ガチャ241回目:進化した圧縮
俺はアヤネに『圧縮Ⅱ』を行使した。するとアヤネの身体が、まるでスキルオーブのように輝き、俺の正面にはいつものウィンドウが表示された。
【該当のスキルを確認中……】
【該当のスキルを確認】
【該当のスキルを圧縮中……】
【該当のスキルを圧縮成功】
【SSRスキル『破壊の叡智Ⅱ』『魔導の叡智Ⅱ』を圧縮。EXRスキル『破魔の叡智Ⅱ』に圧縮成功しました】
「おお……!」
見たことないスキルが誕生した。
俺も2種の叡智は持っているが、生憎と破壊が『Ⅱ』で魔導が無印なんだよな。これは多分、同ランク同士じゃないと、混ぜる事が出来ないという事だろう。
効果は2種が1つに合わさっただけか、それとも刻印シリーズのように倍増しているか。これはスキルオーブをゲットして直接混ぜて見てみるしかないな。
「旦那様、どうなりましたの?」
「あ、そうだったアヤネ。すまん、痛くなかったか?」
「はい、わたくしはなんともありませんわ。身体の中がぽわって、一瞬何か抜けたような感覚がありましたけど」
「そ、そうか。何もないなら良いんだ」
ああ、俺って奴は。
スキルが発動した感動よりも先に、アヤネの事を心配するべきだろ……。
「どうしましたの?」
「いや……なんでもない」
自分のダメさ加減に嫌気が差してただけだ。
「アヤネ、自分のスキルを見てみてくれ」
「はいですわ。……わぁ、進化してますわー!」
アヤネの歓喜の声に、仮眠していたアキが起き上がり、外の2人も戻ってきた。
「んー……? なにしてるのー?」
「アヤネちゃん、楽しそうですね」
「先輩、聞いてくださいまし! 旦那様が凄いのですわ!」
「ショウタ君はいつもすごいよー……あふ」
アキは眠そうに欠伸をしている。
「ふふ、そうだね姉さん。ショウタさん、今度は何を見せてくれるんですか?」
「うん『圧縮Ⅱ』なんだけどね。どうやら、他の人のスキルにも干渉できるみたいなんだ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日。
昨晩は『圧縮Ⅱ』の実験やら、オーク肉を山ほど食べさせられたりとか、その後に色々と搾られてレアモンスター戦以上に疲弊したが、今日で第四層とはお別れだ。次に来るのはすぐかもしれないし、第三層の後になるかもしれない。
その辺も、ガチャの『充電』次第だな。
「アイラさん、手は大丈夫ですか?」
「治療感謝します、マキ様。私が不甲斐ないばかりに」
「良いんです、急に出せる力が増したら、誰だって力んじゃいますよ」
マキが心配そうにアイラの手をさすっている。どうやら珍しく、アイラが怪我をしてしまったようだ。
話を聞くに、包丁を使ってる際に力加減を誤ってしまい、まな板をぶった切ってしまったとか。その際に生じた衝撃で、破片が飛んで来て擦り傷を負ったらしい。それを一緒に調理していたマキがいち早く治療を施したそうなのだが……。
原因は間違いなく、昨日の俺にあるな。
昨日の『圧縮Ⅱ』実験。結局アヤネの他に効果があったのはアイラだけだった。
アキとマキは、そもそもスキルを与え始めてまだ日が経ってないので、スキルの総数が少ないのだ。『圧縮Ⅱ』が反応しないのも仕方がないと思う。しかしアイラは、元々多くのスキルを持っていた事も合わさって、3つも進化してしまった。そして得たのが『身体超強化』『剣聖』『狩人の極意』。
これらは俺も持っているスキルのため馴染みはあったが、問題はどれもが身体能力と刃物を扱う際にプラス補正が働くスキルである事だった。それが、先ほどの事件へと繋がってしまった。
俺の時は、これらのスキルを得ても、そこまで大きなトラブルは起きなかったと思う。それは多分、力や技術を十全に使いこなせていないからだろう。逆にアイラは、急成長を遂げても自分の動きをある程度把握して動かせている節がある。彼女はこの道のベテランだ。急激に力が伸びても、それに対処できるだけの知識と経験が、彼女には備わっているんだろう。
だけど昨日の『圧縮』のように、意図せず包丁周りの技術と力が膨れ上がってしまい、注意のしようもなかっただろう。不意に失敗するのもやむなしだ。
「ご主人様、情けない所をお見せしました」
アイラが本気で申し訳なさそうに頭を下げた。
「別に怒ってないし、失望もしてないよ。てかある意味俺のせいだし」
「ご主人様……」
「むしろ失敗したことで、アイラも人間だったんだなって再確認出来たかな」
俺が軽くふざけてみると、皆もそれにつられて笑った。
「まあ、アイラさんいつでも完璧だもんね。分かるわー、その気持ち」
「アイラなら失敗をそのままにしたりはしないだろう? だからそんな落ち込むなって」
「……はい、ご主人様。ありがとうございます」
頭をあげたアイラの頭を撫でると、不敵に笑って見せた。
「本来ならあの程度の破片、簡単に避けられるのですが、今日は足腰に力が入りません。なので、顔を庇うのが精一杯でした……」
「……」
落ち込んだと思ったらこれだよ。まあ、アイラの場合、照れると強がったり下ネタに逃げる節があるからな。真に受けたりはしないぞ。
「なら、その痙攣もアヤネに治療して貰えよ」
「お断りします。これは必要な震えです」
「旦那様、アイラは照れてるだけですわ」
「わかってるよ。さ、それよりも飯にしよう。早く帰ってちゃんと休みたいしな」
◇◇◇◇◇◇◇◇
出発の準備を終えた俺は、第四層の入口でシュウさんと握手を交わしていた。
「それじゃ、話してた通り俺達は先に帰りますね」
「ああ、お疲れ様。レアモンスターの動画は気になるけど、今はここの稼ぎ時だからね……。帰るタイミングを逸しそうで怖いよ」
「そうですよね。今日になってまた人数が増えてるみたいだし、フィーバータイム中に帰ったら次はキャンプ地の確保が難しそうです」
「そうなんだよね……。最悪、第五層側の境界線付近にキャンプを組むって猛者もいるみたいだし……。あ、でも君たちの場合は別だ。Aランクは何よりも優先されるからね。君たちが使っていたあの広場は、例え満席になっていたとしても使用されたりしないから安心してくれ」
「へえ、そうなんですね。でもシュウさんも、ほどほどにしておいた方が良いですよ。いくら肉が獲れるといっても、三食オーク肉だと色々と辛いんじゃないです?」
『知覚強化』か『運』の影響か、彼女達曰くオーク肉を摂取した時の反応は、俺だけ異常に強いらしいとは聞いている。だけど、反応が弱いからといってそればかり食べていては、普通の人だって身体に毒だ。
正直、早めにここから帰りたいと思ったのも、彼女達が
「……そこなんだよね。行きにどれだけの食料を詰め込もうと、数日も経てば結局主食はアレになるんだ。アレばかり食べていると、皆だんだん目の色が変わっていく。男所帯ならまだしも、うちみたいな女性メンバーがいるとなると尚のこと……」
「大変そうですね」
そこでシュウさんが、俺にぼそっと耳打ちをしてくる。
「君たちのチームは大丈夫だったかい? 短期間とはいえ女性4人に囲まれて気が気じゃなかっ――」
「うちは問題ないですね」
「あ、ああそうか。すまない」
大変だったし問題しかなかったが、彼女達の名誉のためにそこは聞かないでほしい。食い気味に返答した事で、シュウさんもそこは気付いてくれたらしい。
そこへアヤカさんが現れ、シュウさんの足に蹴りを入れた。
「ちょっとシュウ! 彼に何を聞いてるのよ!」
「うっ!? ア、アヤカ。聞こえてたのか?」
「聞こえなくても何言ったかは分かるのよ!」
「ご、ごめん! 許してくれ!」
シュウさん、尻に敷かれてるなぁ。
俺はそんな事、ない……。と、思いたいな。
俺達は賑やかな彼らと別れ、第三層への階段を登るのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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