ガチャ242回目:緑の鳥

 第三層では来た時とは逆の道を通り、道とその周囲はマップで見れるようにしておく。マップ上では猪の赤点もちらほらと映っていたが、直接姿を拝むことは出来なかった。そして第二層では少し寄り道をして、ゴーレムを蹴散らしてからエンキの砂を余分に回収する。エンキが楽し気に砂浴びをする様子を眺めていると、マキが何かを思い出したかのように手を叩いた。


「あ、ショウタさん。そういえばあの件はどうなったのでしょう」

「あの件ってどの件?」


 心当たりが多すぎて、それだけだと特定出来ない。


「えっと、『風塵操作』です。ショウタさん、1つだけ取得して残りはまた実験すると仰ってましたけど、何か進展はあったのでしょうか」

「ああ、それね。それはねー」


 期待の目が3方向から向けられる。アイラは散らばったゴーレムのコアを回収している為この場には居ない。

 言い渋る事でもないので、俺ははっきりと告げた。


「ごめん、完全に忘れてた」

「「「えぇー……」」」

「ご主人様ですから」

「その一言で片付けられると悲しいんだけど」


 てか、いつのまに戻ってきたんだ。


「幾度となく前科がありますし、事実ですから」


 まあ、そうなんだけどさ。


「そしてまだ忘れている事があります」

「……え? なんだっけ」

「昨日倒したオーク連中のスキルです」

「ああー……実験と併用するつもりだったから、セットで忘れてた」

「ふふっ」

「ショウタ君らしいわね」

『ゴゴ』


 いやぁ、恥ずかしい。


「言い訳になるけど、実験しようにも第四層みたいな周囲の視線が集まる場所では試せなかったんだ。それで後回しにしてたら、こうなったんだけど」

「なるほど、ご主人様の狙いがわかりました」

「え、マジで?」

「はい。……スカートめくりがしたかったのですね」


 アイラは自信満々に言ってのけた。


「……違いますけど???」


 何をどう考えればその発想に至るんだ。いや確かに、攻撃にしか使えない『風魔法』ではなく、周囲の風を思うままに操る『風塵操作』があれば、スカートめくりも容易いかもしれんが……。


「今、考えましたね?」

「ショウタさん……」

「サイテー」

「スカートをめくるんですの? ……はわわ、旦那様ったら!」

「いやいやいや。いやいやいやいや」


 確かに今、多少なりとも考えはしたが、実行に移すつもりは全くないぞ!

 俺は懸命に、無実であり被害者であることをアピールする。おい犯人、何をニヤニヤしている!


「まあ冗談ですが」


 アイラがそう言うと、皆の表情が緩む。


「ふふ、私も冗談ですよ」

「でも、やったら怒るからねっ」

「ハイ……」

「冗談ですの……? ですがわたくしは、いつでも大歓迎ですわ!」

「えっ!? わ、私は……」

「マキ、張り合っちゃだめよ」


 うん、聞かなかった事にしよう。


「でもそうだな、今なら丁度誰もいないし、広い空間だから妙な事になっても問題は無いだろう。アイラ」

「はい、どうぞ」


 返事をしたアイラは、俺が望む物を取り出してくれた。

 やっぱ分かった上でスカートめくりなんて言いやがったんだな。


「え、それって……」

「『ゴーレムコアⅣ』ですわっ」

「ショウタさん、もしかして」

「ああ、今からエンキと同格の存在を作る。今度は風属性だ」

『ゴゴー?』

「まずはここに『魔力』を1600ぶち込んで、と」


 魔力を注ぎ込んだ後は備えさせたい属性の力を操って、コアに定着させる。そうすれば俺の魔力に反応して、コアが自律的に属性の力を引き寄せ始めるから、俺はそのサポートに回ればいい。もうゴーレム作製に関してはこれで7体目だ。工程も複雑じゃないし、テキパキと段階を進めていく。

 風の力というのは、基本的に目に見えないモノ。だけど魔法やスキルで集められた風というのは、不思議な事に緑の色が付く。その為このゴーレムも、他の子達と同じように色のついたボディーを得るだろうし、姿を模ってあげれば原型を覚えてくれるはずだ。

 俺は慎重に形を整えつつ、姿を定着させるために風の力を集めていく。

 

「……出来た!」


 せっかく風属性で作るゴーレムなのだ。エンキや今までのゴーレムのような、人型では面白みに欠けるので、ちょっと姿を変えてみることにした。土のゴーレムと違って、コアが丸見えなのが気になるが。


『ポ』

「鳥さんですわっ!」

「可愛いですねっ。お名前は考えているのですか?」

「ああ。エンキになぞって、エンリルで行こうと思う」

『ポポ!』

「エンリルね、可愛いじゃない。……触れないけど」


 アキがエンリルを指でツンツンしようとするが、風の力を集めて目視できるようにしただけで、物質としてそこにあるわけではない。触れられるとしたら中心に入れてあるコアくらいだ。


「緑の鳥ですか、これを連れて外を歩けば、間違いなく普通の鳥とは思われないでしょう。中が透けてますし、モヤモヤしてますし」

「まあそこは仕方がないさ。まだ鳥の形に無理やり押し込めただけで、コアには風を操る能力がないんだ。それに、出来たとは言ったがこれが完成という訳じゃない。……よし、それじゃあエンリル、このスキルを受け取ってくれ」

『ポポー』


 俺はエンリルに『風塵操作』のスキルを全て分け与えた。残っていたのは『風塵操作Lv2』が3つと、『風塵操作Lv4』が1つ。併せて10になるはずだが果たして……。


『ポポ!』

「きゃっ」

「ひゃあ」


 エンリルが声高く嘶くと、彼を中心として上空に乱気流が発生した。

 どうやら周囲から風の力を集め始めてるようだ。そしてエンリルが力を集めれば集めるほど、彼から発せられる圧力が高まって行く。だが見た目が膨張するといった変化は起きず、代わりに透けて見えた身体が濃く色づき、実体化していく。


『ポポ!』


 また一鳴きすると、風が収まった。どうやら、準備は整ったらしい。

 試しにツンツン突いてみるが、柔らかな羽毛のような感触がある。風の力を凝縮した羽ボディーか。『鑑定』が無ければ、これがゴーレムとは誰も思わないだろう。


「『真鑑定』」


 名前:エンリル

 品格:『固有ユニーク

 コア:ゴーレムコアⅣ

 材質:風力魔装体

 魔力:1600

 スキル(1/8):風塵操作LvMAX


「……完璧だ。エンリル、これからよろしくな」

『ポポ!』

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