無料ガチャ024回目:会議は踊る5

「それではこれより、支部長会議を始めます。今日の議題は……毎度おなじみの、いつもの件ですね」


 ミキのその投げやりな言葉に、他の支部長達も苦笑を隠せない。

 支部長会議とは本来、月に1、2回程度にしか開かれない低頻度の集まりだったのだが、ここ最近の開催回数は異常だった。その理由としては、どこぞの誰かが『初心者ダンジョン』のドロップアイテムの出現率を増加させ、モンスターのステータスも弱体化させ、あまつさえレアモンスターの出現情報並びに討伐動画を公開した事で、噂が噂を呼び他ダンジョンに拠点を構えていた冒険者達が、1つのダンジョンに大集合したためだ。

 それにより、『初心者ダンジョン』は過去に類を見ないほど大繁盛。ダンジョンの内外問わず、職員の人手は足りなくなり、協会での査定の場は常に長蛇の列。ダンジョン内でも高ランク冒険者が入り乱れる事となり、元々活動していた冒険者達との小さないざこざも頻発。仲裁のため、他のダンジョン支部から臨時要員を募る事となり、彼らは密な連絡を必要としていたのだ。


 ならばと、連携を深めるためにも会議はオークションの合間に開催してはどうかという意見が出た。

 ここ最近の第一エリアのオークションは前述の影響もあり非常に活発で、彼のチームが出品するかどうかも注目ポイントではあるが、それがなくとも出品されるスキルは増加傾向にあった。なので最近では、会議の前後にはオークションについて雑談する時間が設けられるようになっていた。


「まず、前々回に可決された『専属持ち冒険者が初心者ダンジョンに移動する際は、専属も一緒に移動する』という案。あれのおかげで、人手不足が加速したうちの協会内から、更なる代理人を立てる必要がなくなり負担が減り、落ち着きを取り戻すことが出来ました……。本当に、ありがとうございます」

『よいよい。我らは持ちつ持たれつじゃ』

『会議室は相変わらず満員の為、近くのホテルのフロアをレンタルしているのでしたね。さすがミキさん、その手際の良さには惚れ惚れします』


 『上級ダンジョン』支部長リュウと、『ハートダンジョン』支部長ヨウコが続く。彼らは皆、短い期間であれ、某冒険者とのかかわりを持っていた為、ミキの苦労を分かってあげる事が出来た。


『第三層のフィーバーは想定外でしたし、メッセージのインパクトから反響が大きかった。ただ、元々の人気の低さのおかげで、第四層ほど盛り上がらなかったのは助かりましたね』

『あの階層は、上下層と比べて異常に難易度が高いようですからね……』

『レアでもあの手強さとなれば、あのダンジョンをメイン拠点にしているチームでは討伐するのは困難でしょう。旨味が増したとはいえ、不人気のままなのは当然の結末かと』

「それでも、ステータスの減少と動画での情報公開の影響は大きいようです。『オロチ』と『ドレッドボア』は既に何件か討伐報告が届いています。そして『ベルクベア』はうちのダンジョンに所属するいくつかのチームが連合を組んで、討伐する事に成功したようです」

『ほお、もう討伐者が現れ始めましたか』

『便利な事前情報付きですからね。自分達の力量を鑑みて挑めるというのは本当に羨ましいわ』

『未発見の怪物を初見で撃破せしめるとは、アマチ少年の成長速度は計り知れんのう』


 ショウタ達が第三層を攻略し終えてから早5日。あの山と森に出現するレアモンスターの強さは、動画と共に広く知れ渡る事となった。各支部長達は第三層とは思えない強さに戦慄し、ベテランの冒険者ですら手出しする事を躊躇わせていた。

 しかし、2日前に開催されたオークションでは、ショウタが出品した『震天動地』が紹介動画付きで競りに出され、結果出品した3つともに高額で落札。通常レアの『オロチ』がドロップする事も付随して噂が広がり、尻込みしていた冒険者達に火が付いたらしい。

 結果、3種の中で一番低レベルにもかかわらず今まで避けられていた『オロチ』はこの2日間で計8匹も討伐され、その内の2匹がスキルを落としたという。


『それで例の……『レアⅡ』は彼らの前に出現したのかの?』

「いえ。どうやらどのチームでも出現させることは出来なかったそうです。血気盛んな子達は残念がっていましたが、『魔眼』持ちは適正レベルを易々と飛び越える怪物ばかり。私としては出現しなくて安心しました」

『うーむ、いかんのう。『魔眼』といっても効果はピンキリじゃ。もしかしたらそやつらは、『コカトリス』の『石化』と比べているのかもしれん』

『コカトリスですか。確か奴に睨まれると、手足の先から徐々に石化していくという……』

『うむ。それくらいなら問題ないと踏んでるのじゃろう。じゃが『ラミア』の『魔眼』は恐らく最上位じゃ。ミキちゃんもそこは注意しておるのじゃろう?』

「はい。動画でもデータベースでも、『即死級』と記載しているのですが、伝わっていないのかもしれません」


 一戦目の、一瞬で『石化』してしまうショウタの様子を収めた映像は、支部長達のみが閲覧出来ていた。これは、ショウタの名誉のためお蔵入りとなっているのだが、そのせいで支部長側と冒険者側で危機感の相違が生まれてしまっていた。


『第三層攻略に火が付いたのでしたら、改めて告知した方が良さそうですね。今回『オロチ』を討伐したチームの情報はありますか?』

「はい、こちらです」

『あ、うちの支部から出張してる子達がいます。私から専属経由で注意するよう呼びかけますね』

『僕も該当するチームを見つけた。この2チームは任せてくれ』

『ああ、彼らはうちの子だね。この3組は私が対応しよう』

「では、私も改めて気を付けるよう『初心者ダンジョン』所属の冒険者に一斉通知を送ります。これで事故が減ってくれると良いんですけど……」


 その後も支部長達は今後の『初心者ダンジョン』を円滑に運営していくための方針を固める為、何度も話し合い、意見を交わし合った。


『そういえばミキちゃんや。少年たちは今どこにおるんじゃ?』

「あの子達でしたら、昨日からサクヤの……」

『ええ、宝条院家が持つプライベートビーチに招待させて頂きましたわ』

『というと、小笠原諸島ですかな?』

『ええ。あそこなら一般の方はいませんし、他所様の目を気にせずゆっくり羽を伸ばせるかと』


 本来は予定が決まらず、家でゴロゴロして怠惰に過ごす予定だったが、のお礼として、宝条院家が管理するプライベートジェットを使って、昨日の朝現地に向かったはずだった。


『しかしあそこはサクヤちゃんのお気に入りだったはずじゃろう? そこへの立ち入りを許可するとは、お主もかなり入れ込んどるようじゃな』

『ええ。なにせあの子から、とってもを貰ったものですから』


 頬を染め妖艶に笑うサクヤを視て、各々が茶化したり嫉妬したり勘繰ったりする中、ミキは誰にも聞こえない声量で呟いた。


「……あれを選んだのはあなたでしょうに」

『しかし、昨日から旅行となると……。続きの第五層攻略はもう少し先になりそうじゃな』

『彼は何を見せてくれるのでしょうか。楽しみですね』


 会議も終わりに近づき、団欒とした空気が広がる中、サクヤが何かを思い出したかのように口を開く。


『そうでした、皆様に2点ご報告が』

『おお、サクヤ様。どういったお話でしょうか?』


 サクヤに心酔しきった表情で続きを促すのは『機械ダンジョン』支部長、サクタロウ。彼のダンジョンにはサクヤの実子である長男ユズルがダンジョン攻略に勤しんでおり、その関係はズブズブだった。


『まず1つ目です。今年に出現したはずの100個のダンジョンの内、8個のダンジョンはついに見つからず仕舞いでしたが……。やはり、第一エリアには存在しないようです』

『おお、そうか! それは朗報じゃ。調査を率先して行ってくれて助かるわい』

『第二から第四も、同様に見つかっていないようですね。となると国外でか……』

『国内に無くて一安心といった所ですが……。そう暢気な事も言ってられませんね。そろそろ、『スタンピード』が起きる時期ですから』


 『スタンピード』は2~3か月の間ダンジョンに入場せず、モンスターを討伐しなければ起きるとされていた。現状分かっている情報は少ないが、彼らはその情報だけを頼りに、最初の災害以降再発防止に努め、ダンジョンは出現後早期に発見し、厳重に管理してきていた。

 しかし、今年出現したダンジョンはどう探しても92個しか見つかっていないのである。今までもずっと100個ずつ出現したのだから、必ずあるはずだと、世界中が血眼になって探していた。


『最悪、過去に『スタンピード』によって占領された地域に、追加で発生している可能性も否めんな』

『現地にしてみれば地獄じゃが、見つかってない以上それが一番無難かもしれんの……』


 しんみりとした空気を断ち切るように、サクヤは明るい声で次の話題へと切り替えた。

 だが、その内容もまた明るい話とはまるで無縁だった。


『では2つ目です。最近息子の活躍で、国内のみならず海外も騒がしいようです。それで近々、各国があの子を調べるために、専門の人材を派遣するそうですね』

『おお、流石サクヤ様。素晴らしい情報網をお持ちだ……!』

「……ついに来たのね」

『やはり、放っておいてはくれんか』

『仕方がないでしょう。Aランクを超えた段階で、名が知れ渡るのは時間の問題でした』

『それでサクヤさん、一体どこの国が来るんです?』

『バチカンからは『聖印騎士』。フランスからは『撃滅聖女』。そしてアメリカからは『雷鳴の魔女』と『スピードスター』が来日を予定しているそうですわ』


 支部長達は、新たな火種がやって来る事に覚悟を決めるのだった。

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これにて第9章完結。10章も変わらず毎日更新していきますので、応援のほどよろしくお願いします!



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