ガチャ230回目:人気者のエンキ

「……ふぁ」

「旦那様、眠そうですわ」

「んー……」


 時刻は朝の8時。朝ごはんを終えても、俺は一人元気がなかった。

 むしろゲッソリとしているのだが、逆に他の4人はツヤツヤしていた。原因はわかりきっているのだが、俺も昨日ははしゃぎ過ぎた気がする。あんな強敵を倒して、昂った気持ちを発散するつもりで沢山のレアモンスターを蹴散らして行ったけど、それでも足りなかったのかもな。いや、違うか。どう考えても食べさせられたオーク肉が多かったのが原因か。

 あれだけ食べても彼女達を満足させるには一歩及ばなかったらしい。この疲労感はそういうことだろう。


 そんな何とも言えない気持ちで、美しく仕上がっている彼女達を見ていると、アイラと目が合った。


「おかげさまで、私達は元気です。ご主人様、目覚めの紅茶を」

「……変な物は入れてないよね?」

「これから戦いなのですから、その様な真似はしません」


 戦いでなければ盛っていると白状しているようなものだが、今は触れないでおこう。

 一気に飲み干すと、慣れ親しんだ甘みを感じると共に、不思議なくらい活力がみなぎって来る。……本当に、何か入ってるよな?


「愛情ならたっぷり入れましたが」

「そこは疑ってない」

「さようでございますか。これにはいつもの『黄金の蜜』に加え、ご主人様が以前発見した赤色ポーションを特別な手法でブレンドしました。味に影響はないはずですし、効果もしっかり出てくれたようで安心です」

「やっぱ入れてんじゃん。……回復したけども」


 『知覚強化』ですらポーションの苦みを感じられないなんて、それだけ『黄金の蜜』の甘味が強いのか、アイラの調合力が高いのか。まあアイラがこの手の物で失敗する姿は浮かばない、か。

 そんな風にやり取りをしつつ出発の準備を整えていると、ミニサイズになったエンキが女性冒険者に囲まれてる姿が見えた。


「エンキちゃん可愛い~!」

『ゴゴ!』

「次。次は私に抱っこさせて! やーん、スベスベしてるー!」

『ゴー』

「こんな子がゴーレムだなんて信じらんない~!」

『ゴゴ~。……ゴ? ゴ!』


 ちやほやされてうっとりとした声を出すエンキだったが、俺を見つけて手を振って来る。


「ああ、エンキおはよう。今日もモテモテだな」

『ゴゴ!』


 エンキの人気は俺が想像していたよりもずっと高かったようで、昨日からこんな調子で、主に女性の冒険者に囲まれがちだった。夕食後、俺はアキとアイラ指導のもと、急遽修行する事になったのだが、その間マキとアヤネはエンキについて回って、ヒーローショーの延長線のようなことをしていたのだと後で聞いた。

 話に聞くだけで大変そうではあるが、エンキは満更でもなさそうだった。まあ、あいつが嫌じゃないんならいいけどさ。そこは俺とは似てないよな。


「そろそろ狩りに行くので、エンキは返してもらいますね」

「あ、もうそんな時間なの?」

「エンキちゃんまたね~」

『ゴゴー』


 別れを惜しむ声はあるものの、彼女達は大人しく解放してくれた。

 エンキは積み重ねた積み木、もとい岩の塊に近付き、それを吸収。そして昨日と同じ3メートル重装形態へと移行した。


『ゴゴー!』

「よし、それじゃ行くか」

「「「「はい!」」」」


 昨日の活動で、第四層のマップ進捗率は80%近くにまでなっていた。空白になっているのは、オークの集落がある近辺と、昨日途中で中断して訪れなかった四隅の1つくらいだった。


「オークの集落も、4つって話だったよな」

「はい。また、オークもレアモンスターの発見報告はありますが、『レアⅡ』以上の発見報告はありません」

「ふーむ。なら一応、『レアⅢ』の有無確認はするべきだよな。『直感』的には、あんなモンスターはダンジョンに1種類しかいなさそうな気はしてるんだけど」

「……ショウタ君がそう感じるのなら、居ない気がするわねー」

「旦那様の『直感』は信憑性が高いですわ!」

「ありがと。でも、やってみるまでは分かんないからね。とりあえず、最初は昨日埋め損ねた最後の角に行って、その後集落を目指そう。その過程で200匹になるように調節しようか」

『ゴ!』


◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうしてエンキの速度に合わせて小走りしつつ、ゴブリンは彼女達に任せてオークは俺とエンキで討伐するよう心掛ける。

 そういえば、オークには職業も種類もなく、どれも全てただのオークなんだよな。

 ゴブリンみたいに、人型のモンスターって職業持ちで溢れていると思ってたんだけど、俺の読み間違いなのだろうか。


「なあアイラ。オークは他のダンジョンでも出るのか?」

「はい。ゴブリンに次いで割とポピュラーなモンスターですね。……いえ、むしろゴブリンの上位のモンスターといっても差し支えないかもしれません」

「そうなんだ? でも、こいつら職業とかもないし全部ただのオークだぞ」

「ご主人様。ここの第一層や第二層でも、ゴブリンはただのゴブリンではありませんか。それと同じですよ」

「……ああ。そういうことか」

「はい、そういうことです」


 つまりこのダンジョンの第四層で初めて、ただのノーマルオークが出て来ても問題ない程度には、ゴブリンよりは格上の存在という扱いなのか。なるほどなぁ。


「つまり、上位のダンジョンなら」

「スキルがガッポガポですね」

「うへぇー……」


 ありがたくはあるんだけど、あのスキルの塊を思い出すと、『圧縮』で疲れるんだよな。

 何気に『圧縮』って、割と『魔力』を消費するらしくて、100回近く使うとそれだけで疲れるし、毎回確認のメッセージが出て来て面倒なんだよな。

 まあでも、少なくともこのダンジョンにはただのオークしか出現しないみたいだし、ここのゴブリンは欲しいスキルは大体制覇した。しばらく狩る予定もないし……。

 あの重労働とはしばらくおさらばのはず。気持ちを切り替えていこう。


 そうしてオークの集落に向かいながらモンスターを蹴散らしていると、アイラから報告が入る。


「ご主人様、あと4匹で100体です」

「よし。このまま集落に突入をしつつ、レアモンスターが湧いたらアイラがキープ。そのまま周囲のオークを全員で集めて追加の狩りを行う!」

「「「「はいっ!」」」」

『ゴ!』


 さーて、オークの最初のレアモンスター。ゴブリンにとっての『ホブゴブリン』みたいなのが出るのだろうか。少し楽しみだ。

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