ガチャ273回目:秘密の洞窟

「え、森の中に洞窟が?」

「そう。ちょっと開けた場所に洞窟があったんだけど、あの規模の洞窟を外から見逃すなんてあるのかって不思議に思ってさ」


 エンリルの視界で見る限り、森がずっと続いていると思って近付いたら、突然洞窟が現れたのだ。あまりに衝撃的だったので警戒も含めてエンリルは戻したのだが……。


「それは確かに警戒が必要ですね」

「ここに出没するのはクマですわ。冬眠用の洞窟があってもおかしくはないのではありませんこと?」

「えー、そこまでリアルに寄せて来るかな?」

「ショウタさん、警戒は必要ですがここで考えても答えは出ません。ひとまず直接行ってみましょう」

「そうだな。マップ情報的にもモンスターの赤点は無いみたいだし」


 森を抜けると、そこには巨大な洞窟が口を開けていた。洞窟はまるで人工的に山をくり抜いたように広がっていて、6メートルのエンキですら軽々と入れる広さをしていた。


「たしかに不自然です。いくら傾斜の緩い斜面と、背の高い樹が生えているとはいえ、この規模の洞窟が顔を出していれば、エンキに乗らずとも見えるはずなのですが……」

「それに旦那様は、エンリルの視界で飛んでいる時も、この洞窟は視えていなかったんですわよね?」

「ああ」

「じゃあ、近付いたら洞窟が突然現れたって感じ?」

「そうなるかな」

「至近距離でないと見つからない洞窟ですか……。ショウタさん、ここはマップで言うとどの程度の位置ですか?」

「確実に、ヘビやイノシシのゾーンは突破しているはずだ。それと山の中腹くらいのはずかな」


 改めてマップに目を向けてみれば、そこにはしっかりと洞窟内にも別の道がある事が記されていた。だが、この洞窟は第一層や『アンラッキーホール』と違って灯が無い。完全に真っ暗なため、ほとんど先が見えず、マップに反映される情報も外の光が差し込む狭い範囲に限られていた。

 ここで俺が取れる選択肢は3つ。

 1つ目は、洞窟を無視して頂上を目指すというもの。

 2つ目は、この周辺を探索してクマと戦う事を優先し、相手の力量を正確に把握してから洞窟を攻略。

 3つ目は、このまま洞窟を攻略する事だ。


 さて、どうしたものか……。

 俺は『思考加速』を駆使して3つのメリットとデメリットを天秤に賭けた。

 

「……よし、洞窟を攻略しよう」

「良いの?」

「ああ、マップがあるから同じ場所を訪れるのは容易だ。だけどこの場に再度訪れたときに、もう一度姿を現してくれる保証はどこにもない。遠くからでは知覚できない理由が分からない以上、逃す手はない」

「まあ、それもそうね。ダンジョンでは何が起きるか分からないし、何が条件で出てきたのかも分からないなら、行くしかないか」

「エンキ、前を頼む。エンリルはエンキについてやってくれ」

『ゴ!』

『ポポ!』

「マキ、アヤネ。『極光魔法』で明かりを頼めるか」

「はいっ!」

「はいですわー!」


 登って来る時と同じ陣形で、俺達は洞窟の中へと入って行った。

 そうして慎重に歩く事数十分。緩やかに曲がりはするものの、直線的な道のりを進み続けた先に巨大な空洞があった。中には3つの祭壇と3つのレリーフがあり、祭壇の中央には小さな台座があった。

 中央の台座には特に怪しい点は無かったが、レリーフにはそれぞれヘビ、イノシシ、クマの模様が模られていた。

 ……なんだ? この空間は。


「行き止まり、ですね」

「なんか、儀式が行われていそうな場所ね」

「ふむ……。モンスターもいませんし、安全そうではありますが……」

「あのレリーフ、まるで『鍵』入りの宝箱みたいですわね」

「……そうだな」


 俺はヘビのレリーフ前にある祭壇に手を乗せてみる。しかし反応はない。

 同じようにイノシシ、クマと触れてみるが変化はなかった。……トロフィーではないのか。全て揃っていないからか? しかし、そうなると3つに分かれている必要はない。

 なら……。


「アイラ、『酒神の盃』を1個出してくれるか」

「畏まりました」


 俺は受け取った盃を、ヘビのレリーフ前にある祭壇に設置した。


「……おおっ!」


 ヘビのレリーフが突如として輝き、そこから祭壇を通って中央の台座へと光が伸びた。


「なるほど、そういうことか」

「これは新しいパターンですね」

「まさかの消耗品ってこと!?」

「ど、どういう事ですのー?」


 俺は無造作に盃を持ち上げてみると、光はゆっくりと消えていった。


「つまり、3種の強化体が落とすアイテムを捧げないと、ここのギミックは作動しないってことさ」

「ほええ。それにすぐ気付くなんて、旦那様すごいですわ!」


 アイラに盃を返却しつつ、アヤネの頭を撫でる。よーしよーし。


「まあ、問題はこれを使って何が出てくるか、なんだよな」

「鍵付きの宝箱、ではないのでしょうか?」

「どうかな……。まったく別の物が出てくる可能性も否めないし、そもそもこれを使った場合捧げたアイテム類が消耗されるかもわからない。悩ましい所だ」

「強化体を倒すのって、それなりに時間を消耗しちゃうもんね。あたしとしては盃が消えるのは困るから、消えないでほしい所なんだけど……」

「俺も、ようやく馴染んできたこの脚装備が消えるのは困るかなぁ……」


 履き心地は今のところ最高だし、これを失うとまた元の装備に戻る訳で、彼女達が付けてくれたファーが無駄になるのは忍びない。まあまた倒せば良いんだけど。 


「まあとにかく、ここは全ての強化体を倒して初めて資格が得られる場所みたいだから、一度戻ろう。んで、また訪れたときに存在しなかったら、他に宝箱の痕跡がないか探索する方向で」


 皆が頷くのを確認して、俺達は洞窟の外へと向かった。

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