ガチャ231回目:オークのレアモンスター
『プギィィ!!』
「あまいです」
目をギラつかせ鼻息の荒いオークのレアモンスター、『ハイ・オーク』。奴はアイラに掴みかかろうとするが、彼女は華麗にそれを回避した。先ほどから何度も繰り返される掴みと回避の攻防には、見る者を虜にする不思議な魅力があった。踊るかのように避け続ける彼女の姿は、まるで闘牛を相手に舞うマタドールのようだ。
あんな華麗にモンスターの攻撃を躱し続けるのは、彼女以外に出来はしないだろう。『ハイ・オーク』のスキル構成を見た俺としては、彼女を囮の役目になることを少し心配したものだが、それは杞憂の様だった。それにしても……。
「『ハイ・オーク』に特筆すべき点はないって話。あれは、嘘……とまではいかないけど、言いたくなかったってことでオーケー?」
「……はい」
マキは顔を赤らめて小さく呟く。彼女は今、アヤネとは別角度でアイラの戦闘風景を撮影中だ。
俺の戦いよりもよっぽど、アイラの戦いの方が参考になるだろうしな。
「でもほら、『邪眼』みたいな危険な能力じゃないんだし、別にいいじゃない。それともショウタ君は、あたし達の口からあのスキルを言わせたい訳?」
オークの集団を集落の外から連れて来たアキが、俺の後ろに回り込みながら言う。
「いや、別に責めるつもりはないよ。俺もあんなスキルがあるなんて予想してなかっただけで。それに、言わせるような趣味もないし。……でも、あのスキル、マジなの?」
「ええ。ドロップ率は結構渋いけど、高値で取引されるくらいにはマジよ」
襲い来るオーク達を切り捨て、その全てを肉へと変える。次はエンキが連れてくるはずだが、もう少しかかりそうだ。今の内に、『ハイ・オーク』を改めて
*****
名前:ハイ・オーク
レベル:42
腕力:600
器用:550
頑丈:600
俊敏:120
魔力:300
知力:50
運:なし
【
【
【
装備:オークソードⅡ、オークの板金鎧
ドロップ:オークの上肉
魔石:大
*****
「『精力増強』……ねぇ」
目をギラつかせ、鼻息荒いその姿に、俺はまともなスキルには到底思えなかった。いや、元々ああいうモンスターなのかもしれないが。
「俺、あんな風になっちゃうわけ?」
「使用者の人格や性格が変わったりはしません。ただ少し、積極的になるだけと言いますか……」
「大丈夫よ。ちゃんと悪影響はないスキルだってことは証明されてるんだから」
アイラは華麗に回避を続けながら不敵に笑った。
「そうですとも。ご主人様には、必須のスキルでは?」
アイラも当然知っていたんだろうが……。その距離で会話に参加してくるとか、本当に余裕そうだな。
「あー……。ここの音声、カットね」
「もちろんですっ!」
マキが食い気味に返事をくれる。アキもマキも、そういう場面では積極的になるのに、普段は具体的な言葉にするのすら酷く恥じらうところがあるよな。まあ、堂々と言ってのける姿も想像できないんだが。
ちなみにさっきから静かなアヤネは、うっとりとした顔でぼーっとしている。まあ、こっちは撮影に支障がないならそれでいいさ。
『ゴゴー!』
と、そんな中でエンキが走ってきた。
彼の後ろには大量のオークがいて、外からは一見、剣でど突かれながら逃げているようにも見えるんだが……。うん、全く問題なさそうだった。奴らの攻撃は、エンキの防御力を前に歯が立たない様子だ。
そして敵の数は、30から40前後といったところか。今までのと合わせて、あれで100は到達出来そうだな。
「エンキ、ご苦労様! この距離ならもう倒して良いぞ」
『ゴゴ!』
エンキは反転すると、両手に持った盾で殴り始めた。
『ゴゴ!』
『プギィ!?』
『ゴ!』
『ピギィ!』
まるで屠畜場だな。
1回の攻撃で2、3匹がまとめて煙へと変わっていく。たいしてオークはチクチク剣で攻撃しているが、エンキの岩肌を削ることすら出来ていない。普通こんな圧倒的不利な状況に陥れば、生物なら逃げ出すところだけど、オークは一心不乱に攻撃をし続けている。
ここがモンスターの、生物的ではないところだよな。……本当にモンスターって、なんなんだろうな。ダンジョンの侵入者撃退機構として考えるにも、こちらに有利となる物をドロップしているし。無料配布とまではいかないが、『運』さえあればやりたい放題出来てしまう。
それを考え始めると、そもそもダンジョンとは一体なんなんだ。って話になるんだが。
そんな考えを巡らせつつエンキを見守っていると、最後のオークが叩き潰された。そして煙はその場に浮かび上がり、凝縮を始める。
「エンキお疲れ様ー。ドロップはあたしが集めておくわね」
『ゴ』
「アイラ、2匹目がそろそろ湧く。エンキと交代で」
「はい」
『プギギィ!』
『ゴ!』
『ハイ・オーク』の突撃に対し、エンキはアイラの前に躍り出て真正面から受け止めた。
力と力のぶつかり合いなら、エンキの方が圧倒的に上だ。それが例え二対一になろうとも。
『プギ!』
『プギギ!』
『ゴゴ!』
エンキは盾を手放し、追加で現れた『ハイ・オーク』もまとめて、首根っこを掴み持ち上げた。連中は丸々と肥えた2メートルほどの巨体を持っているんだが……エンキにしてみれば、そんなの関係ないらしい。豚連中達は苦しそうにもがき暴れるが、エンキの腕はびくともしていなかった。
「うーん、酷い光景だ」
「すごいですわ!」
「『ハイ・オーク』を軽々と。エンキは力強いですね」
「なんだか、いじめの現場みたい……」
「ショウタさん、トドメを刺してあげてください」
「そうだな」
3倍マジックミサイルで連中の頭部を同時に吹き飛ばした。
【レベルアップ】
【レベルが18から62に上昇しました】
ふむ。低レベル補正で上昇した経験値x2で、こんなもんか。……『レアⅡ』が2体出てくれれば、80も行けそうかな。しかし、『レアⅢ』の条件に同時討伐が本当に必要なのかはいまだに謎だが、どこまでが同時の判定になるのかも、また謎だよな。1秒以内か、コンマ数秒の世界か。それとも数十秒くらい猶予があるのか。
失敗して再チャレンジするのは面倒だからなぁ……。その辺の検証は、別の機会に回すとしよう。
幸い、目の前に残る煙は、霧散することなく2つとも健在なのだから。
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