ガチャ293回目:残りの10個
「義姉さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
アイラが取りだした座椅子に腰掛け、遠巻きに見ていた義姉達を呼びよせる。2人も俺の言いたいことは分かってるのか、申し訳なさそうにしていた。
「ごめんね弟君、騙してたわけじゃないんだけど……」
「わかってるよ。どうせアイラが止めてたんでしょ」
元凶に視線を送ると、当の本人は満面の笑みで答えた。
「はい。日常生活中でも即座に戦闘に切り替えられるか試しておりました」
「結果は?」
「合格です」
「そりゃどうも。という訳で、義姉さん達をどうこうするつもりはないから、何が起きたのか改めて教えてくれる?」
チラリと煙へと視線を向けるが、あれらには変化が無かった。
そろそろ出現してから両方とも10分は経過しているはずなんだが、この辺仕様が異なるんだろうか。
「タカ姉、お願い出来る?」
「わかったわ。ショウタさん、まず前提の話になるのだけれど、少し前にダンジョンが出現し始めてから10年が経過したことは知っていますね?」
「うん」
「ダンジョンは1年に付き100個ずつ誕生する仕組みです。たまに勘違いする方がいらっしゃいますけど、10年経った今、ダンジョンの総数は1000個ではなく、1100個です。ここまでは大丈夫ですね?」
「うん、アヤネに聞いたけど、すぐに60個くらいは見つかったんだっけ」
「そうです。そして半月ほど前には、残り40の内30個を発見するに至りました。ですが地上の全てを探しても、残りの10個が見つからなかったのです。お母さまの情報網をもってしても見つからない以上、一つの可能性が浮かび上がりました」
「……なるほど。それが」
「はい。
今までダンジョンは、大体が決まった場所に出現していた。まず0番代から500番台はほとんどが街中に発生し、500以降はそれに加えて山の中や峡谷の隙間など、見つけにくい場所にも発生し出した。その変化が、1000を超えた10年目にも起こり得るのではという憶測が飛び交っていたのは知っている。
俺がダンジョンに通い始めたのは3年ほど前。学校でもその手の話やオカルト、陰謀論的な話はたくさん耳にしたからな。
しかしまさかというか、ついにというか、海底にまで発生するようになっていたとは。
「そしてスタンピードの発生条件は、ご存じですね?」
「確か2、3ヵ月ほど、ダンジョン内に立ち入らずモンスターを討伐しないことで発生するんだったよね。なるほど、そろそろ10年目を迎えてから3ヶ月か。じゃあなぜこの辺りだと?」
「そこはお母様のお力としか……。ごめんなさい、私も深くは知らなくて」
なんだろ。予知能力か何かのスキルやアイテムを持ってるのだろうか。
気にはなるけど、今は目の前の事だな。
「スタンピードの終了条件はモンスターの全滅で良いのかな?」
「というよりは、ボス級モンスターの討伐ですね。そうすることで雑魚のモンスターは統制を失います」
現状モンスターは残ってないみたいだし、あの煙次第か……。
「わかった。教えてくれてありがとう」
「それじゃ、あたし達は一旦お母様に連絡してくるね。何か進展あったら教えて」
「皆さん、どうかお気を付けて」
義姉さん達は俺たちに気を遣ったのか、別荘の方へと向かっていった。正直スキルの話もあるし助かる。
しかし……。
「まだ沸かないね」
「変ですわね」
「約9年前の大災害でも同じようなことが起きたのかな?」
「どうでしょう……。ショウタさんが『クラーケン』と戦闘中、スタンピードの過去情報を閲覧してみたところ、レアモンスター級の相手を倒したという報告はありました。ですが、その後煙はどうなったかなどの記録は残っていませんでした」
「ご主人様のように時間を計る変わり者は居なかったという事でしょう」
「……」
「ショウタ君ほどの『運』を持ってる人がいなくても、煙自体は発生しているはずなのよね……。でも、流石に最初の1年でそこまでは誰も気に掛けてはいないかもね」
どうしたものかと考えていると、アヤネが飛びついて来た。
「旦那様、せっかくですから戦闘の前後で手にしたスキルを教えて頂けませんか?」
「良いわね、あたし達も気になってたのよー」
「お預けされちゃいましたもんね」
「おや、何か良いスキルを?」
相変わらず煙はその場でモクモクとしているし、合体する予兆も膨れ上がる様子も何もない。丁度良いか。
皆には新たに得たり成長したスキルとして、『曲芸』『魔力超回復』『自動マッピングβ』『魔導の御手』『聖魔法』『時空魔法』を順番に説明をした。ちなみに『自動マッピングβ』『魔導の御手』はやはり誰も知らないスキルで、俺もまだ未使用であることを伝える。
そして『曲芸』についてはアイラが教えてくれた。なんでも『姿勢制御』に関連するスキルらしく、2つのスキルを併用する事でバランス感覚が向上するとか。空中戦やら水上戦やら使う機会が増えて来たし、単純に使えそうでありがたいな。
そして例の『聖魔法』は、取得出来てしまった事自体に問題があるらしい。
「これが知れ渡れば、『聖女』としてのアイデンティティが喪われかねませんからね。ご主人様、絶対に秘密にしましょう」
「お口にチャックですわ! ……でも、どんな魔法が使えるんですの?」
「気になる?」
「とっても気になりますわ!」
見渡せば全員が頷くのでイメージで浮かぶただ1つの魔法を教えた。
「『浄化』、ですか」
「悪い物を祓うのでしょうか?」
「第二支部にある『妖怪ダンジョン』で無双できそうじゃない?」
「お化けがいっぱいいる第三支部の『古戦場ダンジョン』も、適性がありそうですわ」
「んー……。あの海に広がったイカスミ、『浄化』出来るかな?」
「出来たら便利そうね。あのイカスミの汚れはしつこそうだし」
「それでショウタさん、『時空魔法』の方はどうだったんですか?」
「あー、そっちね。引き延ばして悪いんだけど、
『時空魔法』は、Lv1では何も使えないのか、イメージしても何も浮かんでこなかった。まあでも、『狭間の理』ってスキルも、イメージしても何も浮かばないし、珍しいスキルはそういうもんなのかもしれないけど。
「イメージしても何にも浮かびませんの?」
「うん。ぼんやりとも出てこないな」
「それは……。もしかしたら、ステータス不足かもしれませんの」
「え、『知力』2万もあるのに?」
「噂では『聖魔法』もかなりの『知力』を要求すると聞きますわ。ですので、それより上のレアリティから出た『時空魔法』の要求がとんでもなくても、ありえるかもしれませんの」
「なるほど……。でも、そもそもLv1に使える魔法がない、なんて場合もあるかもしれないよね」
「そうですわね。魔法の可能性は未知数ですから」
ひとまず、使えない以上悩んでても仕方がない。アヤネを撫でて気を紛らわせていると、エンリルが声を上げた。
『ポポ!』
どうやら、煙に進展があったようだ。
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