ガチャ257回目:第三層へ
「と言う訳です、義母さん」
「……そう、ついにリベンジするのね」
義母さん呼びにまだ慣れてないのか、顔を赤らめるミキ支部長に、第三層攻略を宣言する。義母さんには既に、昨日撮影した対ラミア戦の修業の様子を、動画にして見て貰っていた。
義母さんには『ラミア』戦そのものの未編集動画も確認済みのため、奴の身体能力や動きは熟知していた。その上で、問題ないと判断してもらい、この度GOサインを出してもらったのだ。
「準備は万端のようだけど、戦いに絶対はないわ。気を付けて行ってらっしゃい」
「はい。とりあえず1度『ラミア』を叩いて、問題なければ今日の内にヘビ地帯の強化体は終わらせるつもりです。その後、可能であれば第三層辺りのキャンプ地で例の家を建てて、使い心地を検証しようかなとおもってるんですけど……。キャンプ地、どんな感じです?」
「お陰様で大盛況よ。第四層の入口と第三層の出口だけでは収まりきらずに、第四層の出口や第五層の入口付近まで埋まってしまっているわ」
「おおぅ……」
第五層にまで波及しちゃってるのか。大丈夫かな。
「あ、ショウタさん。第五層も、元々はそこそこキャンプをする人がいましたから、立地的には問題ないんです」
「そうなんだ?」
「一応『初心者ダンジョン』の最奥だからね。それなりに難易度が高い分、卒業前の冒険者達である程度賑わってはいたのよ」
「そう。だから気にしなくて良いわ」
「へぇ……」
どんなところなんだろう。早く覗いてみたいな。
「そんなに混みあっているのなら、いっその事第三層入口とかにキャンプを構えた方が、都合がいいのかな?」
「アマチ君、出入り口の安全圏は階層によって広さが異なるわ。第三層の入口はかなり狭い方なのよ。だからテント……というかコンテナハウスを建てるなら、第二層の出口か前回と同じように第四層の特別区域を利用なさい」
「うーん、第四層か……」
「渋るのね。あまり居心地が良くなかったのかしら」
「いえ、良かったですよ。ただ、あそこで長期キャンプをしてる人達ってオーク肉ばかり食べてる人たちですよね? そんなところに彼女達を連れて長居したくないと言うか……」
「あらあら」
熱い視線が前後左右から送られてくるが、本心を言ってるだけなので甘んじて受け止める。
「そういう事なら仕方がないわね。こちらも、あなた達が第二層の出口付近でキャンプを建てることを告知しておくわ。見張りの人員を手配できるけど、どうする?」
「いえ、大丈夫です。うちには寝ずの番をしてくれるエンキ達がいるんで」
『ゴ』
『ポポ』
『プルル』
「そう。……それにしても、今度はスライム? 話には聞いてたけど、ゴーレムの次はモンスターとか、君も節操がないわね。次は何が増えるのかしら」
「いやー、イリスは元々予定になかったと言うか、エンキが拾って来たと言うか」
『ゴ、ゴゴ』
『プルプル』
「まあ良いわ。では第三層攻略、よろしくお願いね。けど、いくら専用の修行を積んできたからと言って慢心はしないように。本番も練習通りに行くとは限らないんですからね」
「はい、義母さん。行って来ます」
「行ってらっしゃい。ここであなた達の無事を祈っているわ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
第三層にやってきた俺は、エンキを地面に降ろして命令を下す。
「エンキ、巨人形態」
『ゴゴ!』
エンキが大量の砂を操り、大型の巨人形態へと移行する。
スキルが『砂鉄操作』へと進化しても、そちらはまだLv1でしかなく、全身鉄で覆われた巨人になるのは練度の問題で難しい。せいぜい、1メートルちょっとが限界だった。
だが、進化しても元となったスキルである『砂塵操作LvMAX』の技能はそのまま受け継がれている為、拳や足先のみを鉄にした岩の巨人が出来上がった。その大きさはLv8の時と同じく6メートルちょっとだが、バランスの問題でこのサイズがちょうどいいらしい。
エンキの腕の中や頭の上に陣取った俺達は、前回同様第三層の探索を開始した。
「エンキ、ここから少し左に向かって進んで、指示があるまで直進してくれ」
『ゴゴ!』
まずは前回同様、出現地点周辺のマップ情報から埋めていく事にした。案の定というか、第三層は以前と変わらず冒険者達からは見向きもされていない階層の為か、中途半端に埋まったマップデータにも関わらず、そこにはすでにいくつかの緑色の反応……。宝箱が存在を主張していた。
だが、今はそれに目を奪われている場合ではない。俺はエンキの頭上で座禅を組み『鷹の目』でマップを埋めつつイメージトレーニングだ。その間エンキはヘビを踏みつぶし進撃し、登ってきた連中はエンリルが倒す。アイラはドロップの回収兼、討伐数のカウント役だ。
そうして、前回の探索と合わせて1カ所目のヘビ地帯のマップ制覇率が7割を超えた辺りで、アイラが95匹目をカウントした。エンキに方向転換させ、沼地に向かって一直線に歩を進めさせる。
タイミングが良かったのか、丁度沼地に差し掛かったところで、エンキの足元から煙が立ち昇った。
道中、100匹中5匹はイリスに倒してもらったが、そちらもきちんと100匹カウントには含まれていた上、ドロップも全てしていたのは僥倖だった。
「さて……行くか」
「いってらっしゃい」
「お気をつけて」
「ファイトですわ!」
「観戦は出来ませんが、心から応援しております」
「ああ!」
エンキから飛び降り、沼地の中央で膨らんでいく煙をみやる。
あそこから現れるのは『オロチ』。ステータスはこんな感じだったな。
*****
名前:オロチ
レベル:45
腕力:600
器用:800
頑丈:450
俊敏:50
魔力:100
知力:100
運:なし
装備:なし
スキル:震天動地、水流操作Lv1
ドロップ:オロチの皮、オロチの霊丹
魔石:大
*****
前回は開幕麻痺を食らって、一方的に殴られたものだが……。今回はそうはいかないぞ。
相手は『邪眼』持ちだ。視線を合わせた時点でアウトなのは『ラミア』と同じ。本番前の練習相手としてはちょうど良いだろう。
目を閉じ、深呼吸を入れる。
「ふぅー……」
前方から、明らかに巨大な質量が沼地に落ち、異物が誕生したことを耳と肌で感知した。
「さあ、リベンジマッチだ」
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