った逸品をモチーフに改良を重ねた見た目をしている。本当にこれで良いのか、これを完成としてしまって良いのか。……自信がまるで湧いてこない。

 綺麗とは言われても、それは元の素材が良いからに過ぎないんじゃないだろうか? そんな考えすら頭をよぎる始末だ。


「ご主人様の『真鑑定』にも、しっかり名は表示されているのでしょう? でしたら、これは間違いなく1つのアイテムとして、世界から認識されていますよ」

「まあ、そうなんだけど……。でも、相変わらず俺のスキルじゃ、隠し効果までは見られないんだよね。もしも前回より残念な性能でしたってオチなら、俺はへこむぞ」

「ご主人様。確かに効果も大事ですが、これはご主人様がご自身の力で入手し、誰の力も借りずご自身で形を整え手掛けた作品です。私達としては、どんな効果であろうとそのような品を頂ければ、至上の喜びになります」

「アイラの言ってることはわかるし、その気持ちも理解出来るよ? でもどうせなら、良い効果の物をあげたいじゃん?」

「……そう言って、このネックレスを手直しされるのは何回目ですか。いい加減覚悟を決めてください」

「うぐ……」


 俺が口ごもると、アイラはしな垂れかかって来る。背中が柔らかいし、良い匂いがする。

 2人っきりの時の彼女は、割と甘えがちだ。


「仕方がありません。ここは、一級の審美眼と観察眼。それから『真鑑定』を持つ人を呼びましょう。ご主人様が満足のいくスキルが付与されていたら、納得してくださいね」

「それは良いんだけど、『真鑑定』を持ってる知り合いがいるの?」

「いるではないですか、ごく身近に、最近親族となったお方が」

「……まさか」

「はい。奥様を呼びます」


 アイラはとびっきりの笑顔で答えた。

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