ガチャ289回目:暗黒に染まる海
「……デカイな」
海から顔を出してきたのはイカのようなフォルムをした巨大生命体。顔の造形もまたイカに近いが……ひょっとこみたいな口がついてるな。それにあの足、一体何本あるんだ? ここからでも20本くらいは見えるぞ。てかこんなに距離があるのにあんなに大きく見えてるってことは、海面から上だけでも20メートル……いや、もっとあるんじゃないか?
気配から感じる強さは『ガダガ』以上なのは間違いなく、『カムイ』と同等くらいだろうか。そんな相手が2体もいる上に、奴らの土俵である海で戦うとなると……。ちょっと厳しいか? でもこっちも成長してるしな……。
「シルエットで最悪を想定していましたが……やはり『クラーケン』ですか」
「厄介なのが出てきましたね。海の悪魔と名高い『クラーケン』、それが2体も……。しかも私が知っているよりも大きく見えます」
「ダンジョンなら出会った瞬間撤退を選ぶ怪物よ。弟君、手伝おっか?」
「んー……? 『鑑定』が届かないから判断し辛いかな」
強さはなんとなく肌で感じているが、スキルとステータスが直接視えないと、倒せるかどうかの判断が出来ない。1匹なら間違いなくいける気がするんだがな。
それに出来れば、スキルや経験値の関係上俺が倒してしまいたいところではある。奴らとの距離は目測100メートルほど。『真鑑定』にも射程があるからな……。直接拝むためにも、この距離を縮めるには……。
いや、待てよ? 別にわざわざ近付かなくても『雷鳴の矢』でぶち抜けば良いんじゃないか?
「ユキ義姉、あいつら動く気配ないけど、遠距離から仕留めるのはナシなの?」
「ええ、それだけはオススメしないわね。遠距離攻撃を仕掛けると、あの口からイカスミをマシンガンのように連発して来たり、津波を引き起こしたり、超絶厄介な攻撃をしてくるの。周辺に何もないならまだしも、ここにはお母様の別荘があるから……」
「それは、いくらスタンピードとはいえ避けたいな」
イカスミは掃除が大変そうだし、津波なんて撃たれたら別荘どころかこの島も無事では済まないだろう。あの人には嫌われたくないしな。
「そして一番厄介な点は、近接戦闘を挑めば律儀に触手を使ってくるけど、少しでも戦線離脱しようものならすぐさま遠距離モードに切り替えるところよ。それに水中は奴の独壇場だから泳いで戦う事も不可能。以前タカ姉達『空間魔法』の使い手達が集まって、足場を形成しつつ戦った事があるけど、その時は20人くらいの上級冒険者でタコ殴りにしてようやく仕留める事が出来たの。それ以降は面倒だから、発見次第撤退していたわ」
「なるほど」
随分面倒なモンスターのようだ。
……お?
『ザバン!』
突然海面からイリスが飛び出して、何かを言っている。
『プルルル!』
『ポポ? ポポポ!』
どうやら、水中のモンスターの一掃が終わったらしい。お腹いっぱいだと言っているようだ。
恐らく、先遣隊が全滅しそうだからあの連中も顔を出したのかもしれないな。そして連中は、顔を出すだけ出してその状態から動く気配がないのは不気味だった。こちらから攻撃を仕掛けなければ、遠距離攻撃モードには移行しないという話だけど、いつまでもあそこで大人しくしている保証はない。
居座られちゃ迷惑だし、スタンピードを収めるにはあれをどうにかしないと……。
「皆、水中は終わったらしい。集まってー!」
俺の声を聞いて、皆が集まって来る。全員を順番に労うが、イリスは動く気が無いらしい。プカプカと浮かびながら、波の赴くままに海に揺蕩っていた。……食後の休憩かな?
さて、海が片付いたとなれば、もう海面を道として使っても問題はないはずだな。エアウォークで道を繋いで、近くまで進んでいくとしようか。
「エンリルとイリス、それからアイラでアレを倒して来る。他はここで待機」
「畏まりました」
『ポポ!』
『プルル?』
「エンキ、もし追加の敵が来たら迎撃を頼むな」
『ゴゴ!』
「気を付けてね!」
「ご無事を祈っています!」
「ファイトですわー!」
プカプカと浮かぶイリスをエンリルが掴んで回収し、俺はアイラを抱えて水上を走る。エアウォークによる透明な床を次々出し入れしつつ、瞬間的な足場を走り抜く。今回の旅行で重点的に修行したおかげで、『空間魔法』を覚えたての頃に比べれば、あれこれ考えずとも手足のように扱えるようになっていた。
そして接近する事50メートルほど。ようやく『真鑑定』で見れる距離まで接近したところで、敵に動きがあった。巨大イカはその口からイカスミを大量に吐き出し、周辺の海を真っ黒に染めていく。次第に海は光を通さない闇の空間となり果てた。
「むっ!?」
「これは……落ちたら厄介ですね」
足を止めて周囲を見渡すが、その闇はどんどん広がって行き、ついには俺の足元をも黒く染め上げた。これがイカスミ攻撃か……。直接ぶつけられるのも厄介そうだが、海に使われたせいで水中戦も圧倒的に不利になってしまったな。アイラの言う通り、一度水中に落ちれば上下が分からなくなってしまうだろう。
更に、この距離は既に奴らのテリトリーでもあるようだった。無数の触手が正面と、暗闇に染まった水面から襲い掛かってくる。
「うおっ!?」
『バキンッ!』
足元からの強襲に、間一髪のところで避けると、エアウォークで作った足場が破壊される。『空間魔法』のレベルが上がった事で強度は高まっているはずだが、それでもあの触手の連撃を耐える事は出来ないようだった。
「ご主人様、私達で奴らの注意を引きます。その間に確認を!」
「頼む!」
アイラは鞄から即席の足場……ピアフロートをいくつも取り出し、海面に投げ入れる。そしてその足場と敵の触手などを利用して、水中に落ちる事無くモンスターと高速戦闘を始めた。
そしてもう一方の敵も、エンリルが付近を飛び回りながら風や雷で攻撃し、ぶら下がったイリスが『極光魔法』で光線を放ち、触手を切ったり焼いたりして牽制をしている。こっちは遠距離攻撃ではあるものの、接近して戦っている為か津波とかの厄介なスキルは使ってこないようだ。けど、こっちは触手に加えてイカスミも吐いてくるようで、弾幕を回避するのに無茶な飛行を取らされている。あちらは苦戦をしている様子だし、早めに援護してやらないとな。
「『真鑑定』」
*****
名前:クラーケン
レベル:198
腕力:1800
器用:2200
頑丈:1500
俊敏:650
魔力:9999
知力:2000
運:なし
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装備:なし
ドロップ:クラーケンのゲソ、ランダムボックス
魔石:極大
*****
「この性能で、ダンジョンボスでもユニークボスでもないとか、冗談だろ」
やはり『カムイ』と同格、いやそれ以上か。足場が不安定の中、この2匹と相対するのは骨が折れるが、やれない相手じゃないはずだ。アイラは全力で戦っているものの、あのペースならしばらくは戦い続けられそうだし、まずはエンリルたちの方から援護に入るか!
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