ガチャ256回目:準備期間

 夕食を終えた俺は、再びリビングで寛いでいた。

 何をするでもなくぼーっとしていると、マキが隣にやって来る。


「ショウタさん」

「んー?」

「お母さんから正式に許可が降りました。『アンラッキーホール』は今後、ショウタさんの管理下となり、他の冒険者が勝手に入ると罰則が下るようになりました」

「お、そっか。ご苦労様」


 にしても罰則って重いな。けど、勝手に入られたら困るし、そのくらいしないと好奇心旺盛な奴がやって来ちゃうか。

 マキを労っていると、反対側にアキが座った。


「それとね、協会とは別に警備の必要性が出てきたから、入り口を囲むように簡易のゲートが作られるみたいよ」

「え!? そんな大掛かりな事になるの?」

「といっても、『上級ダンジョン』のような中からの暴走を阻む為じゃなくて、外からの侵入を拒むためのものだから、そんなに大袈裟な作りじゃないわ。ちょうど建設途中で放棄された壁もある事だし、再利用する形ね」

「ただ、協会に任せてはゲートのデザイン次第で車での進入が出来ないので、そこは私達で注文を出しておきました」

「今日のエンキみたいに、スライムを持って帰るような事案がまた起きないとも限らないしね。ああいうのは他に見られたら困るし、ゲートとダンジョンの入り口のあいだには、ちょっとしたスペースが設けられる作りよ」


 二人から簡易的な設計図を見せてもらった。

 ダンジョンの入り口付近は外部から侵入出来ないようしっかりと覆われているし、正面入口はうちの車の形状に合わせた大きめの門が設置されている。彼女達は大袈裟じゃないとは言ってたけど、俺としては大掛かりすぎる仕掛けに驚きを隠せない。

 これが『A+』ランクの権限なのか……。


「これ、設立費用はどうなってるの?」

「うちと協会で折半ね。ショウタ君の稼ぎで協会も潤ってるから、心配いらないわ」

「そっか」


 そうして二人と他愛のない話をしていると、アヤネとアイラがお風呂から上がって来た。

 うちの風呂は狭くはないが、一度に全員が入れるほどの広さもないので、2回から3回に分けて入る。最初は俺も1人で入っていたんだが、1回目の旅行から帰って以降は、誰かしらが付き添うようになっていた。メンバーは日替わりだけど、多分彼女達の間で順番が決められてるんだろうな。


「旦那様、あがりましたわ」

「ああ」


 ほんのり火照ったアヤネとアイラをじっと見る。パジャマ姿のアヤネと、こんな時でもメイド服を外さないアイラに見惚れていると、両隣から腕を引っ張られる。そこで我に返ると、1つ思い出した事があった。


「ああ、アイラ。持ち運び用の家の件はどうなってる?」

「その件でしたら、旅行前に業者に発注をしました。『A+』ランクの特権を活用したところ、急ピッチで作業が開始され、明日納入予定です」

「はっや」

「ですので、明日は受け取りに行かねばなりません」

「そっか。ちなみにそれは、ちゃんと腰巾着に入るの?」

「はい。エンキのブロック作成能力を使って、コンテナハウスと同じ大きさの岩の塊を用意してもらい、それを出し入れする事で確認しています」


 いつの間にそんな事を……。流石、用意周到だな。


「恐れ入ります」

「……アイラ」


 心を読んで先読みのドヤ顔を決める彼女を、手招きする。


「なんでしょう」

「いつもありがとうな」

「……っ!」


 頭を撫でながら労うと、不意打ちが決まったのか硬直した。いつも褒めようとすると先回りされるから、改めて伝えてみたんだが……。どうやら効果覿面らしい。

 反応も面白いし、たまにはやってやろう。


「んじゃあ、本格的な探索は明後日からにしようか」

「ショウタさん、『初心者ダンジョン』の攻略を再開されるんですよね?」

「うん」

「じゃあどっちに行くの? 第三層? それとも最下層の第五層?」

「んー……。まだ正直苦手意識はあるけど、いい加減なんとかしたいし、修行の成果も出てることを確認したいから……第三層で」

「リベンジですわね!」

「うん。だから明日は、本番前の最終調整をしようかなって」


 『知覚強化Ⅱ』と『魔力感知』のスキルを併用することで、目を閉じながらでも物理と魔法、どちらの攻撃にも対処出来るよう修行を積んできた。対ラミア対策として頑張ってきたけど、『予知Ⅱ』なしに死角からの攻撃にもある程度対処が出来るようになったのは大きい。

 また、常に『魔力感知』を使うよう意識していたおかげもあってか、魔法が発動する直前の余波すら、目を閉じていても感覚的に視えるようにまでなっていた。


「では、協会が契約している専用の体育館を貸し切りにしましょう」

「そうね。そこなら十分な広さをしてるし、ショウタ君の修業の仕上げにはもってこいね。『スパルタモード』で行くわよ?」

「ああ、覚悟は出来てる」


 『スパルタモード』。

 それは、目を瞑っている俺に対し、5人が多方面から攻撃を仕掛けてくる修行方法だ。勿論本気の殺意盛り盛りの攻撃ではなく、無差別な攻撃にも対処できるようにするための修行だ。

 近距離攻撃兼、ラミアを模したターゲット役のエンキ。遠距離からは『水魔法』を使うアヤネとマキ。『風魔法』を使うアイラとエンリルという布陣だ。最後にアキは高所から全体の動きを注視し、カメラを使いつつアドバイスを投げる役だ。

 アキだけは『魔力回復』のスキルがないからな。申し訳ないがアドバイス役に徹してもらっている。


 ちなみに『スパルタモード』には1セット20分という制限時間の他に、『壱之型』『弐之型』『参之型』と3つの種類がある。

 『壱之型』は俺がひたすらに攻撃を回避し続け、魔法の直撃を一定回数以下にまで抑えるというもの。

 『弐之型』は『壱之型』に加え、木刀二刀流による反撃で有効打をエンキに与えるというもの。

 『参之型』は『弐之型』の亜種で、鏃を潰した弓矢を使って有効打をエンキに与えるというもの。


 この中では、魔法に対して攻撃も防御も出来ない上に、狙いを定めるために構えと溜めが必要な『参之型』が一番大変だったりする。


「イイわね。それじゃ明日は、『壱之型』3セットの後、『弐之型』と『参之型』を1セット。これを午前に1回、午後に2回としましょうか」

「了解」

『ゴゴ!』

「最近のショウタさん、魔法が全然当たらないんですよね。良い事ではあるんですけど。明日こそ当ててみせます!」

「そうですわ。今度こそ、旦那様をびしょ濡れにして差し上げますわ!」

「『風魔法』がぶつけられて吹き飛ぶご主人様の姿は非常に愉快……ごほん。痛快でしたので、合法的に当てられるこの修行は楽しみでした」

「おいメイド、言い直せてないぞ」

『ポポ』


 問題があるとすれば、最近は攻撃役である彼女達の熱が、ヒートアップして来てるところにあるんだよな。最初は本気ではなく加減して魔法を使ってきたはずなのに……。どうしてこうなった。

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