ガチャ250回目:押し寄せるスライムの波-再-
「……?」
俺は『虹色スライム』に向けて『魔力』を送り続けているが、感触が妙だ。
エンキやエンリルの時のように、魔力を送る事は出来ている。だが、きちんと器に入らずに零れ落ちていってる。そんな感覚だった。
やっぱり、魔力が空っぽのゴーレムコア相手ではなく、野生のモンスターだから不可能なのだろうか。
「……ふぅ」
送ってみるのをやめて、改めて観察してみる。
ほんの少しだが『虹色スライム』から、俺の『魔力』の気配を感じる。けれど、彼らゴーレム達のように心の底からの繋がりのような感覚は存在しなかった。つまりこれは、失敗かな?
「旦那様、どうでしたの?」
「駄目みたい」
「ガーンですわ!」
「残念ですね……」
「流石のショウタ君でも、テイムスキルなしにテイムするのは無理だったってことねー」
「行けそうな気がしたんだけどなぁ……。残念だ」
「ではご主人様、ソレはどうなさいますか?」
腕の中でプルプル震える『虹色スライム』に視線が集まった。
「……置いて帰ろう。流石にここまでした以上、倒すのは忍びない。それに外に無理やり持って行って目の前で消えちゃったら、凹む自信がある」
「わたくしも、なんだか可愛く見えてきましたわ。消える瞬間は見たくありませんの……」
「大人しいモンスターなんて珍しいけど、テイム出来ないんじゃしょうがないわね」
「ではご主人様、お香を使った呼び寄せはどうなさいますか?」
「あ、そうするとこのスライムを巻き込んじゃうのか。エンキ、この子を入り口付近の脇道辺りに持って行ってってくれるか?」
『ゴ』
「エンリルはお香から出る香りを風で操って、洞窟の奥にだけ流すようにしてくれ」
『ポポ!』
そうすれば、この虹色スライムは巻き込まれないし、人知れず時間が経てば自動消失するだろう。手懐けられなかったのは残念だが、またいつか機会はあるだろう。
エンキがスライムを大事そうに抱えながら離れていくのを確認し、お香を起動。エンリルが羽ばたくと、マップに映っていた赤点が手前から順に動き始めた。ゆっくりとだがこちらに向かってくる赤い点。本来ならちょっとした恐怖があるはずだが、相手がスライムと分かっていると怖くもなんともないんだよな……。
マップに映っていない通路からも赤点が滲み出て来てるし、放っておけばかなりの数がこちらへと押し寄せるだろうな。
「ショウタ君、どう?」
「順調にこっちに来てるけど、前回もそうだったがあいつら動きが遅いからな。到着まで時間がかかると思う」
「そっかー」
『ポポ』
手持無沙汰になったのでエンリルを撫でていると、マップ情報に進展があった。どうやら曲がり角付近でスライム達が詰まってしまったようで、渋滞を起こしている。その数はどんどん増していき、気付けば数百の赤点がウジャウジャと密集していた。こうやって見るとなんだかイクラみたいだな。
「おっ」
じっと経過を観察していると、赤点の群れが突如として巨大な赤丸に変化した。それも3つ同時に。
マップ情報にも全ての赤丸が『ヒュージーブルースライム』と明記されているし、間違いない。奴らは100体前後のスライムが合体した姿だったのだ。
そうして奴らの合体は続いて行き、最終的には6体にまで増加していた。
合体した奴らは普通のスライムよりは間違いなく強いが、それでも『俊敏』は50しかなかったはずだ。結局どれだけ『俊敏』が高くても、移動に適した身体を持たないスライムじゃ、同じ50でも他のモンスターに比べれば速度は遅いだろう。
マップに映る距離を考えても、俺達の前に姿を現すには……。
「あと5分ほどで来るかな。デカスライムの数は全部で6。出来れば同時に倒してしまいたい」
「承知しました。ばらけているようであれば、なるべく直線に並べます」
「あたしも手伝うわ」
「ありがと。6もいるから1列にするのは大変だし、貫通出来ない可能性もある。2列……最悪3列でも良いから」
「畏まりました」
「おっけー」
『カイザーヴェイン』を構え、待つこと数分。奴らは姿を現した。
洞窟を真っ直ぐ進んできたからだろうか。気持ち一列に並んでる気がするが、どうにもブレは生じてるな。それに、俺の武技スキルがいかに貫通力に優れているとしても、相手は『物理耐性』持ちだ。あの数をまとめて一撃で貫ける自信はない。
「おーおー、圧力半端ないわね」
「悪い、2つに分けてくれるか」
「では、私は右を。アキ様は左を」
「任せなさい!」
2人が前に飛び出し、無数に襲い掛かる触手を躱しながらも軽い殴打を叩き込み、奴らの位置を整えていく。アキもアイラも、俺と同様ステータスが大幅に増えた事で、第四層を制覇した辺りでは自身のパフォーマンスを最大限に発揮できなくなっていた。けど、この一週間俺と一緒にみっちりと修行したことで、その引き出せる実力は明らかに成長していた。
俺も、修行の成果を数値に換算してみれば、オール3000からくらいのステータスを扱えるようになったはずだ。これは現在のアイラのステータスに近いものではあるが、それでも俺の動きはアイラに比べて精彩を欠いていた。
その理由は簡単だ。なぜならアイラは、自身が扱えるステータスの最大値を十全に操り戦っているが、俺は最大値の半分以下のステータスしか操れないのだ。制御できる限界値を少しでも踏み外した瞬間、俺の身体は意思に反して、思い描いた動きが出来なくなる。だから制御できる限界値は、少し抑えめにして振舞わなければ安定した戦いが出来ないのだ。
「旦那様、アイラの動きはわたくしがしっかり映してますから、あとで見返しますわよ」
「私は姉さんを追っかけてます。ですから今は、倒す事にだけ集中してください」
「ああ、ありがとう2人とも。……『紫電の矢』『重ね撃ち』『力溜め』」
アキとアイラの活躍により、スライム達は綺麗に3対3の並びへと変わって行く。そして彼女達が距離を置いた瞬間に、矢を放った。
『パァン!』
紫の光は敵の集団を貫き、煙へと変えた。
だがレベルは上がらなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます