ガチャ272回目:山へ
第三層攻略、四日目の朝。
俺達は第三層の入口で山を見上げていた。山頂付近は雲のようなので包まれていて、その先がどうなっているのかはわからない。しかしシャンプーハットみたいなあの雲、いつ見てもあの形状だが、風が吹いてないからか? 微動だにしてないのは何かあるよな。どうなってるんだか。
「それで、ショウタ君。今日はどうするー?」
「まずはまっすぐ突き進む。クマ地帯に突入したら、周囲の環境やクマの強さ次第で動きを変えてくつもり」
「おっけー!」
「わかりました!」
「それと、道中の最初はヘビやイノシシが混合で出て来る。マップ情報的に手前のデータしかないけど、どうやら密集してるようだ。だからエンキが動けるように、今回は歩いて行こうと思う」
皆が頷いてくれる。
「ああでも、イリスは坂道を登るのは大変だと思うし、アヤネが抱えてくれるか?」
「はいですわ!」
『プルル』
「道中のモンスターは如何されますか?」
「勿論、今回はレアモンスター関係ないし、全員好きに戦って良いよ」
「畏まりました」
「腕が鳴るわ!」
「そんじゃ、出発!」
まずはエンリルに先行してもらい、マッピングの目になって貰う。それに少し遅れる形でエンキ、俺の順に続き左側面にはアキとマキ。右側面はアヤネとアイラが並ぶ。
正五角形の様な隊列で中心に俺がいる感じだな。森と山という地形に加えて散発的な襲撃があるため、普通なら隊列を乱しやすい環境だ。だが正面に立つエンキがとにかく目立つこともあって、隊列が乱れる事はなく、俺達は進み続けた。
そうして緩やかな坂道を登りつつ、ヘビやイノシシの襲撃を撃退していると、先行していたエンリルの視界が突如開けた。
「ピュィー!」
『ポポポ!』
口笛を吹いて合図を送ると、エンリルが旋回して戻ってくる。腕を上げると、エンリルが小さく羽ばたいてそこに止まった。気分としては鳥使いだ。
隊列を維持したままアキは警戒した様子で聞いてくる。
「何かあった?」
「この山って、頂上付近まで森が続いていたよな?」
「ええ、そのはずだけど」
……つい先ほど見た光景と、出発前に見た景色を思い返すが……。どうにも噛み合わない。
「なあ、確認したいんだけど、このダンジョンが出来た当初はこの階層も協会員が調査したんだよな。その時はどんな情報が集まったんだ?」
「うーん、山の周辺にはヘビやイノシシがいて、中心部にはクマが出没するって情報。それからどいつもこいつも一癖あるくせに、この階層の環境自体が戦いにくいせいもあって、評価は低かったかな」
「そして数日の調査の後に、遠回りですが安全な今のルートと次の階層が発見されました。そして第四層の狩場としての有用性に注目が集まり、それからはまるで調査が進んでいないのが現状ですね。モンスターブレイク……今で言うところのスタンピードの抑制は、特定の階層で狩りをしていなくても問題はないという見解でしたから。この階層は、安全のためにも手を出さないのが妥当だと判断されたようです」
「つまり、中央の山付近の情報って、全くと言って無い訳?」
アキとマキが顔を見合わせ、頷き合った。
「はい、ありません」
「ドローンを飛ばしたりとかは……」
「「あっ」」
2人は気まずそうに顔を見合わせた。
なんだなんだ?
「……本当は『初心者ダンジョン』に入るときに、ビギナーは説明を受けるんだけど、3年目ということもあってショウタ君は免除されてたんだったわね。基本的にダンジョンでドローンは禁止されてるの」
「えぇ、なんで!?」
カメラとか調理器具、それどころかコンテナハウスまで許されてるし、それらはちゃんと機能してる。機械関係がダメとは思えないんだけど。
「とあるダンジョンにね、高低差のすっごい激しい階層があるのよ。それでマップ情報を確保するためにドローンを飛ばしたことがあってね。そしてその検証中に、モンスターと衝突する事故が起きたの」
「ドローンと衝突って……飛行型のモンスター?」
「そ。で、ドローンがいけなかったのか、当たり所が悪かったのかは分からないけど、周辺にいた同種のモンスター達が一斉に吠えてね。噂では階層中のモンスターを引き連れて、操縦者に一斉に襲いかかってきたらしいわ。それ以来、ダンジョンでドローンを使うのはご法度。あたしもショウタ君がドローンなんて使わずに自分の足で調査する事を知ってたから、改めて教えて無かったの」
「なるほど……。でもエンリルも役割としては似たようなもんじゃない?」
「「うっ」」
どうやら失念していたらしい。
さっきの『あっ』はコレも含まれてるな。
「まあ怒る気はないよ。それでそれって、いつの話?」
「丁度10年前。ダンジョンが世界に解き放たれた時よ。まあ、あの頃と今じゃ、分かってる情報も違うし、いつまでも禁止にして原因の特定をしないで畏れたままにするのはどうかと思うけどね」
周辺モンスターが一斉に、か。となると同種モンスターを大量に吊り出せるって事だよな。100体狩りをするなら丁度いい餌じゃないか? まあ、飛行型全員がそうなのか、ダンジョンモンスター全部がそうなのか、ドローン限定なのか、そのモンスターだけがそうなのかは検証してみない事には分からんが。
「それはどこのダンジョンで、相手は何?」
「もー、ショウタ君、試してみる気満々じゃん」
「ふふ。ダンジョンNo.045『四季ダンジョン』に潜むハーピィですよ」
「へぇ……。そのうち行ってみたいな」
ハーピィか。この前も名前があがったし、次はそこのダンジョンを攻略してみるのもアリかもしれないな。ひとまず、今回の狩りでは途中でエンリルを先行させてバードアタックやらせてみるか。
「気になってるところ悪いけど、あたしはそこのダンジョン、お勧めしないわよ」
「え、なんで?」
「最初期ダンジョンってね、どこもかしこも難易度がやたらと高いのよ。その上、初年は協会が発足されるのに時間がかかったし、対応が後手に回ってね。本格的に調査に乗り出そうとした矢先に100番台の出現。で、そっちも厄介な『上級ダンジョン』とかも混じってて、果てにはスタンピード。てんやわんやよ」
「ですので、『上級ダンジョン』を含め『四季ダンジョン』などの高難度ダンジョンは、最下層が確認されていません。何層あるかもわかってないんです」
「マジか……」
てか、『上級ダンジョン』はその名の通り最下層まで攻略出来ていないのは想定していたけど、『四季ダンジョン』もそうなのか。そんなに難易度高かったんだな……。
攻略のし甲斐はあるけど、長丁場が確定しているダンジョンは、『鍵』集めの観点からしてみれば避けるべきってことだよな。近場のダンジョンから、もしも低層のダンジョンが無かった場合は新しく見つけるか根気よく攻略していくしか無い訳だ。
……ん? 新しく?
「そういえば、今ってダンジョンが出てから10年とちょっと経ったんだよね」
「そうなりますね」
「なら、1000番台のダンジョンも、もう出て来てるはずだよね。日本には出てきたの?」
「そうねぇ。こういうのもサクヤさんの得意分野だけど、今のところ日本には出てきてないって話だったかな? でも新規ダンジョンの発見って、なかなか難しいのよ」
「秘境に出て来てた場合、それだけでスタンピード確定といわれるほどですからね」
「確か……お母様の所にいた頃に、教えて貰いましたの、出現タイミングから2週間ほどで、既に8割ほど見つかっていたそうですわ。あれから1ヵ月以上経った今なら、もうほとんど見つかっていると思いますの」
「そっかー」
日本に無いのなら、既存のダンジョンを回るしかないか。
「で、話は戻るけど、どうしてドローンの話が出たんだっけ」
「ああ、そうだった」
俺は、エンリルの視界を借りてみた光景を皆に伝えた。
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