ガチャ218回目:ゴブリン種の象徴

「うおおおおお!」

『オオオオオオ!』


 剣と剣、剣と盾が激突し、火の粉が散る。

 『盾術』なんてスキルは初めて見たし、それどころか盾を装備したモンスター自体初めて見たんだが……。盾を敵からの攻撃を防ぐ手段としてだけでなく、1つの武器としても活用してきている。攻撃能力だけで見れば『二刀流』の優位は崩れないが、幅広い範囲の攻撃を防ぎ、なおかつ体重を乗せた突進や弾きは厄介だ。

 このスキルはエンキに是非とも覚えて貰いたいスキルだな。


 数回の応酬を経て、一度距離を置く。

 スキルなしの剣戟で拮抗している以上、次はスキル有でどうなるか。隙があれば準備している3倍マジックミサイルをお見舞いしてやりたいところだが、もしも外したとしたら次からは警戒されるだろう。もう少し、撃つ場面は慎重に決めなければ……。

 そう思っていると、不意に『ゴブリンヒーロー』が嗤った。


『グフッ。オ前、変ナ奴』

「あん?」

『ステータス、我ヨリ上。ナノニ、我ト互角』

「ちっ、余計なお世話だ」


 別に手抜きをしてるわけでもなければ、慢心しているわけでも、ましてや油断してるわけでも無い。

 確かに『決闘Ⅲ』の能力で『統率』分の上昇値を無効化され、更にはステータスを2割下げられた事で奴とのステータス差は縮んだ。それでも俺の方がステータスが高かったのは奴にとって誤算だっただろう。

 だが結局、俺のステータスがどれだけ下がろうとも、大きな影響はなかったんだ。なぜなら俺の普段のが、こいつの全力と同程度のものだったからだ。


 俺の実力は、努力や経験を積み重ねて培ってきたものではない。

 『レベルガチャ』で急激な成長を繰り返した結果に過ぎず、それにより俺は自分の身体を満足に操作する事すら覚束なかった。最近では、有り余ったスキルとステータスに、振り回されることが増えて来ていた。

 そうした最中で得た『弱体化』のスキルで、なんとか私生活を過ごす分には問題は無くなったが、戦闘では相変わらず、十全に性能を発揮するには研鑽が足りていなかった。戦いの最前線に身を置き続ける事で身体を慣らして、ある程度扱う力を身に着けたとしても、また『レベルガチャ』で上限値は増えていく。更には『統率』による倍率が増える事で、それはさらに加速して……。


 今では全力で足搔いても最大値の1/3程度くらいしか出せないでいた。

 まさしく、宝の持ち腐れだった。


「だが、お前には感謝している」

『ム?』

「お前のお陰で、俺が出せる全力のステータスがどの程度の数値か、測れるんだからな!」


 ここからは、スキルを用いた全力攻撃だ。


「いくぞ。『剛力Ⅲ』『怪力Ⅳ』『阿修羅』『金剛力Ⅱ』『俊足Ⅳ』『迅速Ⅳ』『鉄壁Ⅲ』『城壁Ⅲ』『金剛体』『金剛壁Ⅱ』」

『グフッ。『剛力Ⅲ』『怪力Ⅲ』『阿修羅Ⅱ』『俊足Ⅲ』『迅速Ⅲ』『瞬迅Ⅱ』『鉄壁Ⅲ』『城壁Ⅲ』『金剛体Ⅱ』』


 これらの自己強化系スキルは現在のステータスを参照し、そこから倍率アップを掛けるスキルだ。けど、これらのスキル効果は基礎値が倍増する『統率』とは似て異なる。自分が出せる出力の限界値に、感覚なのだ。その為、モンスターが自己強化系スキルを行使中に『真鑑定』や『鑑定』などでステータスを確認しても、そこの数値には変動が無かったりする。

 今までも、こうして外から付随したステータス効果を体験しながら、俺は力の出し方を学んできた。こいつを糧に、俺はもっと強くなってやる!



◇◇◇◇◇◇◇◇



 やはりというか、スキルのレベルや組み合わせからしても、『腕力』と『頑丈』はレパートリーで優っている俺の方が優勢だった。逆に速度は、『瞬迅』という三次スキルの影響が大きいようで相手に軍配が上がっている。また、『腕力』と『敏捷』は本人の意識と練度次第で出力を変動させられるが、『頑丈』はそもそも出力が影響しないというのも大きい。何も意識しなくても俺の防御力は、『頑丈』の最大値を参照してくれているのだ。

 攻撃力と防御力は俺の方が上であることは確実。俺にはそこに、攻撃を補助する『衝撃』と『鎧通し』もあるのだ。当てさえすれば勝敗はこちらへと傾くはず。問題は俺と奴との速度差にあるのだが……。


 幾度とない武器の応酬により、互いに掠り傷や打撲痕は増えていく。

 だが時間をかければかけるほど、俺にとって有利な条件は整っていった。何故なら俺には、相手の動きも速さも『予知Ⅱ』で、ある程度先読みできるようになるからだ。

 そうして自然と動きを先取りすることで、俺は奴の軸足に剣を突き刺すことに成功した。


『ギッ!?』

「そこだ!」


 奴の意識が足に向くのと同時に、もう片方の剣を左から大ぶりに攻撃し、更にはキープし続けていたマジックミサイルを『ゴブリンヒーロー』の左胸に向けて放つ。


『ガガガンッ!!』


 だが奴は咄嗟の判断で盾を動かし、不可視の攻撃を防いでみせた。危険度は剣よりも上だと判断したんだろう。武器をかなぐり捨てての、捨て身の防御だった。

 その結果、奴は軸足と脇腹を大きく負傷。盾にはひび割れが入ったものの、破壊するには至らなかった。


『ヤルナ、人間……!』

「くそ、決まりきらないか」


 マジックミサイルのあまりの貧弱さに、俺はショックを隠し切れないでいた。

 どうやら魔法の出力に関しても、『頑丈』同様『知力』の最大値を参照するらしく、弱体の煽りをモロに受けてしまっていたらしい。先ほど放ったマジックミサイルは、威力も速度も、俺が普段使用している物とは雲泥の差だった。あまりの遅さに放った俺が驚いたくらいだ。

 そのせいで攻撃がバレたかもしれないのだから、情けないことこの上ない。


 だがそれでも、戦局は優位に傾いた。

 奴の動きからはどんどん精細さが欠けていき、時間をかけるほどに自己強化のスキルが1つ、また1つと消えていく。このスキルの上乗せ合戦は、効果時間がとんでもなく長い、金剛シリーズを持つ俺が勝つ!


「オオオオオッ!」

『グッ!』


 結果、武器も防具も、身体もボロボロになった『ゴブリンヒーロー』の胸を、俺の剣が貫いた。


『グフッ、見事也……!』

「機会があれば、また遊ぼうぜ」


 俺は意識的に『紅蓮剣』を『飛剣・鳳凰』へと変化させ、奴の身体が煙になるまで焼き続けた。


【レベルアップ】

【レベルが11から187に上昇しました】


【ゴブリン種の象徴が撃破されました】

【以後一ヶ月間、該当ダンジョンでスタンピードが発生しなくなります】

【以後一ヶ月間、該当ダンジョンで対象モンスターのステータスが低下します】

【以後一ヶ月間、該当ダンジョンで対象モンスターのドロップ率が上昇します】

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