ガチャ284回目:空中修行
「ぜひー、ぜひー……」
俺は肩で息をしながら、なんとか最初の修業を終えた。
走り込みの修業はどういった内容で組み立てられているのか聞かされてなかったから、ペース配分が分からず後半はガス欠気味だった。いくらレベルが上がりステータスも化け物じみているとはいえ、200メートル無限シャトルランは流石に堪えたぞ……。
しかも、200メートル走り切ったらすぐに反転して勢いを殺して、10メートル以内に抑え込む必要があった。その上、アイラとアキの判断で、走りに条件がどんどん加えられる鬼畜っぷりだった。
そんな地獄のような修行は、1セット辺り大体5分から10分くらいだっただろうか。
改めて内容を振り返れば第一は『姿勢制御』ありの両手無し。
第二は『姿勢制御』なしの両手あり。
第三は『姿勢制御』なしの両手なし。これが一番きつかった。規定以内に反転して勢いを殺そうとしても、バランスが取れずに何度か転んでしまった。
以降は、第一の条件に加えて各種速度上昇スキルが加算されて行った。
第四は『俊足Ⅳ』。
第五は『俊足Ⅳ』+『迅速Ⅳ』。
第六は『俊足Ⅳ』+『迅速Ⅳ』+『瞬迅Ⅲ』。
第五以降は最高速度になると、200メートルなんて数秒もかけず走破出来るレベルとなり、油断するとすぐ規定の10メートルをオーバーしてしまう。威力を殺す為には『頑丈』系スキルだけでなく、『腕力』系スキルを使って脚力を向上させ、即座に勢いを殺すよう努めてきた。
第六に至っては、疲労で意識が朦朧としていたからか、全部失敗したかもしれない。正直終わってくれて心からほっとしている。
『プルプル?』
イリスが足元まで転がって来て、プルプルしている。たぶん、マクラになろうか提案しに来てくれたのだろう。
「あー、悪いなイリス。今はマキの膝枕な気分なんだ」
『プルル!』
「うおっと」
イリスは触手を伸ばして俺をそのボディーに乗せ、ズルズルと引っ張ってくれている。どうやら運んでくれるらしい。
「ありがとなー」
『プル』
そうして皆が待つところまで運んでもらうと、彼女達に甲斐甲斐しくお世話をされ、全力で甘えるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
マキの膝枕で甘えている内に眠くなってしまったので、1時間ほど仮眠をして、昼食を済ませたところで、アイラとアキから午前中の修業に関して総括が入る。
「ご主人様、シャトルランですが10メートルをオーバーした回数は21回でした。第二セットが1回、第三セットが4回、第五セットが4回、第六セットは12回中12回でした」
「第六は第五と同じように他のスキルをフル活用してもこの結果だったし、ここは少しルールを見直す事にしたわ。だからノーカウントにしてあげる」
「助かる。これって明日もやるんだよね?」
「勿論です。私としては最終的にこの数値を0に抑えて欲しい所ですが……厳しそうですか?」
「第一から第四は俺の練度次第かな。第五は途中から気付いたけど、『縮地』の歩法を活用すればなんとかなりそう。けど第六は物理的にきつい」
一瞬で200メートルを軽く走破出来る速度が出る以上、油断すると10メートルなんて軽く踏み越えてしまう。そしてその速度を完全に殺し、反対側に回ろうとするなら……。
「エアウォークを使って空中に駆け上がって勢いを殺すしかないな……」
勢いが殺せないのなら、その速度のまま垂直に駆け上がり、制御できるところで空中の地面を蹴って、逆向きに方向転換なり宙返りするなりして、曲芸染みた解決法になりそうだ。
「邪道ですが最初の内は仕方がありませんね。では、午後は空中戦を学んでいただきましょう。『カムイ』戦では空中からの暗殺が功を奏しました。今後もあのような巨大なモンスターと戦う機会はあるでしょうし、研鑽を積んでおいて損はないでしょう」
『ゴゴー』
エンキがアイラの鞄を手に走ってきた。今のエンキは4メートル級の巨人形態だ。そのせいか、あの鞄がものすごく小さく見える。
「あ、エンキおかえりー。用意出来た?」
『ゴゴ!』
アキがエンキを出迎える。
そう言えば昼食の時、いなかったな。俺が寝てる間に、お使いにでも行ってきてくれたんだろうか?
アイラは先程の修業で地面がボコボコになった場所に移動すると、鞄から大量の岩ブロックを取り出した。
「ではエンキ、『カムイ』を造ってください」
『ゴ!!』
エンキはその力を十二分に使い、先週戦った怪物『カムイ』を岩で造形していく。
なるほど、このために岩ブロックを確保しに行ってたわけだ。
『ゴ! ゴ!』
エンキは寸分たがわず岩版『カムイ』を創造した。改めて見ると、ほんと怪物だなコレ。このデカさの怪物が山の上にいたら、麓からでも視えそうだな。ああでも、あの階層は邪魔な雲があったんだったか。
「旦那様、旦那様」
「んー?」
「このオブジェ、『初心者ダンジョン』の近くの公園に建てたら、人が集まりそうですわね!」
「むしろ第三層にこんな化け物が出るって分かったら、冒険者の人口減るんじゃない?」
「面白そうな案だけど……どうかなー? てか、エンキったら本物そっくりに造形出来るのね」
『ゴゴ~』
「ここまで精巧な物が作れるのなら、ミュージアム形式にして、各層のモンスターの等身大オブジェを造ってもいいかもしれませんね」
「ダンジョン博物館、ですか。面白そうですね、お母さんに今度聞いてみましょう」
「でもそれは、第五層を攻略してからになるでしょうけどね」
「まあ、そうだね」
行った事のない階層だし、攻略に何日掛るかわかんないけど、今の段階から攻略後の事を考えるのは気が早いかな。
「おほん。では余談はそのくらいにして、修行内容をお伝えします」
「うん、よろしく」
「ご主人様の目標は『カムイ』戦と同様に、この『カムイ』モドキに頭上から強襲し、『無刃剣』を決め、今度こそ着地をしっかり決めることです」
「ふむふむ。『ダブル』は?」
「消耗が激しいようなので、余裕が出来てからにしましょう」
「おっけ。……え、それだけ?」
「最初はそれだけですが、着地が出来るようになってきたら邪魔が入る様になります。邪魔役はこのお二方が担当します」
アイラが示した人物は、タカ義姉とユキ義姉だった。
「この義姉さん達が?」
「あたしは前線攻略からは身を引いたけど、それでもお母様から実力面で信頼は得てるのよ。弟君に遅れはとらないわ。ちなみに『外典魔法』が使えるの」
「そして私は『空間魔法』の使い手です。ショウタさんも使えるようですけど、先輩としても義姉としても、簡単に負けるつもりはないわ」
「この2人のコンビネーション能力は宝条院家の部隊でも群を抜いています。私としても今日中に勝てるとは思っていません。この旅行期間中に、お2人のお邪魔行為を掻い潜り、見事突破してみてください」
アイラがそう言うって事は、義姉さん達はかなりの実力者なのは間違いない。肌で感じる厄介度から鑑みて、出会ったばかりの頃のアイラが2人いると考えて差し支え無さそうだ。
それなら、気合入れて修行に励むか!
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