ガチャ288回目:前哨戦
「『破拳』!」
「『激流槍』!」
開戦の狼煙は、アキとマキの武技スキルだった。
2人の放った技が、次々と水中に潜んでいた魚型モンスターを煙へと変えていく。あんまり前線での戦いはさせてあげられてないけど、彼女達の技も結構な威力してるよなぁ。この戦いが終わったら、どのくらい成長してるか見直しておこうかな。
「クラッシュテンペストですわ!」
遅れて発動したのは、アヤネの『風魔法LvMAX』で行使可能となった大魔法。局地的な巨大竜巻が、海水もろともモンスターの群れを飲み込み、バラバラに引き裂いて行く。陸上に上がれない小型・中型の魚型モンスターは、彼女達だけに任せてしまって問題なさそうだな。撃ち漏らしが発生しても、エンリルやイリスがカバーしてくれているし。
そう安堵したつかの間、彼女達の猛攻の隙をつき、いくつかの影が砂浜へと上陸した。
『UMMM!』
『UMMMM!!』
現れたのは、アイラが『マーマン』と呼んでいた上半身が人間の男そっくりなモンスターだ。下半身はしっかり魚なのに、陸上でも上体を起こしたままピチピチと地面を跳ねている。そしてその両手には三叉槍が握られていた。……足がアレだからか、変則的な動きをして来そうな相手だ。
続々と上陸しているし、さっさと倒さないと陸地が占拠されてしまいそうな勢いだが、せっかく目の前に出て来てくれたんだ。余裕があるうちにステータスを見ておくか。
*****
名前:マーマン
レベル:65
腕力:600
器用:600
頑丈:300
俊敏:750
魔力:300
知力:600
運:なし
【
【
【
装備:魚人の槍
ドロップ:ランダムな装備
魔石:大
*****
「お、スキルが旨い。2倍マジックミサイル!」
これは彼女達に倒させるわけにはいかない。上陸した『マーマン』3匹の頭を魔法で吹っ飛ばし、煙へと変える。煙はすぐに霧散して、連中の立っていた場所にドロップアイテムが散らばるが、後続に控えていた『マーマン』がビチビチと跳ねながら死骸を乗り越えてくる。奴らは凄い形相でこちらを睨んできているが、今ので恨みを買ってしまったらしい。
けど、俺も一人ではない。
『ゴゴ!』
俺と『マーマン』との間に割って入ったエンキが、頭上から鉄の拳を振り下ろした。
『ドゴンッ!』
複数体の『マーマン』がまとめて押しつぶされ、煙へと変わって行く。相手もそれに怯まず10体近い『マーマン』が増援として押し寄せてきたが、今のエンキは強力な装備と『武闘術』、更には武技スキルもある。
『ゴゴォ!!』
『斬ッ!』
『武技スキル』が炸裂したんだろう。10体近いマーマンが、エンキの横薙ぎによってバラバラにされてしまった。いくらLv65のレアモンスターとはいえ、『ユニークボス』の武器に武技スキルまで使われてはひとたまりもない様子だった。
ここはエンキに任せても問題なさそうだな。
周囲を見てみれば、海にいるモンスターも順調に数を減らしている様子だった。彼女達3人による狩りは順調だし、エンリルの落雷が魚型モンスターを黒焦げにしている。時折、触手のようなものが魚型モンスターを捕まえて海底に引きずり込んでいく様子が見えるが、あれは多分イリスが踊り食いしてるんだろう。
モンスターとはいえ魚だし、美味しいのかな? あとで感想を聞いてみよう。
「で、アイラはなにしてんの?」
俺は隣に佇むメイドへと視線を向けた。
「好きにしろとのご命令でしたので、好きにしております」
「……まあ、働いてるみたいだし文句はないけど」
よくよく見れば、隣にいるアイラは残像のように時折ブレて見えた。
それもそのはず。彼女は俺やエンキが倒した『マーマン』の死骸付近からアイテムを回収し、『マーマン』に気付かれる前に、目にも止まらぬ速さで元の位置へと戻って来ているのだ。
速さを極めすぎるとこんなことも出来るのか。器用というかなんというか。
「『縮地』も極めればこのような動きも可能になるのです」
「『縮地』スキルもなしによくやるよ、まったく」
「ご興味がお有りでしたら、伝授いたしましょうか? 文字通り、手取り足取り腰取り、じっくりと……」
「気が向いたらね」
こういう言い回しをする時のアイラにYESと答えると、夜中に授業が始まるんだよな。当然搾られながらになるので、覚えられる余裕などなく、アイラが満足するまで続けられるという……。あれは苦痛の度合いが大きいから二度とごめんだ。
「残念です」
本気で残念そうにぼやく年中発情メイドは放っておくとして、改めて戦場を見渡せば義姉達の姿がない事に気付いた。気配を探ればすこし後方に待機しているようなので振り向いてみると、手持無沙汰な様子で戸惑っていた。
「義姉さんたち、何してるの?」
「いやー、意外と余裕そうで出番がないというか」
「邪魔しては悪いと思って、待機していました」
まあ、戦力としては十分に間に合ってるもんな。
「それにしても、アヤネの急成長ぶりには感嘆させられるわ。少し前まであんなに弱かったのに、弟君と出会ってからたったの1ヵ月よ。それだけでこんなに強くなってるなんて……」
出会った頃は『炎魔法Lv3』ですらギリギリといった様子だったアヤネが、今では『LvMAX』魔法を連発してるからな。『炎魔法』はドロップする敵と巡り合えてないから変化してないけど、他の3種は全て『LvMAX』だ。
津波やら小隕石やら竜巻やら、アヤネによって大災害が引き起こされている。
「他の婚約者達も素晴らしい実力をお持ちですし、私達は本当に出番がなさそうですね」
「俺も、奥のデカブツが来るまではすることないかもな」
魔法や武技スキル、触手などで次々とモンスターが煙になっているその奥では、2つの巨大な影が海面に映し出されていた。この距離からでも感じるその圧力は、某山神を彷彿とさせるほどのものだった。そんな相手の土俵である水中で戦った場合と、陸上へと上陸してきた場合、2種類の展望をイメージしていると、アイラがこっそりと耳打ちしてきた。
「ご主人様、レベルは順調ですか?」
「ピークは『マーマン』が最初に倒された辺りまでだな。それ以降は緩やかに増えて行ってるよ」
現在の俺のレベルは8から87へと上昇していた。
撃破されたモンスターの経験値、その全てが俺の糧になっているのだ。アイラ曰く『マーマン』はレアモンスターらしいが、入手経験値から考えてもレアモンスターなのは間違いないだろう。そんな奴が10匹20匹と倒されているのだ。ここまで上がっても不思議ではないな。
あ、また上がった。
「しかし、今まで検証してきませんでしたが、ネックレス持ちが倒した場合でもご主人様に経験値が入るのですね」
「そうだな。……まあ、俺からの一方的な物じゃなくてほっとしてるよ」
「安心しました。一方通行な愛だと、ご主人様が泣いてしまいかねませんでしたから」
「……」
泣かないと言おうとしたが、自信が無かったので黙る事にした。
「……おっとご主人様、本命に動きがあったようです」
「ようやくか」
視線を向ければ、スタンピードの総大将が海からゆっくりと顔を出していた。
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