ガチャ294回目:海の友人
水上に浮かぶ2つの煙は、ゆっくりと近付き合い、1つの巨大な煙となる。そして突如として膨張を始め、その大きさは目測30メートルを超える巨大な物へと変貌していった。
「まあ、『クラーケン』のサイズを思えば、煙がこれくらいデカくなってもおかしくはないが……」
「まだ煙だってのに、威圧感がとんでもないわよ……!」
「これでご主人様でも勝てない相手が湧いたら、戦犯ものですね」
「俺じゃなきゃ、そもそも次は湧かなかったからって話? ……だよなぁ」
それを言われるとなんとしても勝たなきゃいけないって気になるな。
自惚れている訳ではないが、俺が勝てないレベルのモンスターって、いったいどれほどの強さを持った冒険者なら勝てるんだろうか。実際問題、俺が今まで出会った強そうな人って、アイラを除けばリュウさんやサクヤ義母さんみたいな、初期スタンピードを治めた支部長クラスだけだしな。
「しかし、また海上での戦闘となると……どんなに強力な相手でも、エンキはお留守番になっちゃうな」
『ゴゴ~……』
今までの強敵はエンキがいたから、余裕をもって勝つことが出来ていた側面が大きい。そんな彼の助力なしで『クラーケン』の次を相手取るとなると……。かなり厳しい戦いになりそうだ。
ならここは、戦力を増やしておくべきか。
「アイラ、ゴーレムコアと水関連のスキルを全部出してくれ」
「承知しました」
4人目の仲間を作る時が来た。
俺は『水流操作』で海水を操り、『ゴーレムコアⅣ』に自身の身体が海水であることを認識させる。
造形は、先ほどまで戦っていた『クラーケン』を参考に、クラゲの姿をモチーフとさせてもらった。
『~~♪』
誕生した新たな仲間は、まるで歌うかのように繊細で綺麗な音を鳴らした。これが彼の声か。
クラゲの身体だから、地上での移動は困難と思われていたが、不思議な事に彼の身体は宙に浮いていた。まだ何のスキルも与えていないというのに……。宙に浮かぶクラゲをイメージしたからか?
「アイラ、スキル」
「はい」
アイラから受け取ったスキルを『圧縮』し、手当たり次第に渡していく。彼も状況を理解しているのか、疑問に思わず全てを吸収してくれた。
「君の名前は……声が綺麗だったしな。セイレーンから取って、セレンだ」
『~~♪』
名前:セレン
品格:『
コア:ゴーレムコアⅣ
材質:流水魔装体
魔力:1600
スキル(8/8):物理耐性Ⅴ、自動回復Ⅳ、怪力乱神、金剛体Ⅱ、神槍術Lv4、破壊の叡智Ⅲ、水泳LvMAX、濁流操作Lv5
『マーマン』が落とした『槍術Lv1』40個を『圧縮』しまくる事で誕生した『神槍術』。セレンは触手を武器に戦う姿を想定して渡してみたが……うん。素振りを見る限り問題なさそうだな。複数の触手を槍に見立てる事で、とんでもない速度の突きが繰り出されている。
そんなセレンと触手で握手をしてみる。彼の触手を撫でてみると、ツルツルでプニプニだった。正直今から戦闘でなければ、しばらくモチモチしていたいくらいの手触りだ。
「セレンですか。良い名前ですね」
「よろしくね、セレン」
「地上に浮かぶクラゲかぁ。神秘的ね」
「新しい仲間ですわ!」
『ゴゴ!』
『ポポ~』
『プルル』
『~~♪』
出来る事ならもっと彼の身体の詳細などを調べてみたいところだが、時間がそれを許さなかった。
『パキパキパキッ』
膨張を終え、40メートル近い巨大な塊となったそれに、突如として亀裂が入ったのだ。この距離からでも聞こえるその音は、まるで世界に新たな怪物の誕生を告げているかのようだった。
「来るぞ!」
中から誕生したソレは、海にドロンと零れ落ちる。そしてゆっくりと上半身を起こした。
それはタコの姿をした、巨大なモンスターだった。
「イカの次はタコかよ」
「あれもきっと『クラーケン』の一種よ」
「知ってるの?」
「知ってると言うか……伝説やら物語なんかでは『クラーケン』はタコの姿で描かれることが多いのよ」
「ふーん」
そんな感想を漏らしていると、不意に奴が目をギョロリとさせ、こちらへと向けた。
「「「……!!」」」
「「ひっ」」
目が合った。
それだけで全身が竦み上がるような感覚に襲われる。このままここにいるだけで、気持ちが折れてしまいそうになる。
だが、ここで引いたら俺は二度と戦えなくなりそうだ。
「ウオオオオオッ!!」
吠えて自身を鼓舞する。
恐怖を振り払い、敵を倒す事だけに集中する。
「ふぅー……」
もう1度奴と目を合わせてみると、今度は問題なかった。どうやら打ち克つことが出来たらしい。
気力を振り絞って鼓舞する事が出来たのも、『克己』と『恐怖耐性』のおかげかな。
「ご主人様、感謝します」
「気持ちで負けちゃいそうになったわ」
彼女達の方を見ると、俺の叫びで戦意喪失は免れたらしい。
「まだ、ちょっと怖いですけど……。でも、戦えます!」
「負けてやる気はありませんわ!」
マキとアヤネは、震える体に鞭打ち、自身の武器を両手で強く握っていた。彼女達の気持ちに応えるためにも、戦場に連れて行ってやりたいところだが……問題があった。
まず現状で戦力となれるのは、空を飛べるエンリル、自前の足場や相手の身体を利用して戦えるアイラ、頭に乗る事で砲台となれるイリス、海を泳げるセレン、魔法で足場を作れる俺の5人だけだ。手数という意味では、アヤネの高威力魔法やアキとマキの武技スキルも欲しい所だし、彼女達なら『金剛外装』があるから強敵が相手でも、かなりの時間、前線で戦えるはずだ。
けれど、戦いながら彼女達の足場まで俺が用意してあげるのは難しい。『並列処理』が『Ⅱ』に上がった事で処理できる思考の純度と総数は上がったようだけど、流石にバラバラに動く3人分の足場までとなると……。
そう思っていたところに、義姉さん達が戻ってきた。
「お待たせ!」
「強大な気配を感じて来たけど、とんでもないモンスターが生まれましたね」
「ああ義姉さん、丁度良い所に。悪いけど手伝ってくれないか。攻撃はしなくて良いから、彼女達の足場を造ってほしいんだ」
「おっけーよ!」
「任されました」
タカ義姉さんは『空間魔法』の使い手で、足場を他人からでも目視できるよう色をつけて十枚近く同時に設置する事が可能。そしてユキ義姉さんは『外典魔法』の使い手で、海を凍らせて足場を作る事が出来る。修行の時は、周辺にタカ義姉によって見える足場と見えない足場を巧みに使われ、ユキ義姉は自分自身に雷の魔法を使って身体能力を強化したりと、無茶な動きをしていた。
2人とも、俺以上に特殊魔法を使いこなせるエキスパートだ。手伝ってくれるのは本当に助かる。
「それじゃ行こう!」
俺達はそれぞれの方法で海を渡り始めた。
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