第十章 第二の鍵

ガチャ282回目:南の島

「おおー、本物の海だー!」

「海ですわー!」

『ゴゴー!』


 俺達家族は、5人+3人の計8名で南の島に来ていた。

 なんでも、サクヤさんの厚意で宝条院家所有のプライベートビーチで、バカンスを楽しんできてほしいとのことだった。南の島どころか飛行機すら初めてだったけど、こんな良い所に別荘を建てられるなんて、サクヤお義母さんはほんと凄いんだな。


『プルプル?』

『ポ、ポポー』

『ゴ!? ゴゴ!』


 エンキ達は初めての海が新鮮らしく、三者三様で波打ち際で遊んでいた。エンキは現在1メートル程度の子供サイズだからか、イリスと一緒に引き潮を追いかけたり逃げて来たりと楽しんでいるし、エンリルはその様子をエンキの頭上から眺めている。ここは波が緩やかだし、全員専用の浮き輪や浮き袋を身に着けてるから危険はないと思うが……。念のため注意しとくか。


「イリス、『巨大化』……はダンジョンじゃないから無理として、波に攫われて沖の方に行っちゃったら、風呂場で遊んでたみたいに水をジェット噴射して戻って来るんだぞ」

『プルル!』

「エンキ達も、やばかったら能力使うなり浮き輪を足場にして戻るんだぞー」

『ゴ!』

『ポポ!』


 楽しそうだし、注意はこれくらいにしておくか。彼らに呼吸の概念はないので溺れる心配はしなくていいからな。自由に遊ばせるためにもGPSを浮き輪とかに埋め込んでいるのだ。これ以上口酸っぱく言う必要は無いだろう。


「ショウタさん、お待たせしました」

「おおー……」


 マキの声に振り向けば、そこには水着に着替えたアキ、マキ、アイラの姿が。

 アキとマキは『ハートダンジョン』に行った時と同じ水着で、懐かしさと嬉しさで自然と頬が緩む。プライベートビーチといっても男性スタッフの目があるのなら、彼女達がそれを着てくるのは快く許可は出来なかったのだが、どうやらサクヤお義母さんの計らいで、この島を管理する人間はすべて女性のようだった。

 その為、俺も心置きなくOKを出せたし、彼女達もちょっとキワキワのそれを着て来てくれたのだろう。ちなみに肝心のアイラは、しっかりダンジョン用の水着ではなく、今度こそちゃんとした紐ビキニを着て、その抜群のプロポーションを惜しみなく披露していた。

 しかし……何がとは言わないが、その……。


「零れそうですわ!」


 そうそう。

 既に水着姿となったアヤネが、自身のボディーラインと見比べてわかりやすく拗ねていた。

 俺と彼女は私服の下に水着を着て来ていたので、準備なんて脱ぐだけだったからな。部屋に荷物を置いてすぐ、俺とアヤネはエンキ達を連れて、一緒に海へと駆けてきたのだ。


「お嬢様、気にする必要はありません」

「そうよー。アヤネはそのままでもショウタ君は、その……。あ、愛してくれるわ」

「それはわかっていますわ。けれど羨ましい物は羨ましいのですわ」


 プリプリするアヤネの頭を撫でると、甘えてくるのでもっと撫でる。よーしよし。


「なあアイラ、今日はこのまま遊んでも良いんだよね?」

「はい。砂浜での修行は明日以降で構わないかと」

「昼食は?」


 朝飛行機に乗って、2時間ほどで到着したため、現在時刻はお昼前。空腹とまではいかないが、少し遊べば腹が鳴りかねない。


「スタッフが食事は全て用意してくれるそうです。サクヤ様のご厚意ですし、お言葉に甘えましょう」

「そうだな」


 そして俺達はその日、普通にビーチで遊んだり泳いだり、『泡魔法』で水中デートしたりと、心行くまでビーチではしゃぎ回ったのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そして翌日。砂浜で軽く準備運動をしていると、思いがけない客がやって来た。


「こんにちはー!」

「お久しぶりです」

「……なんでいるんです?」


 現れたのは俺の義姉あねであり、アヤネの実姉であるタカネとユキネだった。

 一応ここは宝条院家の敷地であり、彼女達が現れる事は想定していなかった訳ではないが、まさか本当に現れるとは。それに、彼女達ならもっとキワキワで魅力的な水着を着て来てもおかしくないのに、ラッシュガードなんて大人しい物を着用して現れるとは。

 前回との温度差が激し過ぎて違和感が凄い。……一体、何を企んでるんだ?

 もしやまた何か、アヤネに仕出かすんじゃないかと警戒していると、二人は頭を下げてきた。


「あの時はごめんなさい!」

「前回は失礼をしました」

「……えっ?」


 想定していたのとは違う二人の行動に面食らっていると、俺以上にアヤネが驚いていた。

 2人から事情を聞いてみれば、あの挨拶の後、俺の動画はすべてチェックし、身の振り方を勉強してきたそうだ。それにあの誘惑も、サクヤさんも想定していた事であり、俺が義姉の手を取らない事も望んでいた展開であることも教えて貰った。

 そして今日2人が改めて俺の前に姿を現したのは、サクヤお義母さんの思惑なのは言うまでもないことだが……。まあでも、俺としてはいつまでもギスギスするのは嫌だし、わざわざ謝りに来てくれた以上、突き返す気は無いかな。だって、俺が義姉達にされたことって、抱き着かれて誘惑されたくらいだし。逆に失礼な事をしたのは俺の方だと思うし。

 だけど、そうだな……。


「今後アヤネをイジメずに仲良くしてくれるなら、俺はそれでいいよ」

「旦那様……」


 俺が気にするべきは、それだけだ。


「「二度といじめたりしません」」

「なら俺からは良いかな。アヤネは?」

「旦那様が気にされないのなら、わたくしも大丈夫ですわ」

「そっか。アヤネは良い子だなー」

「えへへ」


 アヤネを撫でながら、改めて2人の義姉を見遣る。

 少し気まずそうだけど、そこはまあ追々ということで。


「それでえーっと……」

「タカネで構いません」

「あたしもユキネで良いわ」

「んじゃ俺も好きに呼んで。タカ義姉ねえとユキ義姉ねえでいいかな?」

「「!!」」


 今後とも仲良くしていきたいし、そのつもりで愛想笑いを浮かべてそう告げてみると、タカ義姉はその場で立ち眩みを起こし、ユキ義姉は距離を詰めて抱き着いて来た。


「うおおお!?」

「ああっ、嬉しい! あたしこんな強くて格好良い弟が欲しかったのー!」

「あ、ずるいわユキネ!」

「ちょっ! これはわたくしの旦那様ですわー!」

「そうよ、義姉だからって抱き着くの禁止ー!」

「ショウタさんは渡しませんからっ!」

「おやおや、ご主人様は節操無しですね」

「俺が悪いのか!?」


 その後、ユキ義姉と一緒になぜか俺まで正座させられてしまったが、アヤネの反応を見る限り上手くやっていけそうかな?

 ちなみにアイラ曰く、俺のレベルが一般的な上級冒険者に比べても高レベルな分、男性としての魅力が跳ね上がっていて、2人のキャパを軽く貫通したとかなんとか。そう言えば前回会った時のレベルは『204』で、今は『248』ある訳だが……そんなにか? 今の俺は異性からしたら、魅力的に映るのだろうか。まあ今までは、人前に出るときは基本ガチャを回しきった状態な事が多かったからな。

 ……うーん、よくわからんな。


 残る問題は義兄の方だけど……。まあこの場には来てないみたいだし、アレは人の話を聞かない奴だしまあいいか。とりあえず今は、アヤネが笑ってくれてるならそれでいいや。

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