無料ガチャ026回目:会議は踊る6

「皆さん、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。これより定例会議を始めます」


 ミキが始まりの音頭を取る。

 支部長会議は今や名を変え、定例会議へと変化していた。そして議題の内容もほとんどが『初心者ダンジョン』と、彼の活躍に引っ張られた物となっていた為、いつのまにかミキが司会を務めるようにまでなっていた。

 当初は第四層のフィーバータイムの影響により、各支部長にも拠点を移す冒険者などの対策により相当な負荷が掛かっていたが、結果的に協会同士の連携が深まり、ルールを決めた事により負担は軽減。騒動が始まって1ヵ月近くも経った今では、彼らも軽くこなせるようになっていた。

 だがそこに来て、恐れていたスタンピード事件が起きたのだ。その事件により、本来なら世界中で大恐慌や大混乱が起きてしまうはずだったが……。彼の活躍により、国内での騒動は早期に終結する事となった。


「では本日の議題に入る前に、まずは世界情勢の確認から始めましょうか。サクヤ」

『はい、ミキ姉さん。未発見だった10個のダンジョンの内、スタンピードが発生したのは全部で6つの海中ダンジョンでした。それらは無事に制圧が完了し、ダンジョンの場所も特定済みです』

『おお!』

『また残りの4つに関してですが、そちらも位置の特定が無事完了しました。それぞれが湖と地底湖、それから塩湖とカルデラ湖に発生していたようです。それからスタンピードの兆候も見られませんでした。発生場所が一風変わった場所にあり、海に目が向いていた事もあり、スタンピードが起きなければ我々のを用いても見逃していたと思われます。ですが、あの子が貸してくれたアーティファクトにより、早期発見することが出来ました』

『おお……!』

『大災害に繋がらず、本当に良かったわい!』

『それもこれも、全て彼の貢献のおかげですね……』

『まさか我々の海域に1つ存在していたとはね……。映像を見せて貰った時はぞっとしたよ』

『彼ったら、いつのまにあんなに強くなったのかしら。それにアキちゃんもとんでもなく成長してるし……』

『彼らは一般的な冒険者と比べて、レアモンスターを大量に討伐しているからな。あれらは通常のモンスターに比べて内包する経験値も多いという報告がある。……だがまあ、そんな強敵と戦う機会が多いとはいえ、この成長スピードには目を見張るものがあるがね』


 そうして彼らが喜びを分かち合っていると、そこに長い間休みがちだった支部長アカウントが会議に参加してきた。


『こんばんはー!』

『おお、アキちゃんではないか。ここに顔を出すのは久しぶりじゃのう』

『アキちゃんが来るなんて珍しいわね。今日はどうしたの?』

『やー、彼の事でちょっと話があるって聞いて……』

『それについては、私が話しましょう』


 そう口を開いたのは日本ダンジョン協会第一本部局長であり、早乙女家当主であるゼンジロウであった。


『アマチショウタ君。彼は常日頃から大量の魔石を収め、地道にも協会に貢献をしてくれていました。そして成長した彼は希少なスキルをオークションへと流し、『初心者ダンジョン』と共に市場を活性化させ、各階層の秘密を解き明かしレアモンスターの情報を公開。更には太平洋に広がりかけたスタンピードを平定。この偉業は『A+』ランクではとても収まりきるものではありません』


 ゼンジロウから告げられる言葉の意味を知り、誰もが息を呑む。


『この度私は、各本部局長に連絡し彼の昇進を推薦してきました。するとあの方々も、彼のような才覚の持ち主こそ、『Sランク冒険者』の地位が相応しいと判断してくれました。ありがたいことに、世界連盟からも即座に許可が降りました。よって、本日付で彼を『Sランク冒険者』に認定します。後日、ミキさんの方で授与式をお願いします』

「はいっ! ありがとうございます、局長!」

『おお、これで我が国4人目の『Sランク冒険者』の誕生じゃな!』

『これはなんと目出度い』

『おじいちゃんありがとー! 早速彼に伝えて来るね!!』


 アキは慌てて部屋から出ていく音をマイクが拾った。


「ああっ、こらアキ! ……もう、まだ話は終わっていないのに」

『ふふ。あの子は昔からああですからね』

『して、授与式はいつ行うんじゃ? 日程が決まればワシも挨拶しに行きたいぞ』

『良いですね。お祝いしに行きましょう』

『告知すれば報道陣も駆け付けるだろう。スタンピードの平定動画により世間も注目を集めている。編集でうまい事隠していたが、誰もが彼の素顔が気になっているようだ。そろそろ世界に公表しても良いんじゃないか?』

『そういえば、動画は全て彼の後姿しか映らないように工夫されてましたね。ミキさん、その辺りは大丈夫ですか?』

「皆さんありがとうございます。顔出しする事は問題ないと思います。ただあの子は、旅行から帰って以来まだこちらの協会に顔を出していなくて……。一度あの子達の家にお邪魔して、元気な事は確認してるんですけど」

『そうなのか。最初に見た時、少年にはダンジョン中毒者のきらいがあったのじゃが……。あの子達に絆されたかの?』

「一時期は酷かったようですけど、例の石化事故からは鳴りを潜めていますね。私としてはこのくらい周囲に興味を向けてくれているのが望ましいですけど」

『戦士には、時に休息も必要だ』

『まあミキちゃんも、早く孫の顔がみたいものね? フフ』

「ちょっ、フウコさん!?」

『あはは、それでミキさん。今日の報告はこれで終わりですか?』


 このまま行くと10分近く脱線すると察したヨウコが話を戻した。


「ごほん! ……そうね、議題はもう1つあります。先ほど掲示板管理者から報告がありまして、あと3日で第四層のフィーバータイムが終了するかもしれないと、冒険者達に呼びかけをしていたそうです。私共としてはこのまま終われば肩の荷が下りますが、彼らとしては稼ぎ時が消え去るも同義。その為、あの子にスキルやアイテムなどを代価に、再び第四層の特殊ボスの討伐を依頼したいそうです」

『ほぉ……。面白い事を考えるのう』

『複数の冒険者達から、たった1人の冒険者への依頼ですか。このような協調性が生まれたのは予想外でしたが、良い傾向ですね』

「ですのでこの件、私達も一口噛ませて頂こうかと思っています。勿論、彼らとは別の枠組みで」

『『お願い』の逆バージョンですね』


 支部長達は目を光らせた。

 上手くいけば、自分達のダンジョンでも各種レアモンスターの動画。ひいてはスタンピードの抑止やフィーバータイムの開催が出来るかもしれないのだ。


『つまり、より彼の気を引けた者から、『初心者ダンジョン』と同様の恩恵を受けられる可能性があるのだな』

『争奪戦じゃな』

『えぇー? 皆さんで大きな問題への対処のお願いとかじゃないんですか!?』

『ヨウコちゃん、それも勿論あるけれど、今は大きな問題が解決したばかりよ。だから、今は自分のダンジョンでレアモンスターの調査を優先したいのよ』

『あ……。それならうちは、パスですかねぇ……。これ以上レアモンスターを出されても困ると言いますか』

「あら、でも聞いたところによると、うちの次で一番可能性があるのは、ヨウコちゃんのところのダンジョンらしいわよ。何て言ったって、第一層は攻略済みで、第二層もコンプ目前らしいから」

『ええー!? そうなんですかー!?』


 そうしてその日は、夜遅くまで熱の籠った舌戦が繰り広げられるのだった。

 その様子をヨウコは祈るように、ミキは困り顔で、サクヤは訳知った顔で見つめるのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これにて第10章完結。11章も変わらず毎日更新していきまーす。

それから途中でアンケートなどやると思います。


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