ガチャ254回目:ジェムシート

「ふぃー……」

「ふふ、お疲れ様ですわ、旦那様」

「1週間ぶりのダンジョン、楽しかったですか?」

「ああ、満足したよ」

「リハビリにしては濃すぎだけどねー」


 俺達は今、アイラが運転するキャンピングカーに備え付けられたベッドに寝転がっていた。両隣にはアキとマキがいて、アヤネは掛布団代わりに上に乗っかり、三方向から甘やかされている。

 今回の旅行では現地でちょっとしたトラブルに巻き込まれたのだが、お陰様で彼女達との関係がより一層深まったように思う。それを語るのはまたいつかという事にして、今はこの幸せな時間を堪能しておきたい。


『ポポ』

『ゴゴ?』

『ポ?』

『ゴゴー』


 視界の端では、エンキとエンリル、そしてリヴァちゃんを含めた他のゴーレム達が隅っこに集まって何かゴソゴソとしていた。今までエンキは、手持ち無沙汰な時はポツンと虚空を見つめていたりもしたけど、エンリルを迎え入れてからは楽しそうにしている場面が増えた気がする。

 旅行中もエンキは常にエンリルと一緒に行動していたし、仲間を増やしてあげれてよかったと思う。あとは……『水流操作』を大量に入手出来る機会があれば水属性のコアⅣゴーレムも仲間に迎え入れてやりたいし、まだ見ぬ他の属性の操作スキルが見つかれば、さらに増やすこともやぶさかではない。

 まあ、そうするにも『魔力超回復』のレベルを上げるのが最優先なんだが……。最悪、ガチャが機能しなくても『圧縮』で普通の『魔力回復』をたくさん集めればなんとかなりそうだから、その点はあまり心配していない。


『ゴ。ゴゴ』

『ポポッ』


 そんな風に考え事をしていると、2人がベッドに上がってきて俺の枕をイジイジし始めた。


「んー? ……おぉ?」


 すると、頭を預けているはずの枕が、急に別物に変化した感覚を受けた。

 今使っていたはずの枕はアイラが調達してきたもので、素材にダンジョン産の鳥の羽毛が使用されているとかで、初めて使用した時は秒で眠りに落ちたのだが……。今感じるこの快適度、下手すると先ほどまでの羽毛枕よりも上かもしれない。

 やば、眠くなってきた……。


「ぐぅ……」

「ちょ、これ!?」

「ショ、ショウタさん! 起きてください!」

「死んじゃ駄目ですわー!」

『ゴゴ。ゴゴ』

『ポポポ』

「んぁ?」


 せっかく夢見心地で快適だったのに、耳元で騒がれてガクガク揺らされたら、目を覚ますしかないじゃないか。


「どうしたのさ……」

「ショウタさん、大丈夫ですか!? 頭が痛むとか、感覚がないとか!」

「ぇ? 何の話?」

「大丈夫なのね? とりあえず頭をあげなさい!」

「ぐぇっ」


 両腕を思いっきり引っ張られ、身体が変な方向にねじられる。


「いつつ……。もう、なにする……んん?」


 先ほどまで枕があると思っていた場所に、見慣れぬ物体が鎮座していた。

 いや、目をこすってよく見れば、それは虹色の粘体で、プルプルと震えている。


『プルル』

「あれ、お前……」


 エンキに捨ててくるよう命じた、『虹色スライム』だった。


『ゴ、ゴ』

「エンキ……捨てずに持ってきたのか?」

『ゴ……』


 色々と突っ込みたいところはあったが、まずは落ち込むエンキの頭をぽんぽんと叩いて元気づける。


「別に隠してた事については怒ってないって。さっきは嫌な事させたからな。おあいこだ」

『ゴゴ』

「でも、ダンジョンの外に連れ出しても消えなかったんだな?」

『ゴゴゴ』

『ポポ』

『プルル』


 ううむ。エンキやエンリルは、魔石で繋がっているからか何を言っているのかなんとなくで分かるんだが、スライムは何を伝えようとしているのか、さっぱりわからないな。けど元をたどれば魔石に類する存在である彼らは、スライムと意思の疎通が出来てるみたいだった。


「とりあえず、エンキ、エンリル。改めて確認するが、こいつに害意はないんだよな?」


 まあ俺も、敵意は感じていないんだが。


『ゴ』

『ポ』

「ならいいんだ。でもなんで枕に?」

『ゴゴ』

『ポポ~』


 そうして聞き取りをしていくと、俺が魔力を与えようとし始めた辺りから、『虹色スライム』とある程度意思疎通が出来るようになったことが分かり、捨てるのが忍びないと思ったエンキが外に連れて行ったらしい。そしてスライムが消えなかった事を確認して、車の近くに隠して、改めて戻ってきた時に迎え入れたんだとか。

 エンキやエンリルは自由意志があるから、その内犬猫でも連れて来るんじゃないかって話を彼女達としたこともあったんだが、まさかモンスターを連れて来るとは。


 んで、枕にしたのはTVや買い物中にジェル枕を見たので、思い付きでやってみたらしい。

 まあ、気持ち良かったから良しとしよう。


「まあ俺もコイツの事は気に入ってたし、ダンジョンの外に連れ出しても問題なかったという発見は大きい。けど、次からは内緒にするんじゃなくて、ちゃんと報告するようにな。皆もびっくりするからな。いいな?」

『ゴゴ~……』

『ポ~……』


 頭を下げた2匹を改めて撫でる。こうなった理由は分からんけど、この発見は大きい。

 『魔石操作』が上手く機能したのか、それとも『虹色スライム』が『レベルガチャ』を失って抜け殻となったからなのか。はたまた『管理者の鍵』を持っている俺だったからか、最初から無害だったのか。

 この辺の検証は……ちと試せそうにないな。もし検証のために実験し出したら、成功するたびに家族が増えるんだもんな。終わった後改めて野生に返すわけにもいかんし。


『プルプル』


 どうやら俺の言葉は一方的に伝わってはいるらしく、スライムがプルプル震えている。

 

「と言う訳らしいから、この子は今日からうちの子ね」

「はぁ……」

「またショウタ君はとんでもないことを平然と引き起こすのね」


 姉妹から呆れた視線を頂戴するが、起きたものはしょうがない。

 そして案の定アヤネは目を輝かせていた。


「旦那様。この子、抱きしめてもいいんですの?」

「んー、良いよな?」

『ゴ、ゴ』

『プルプル』

『ポ』

「良いって」

「ぎゅー! ひんやりしていて気持ち良いですわ……!」

『プルル』


 その感触は俺も後で再確認させてもらうとして、いつのまにかアイラが近くまで来ていた。

 そういえば車はさっきから動いていない。どうやらとっくに家には着いていたようだな。


「ご主人様」

「ん?」

「このスライムの名前は決められたのですか?」

「ああ、名前か。そうだなー……。じゃあ虹色だしイリスにしよう」

『プルプル』

『ゴゴ』

「ん? そうか、気に入ったか」

『プルル』


 通訳を介せば会話も出来る、と。

 また変な奴が仲間になったな。

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