ガチャ213回目:恩恵を受けた者達

「俺は煙を追う。エンキははぐれると思うが真っ直ぐ追いかけてこい」

『ゴゴ!』


 レアモンスターの兆候である煙は、出現と同時に移動を開始した。レアモンスターの煙は、現れてから移動するまでに動き出しが遅い場合と早い場合がある。

 今までの傾向からして、遅い場合は湧きポイントがすぐ近くにあるかその場で出現するタイプ。そして早い場合は、その場からかなりの距離がある場合だ。

 つまり即座に動き出した今回は、俺達のいる二カ所目のマップ隅は、レアモンスターの出現エリアからとてつもなく離れていることを意味する。


 俺はスキルを全力で行使し、ミサイルのごとく飛んでいく煙を必死に追いかける。その俺のすぐ後ろには、ステータスでもスキルでも圧倒的に劣ってるはずのアキが並び、ちょっと離れたところにマキとアヤネ。更に後方ではアイテム回収をしていたアイラ、頑張って走るエンキの順だった。

 全力ダッシュしている俺に、アキはケラケラと笑いながら声をかけて来る。


「おー、ショウタ君速いねー。あたしとおんなじくらいじゃん」

「……アキ、余裕そうだね」

「ふふん。伊達に武術を嗜んでないわ。体の動かし方やスキルに対する理解度。それがちゃんと身体に馴染んでいれば、ステータスが2倍になったところで訳ないの。たった三日ほど門下生になったばかりの後輩君には、まだまだ負けられないわ」

「頼りにしてるよ、先輩」

「んふふ。ええ、頼りになさい」


 前回、俺は『オロチ』の煙を相手に一人吶喊し、その結果敵の能力を前に一人状態異常の餌食となった。そんな場合の対処策として『金剛外装』を持ってはいるものの、『ラミア』のように戦闘不能にさせられてしまったらその時点で詰みである。

 なので、一人で突っ込むのはダメという話になるのだが、だからといってレアモンスターの煙を後回しにしては誰かに取られてしまうかもしれないわけで。そうなった時、俺と一緒に動いてくれる同行者をあらかじめ決めておくことにした。


 まず戦力的にはエンキなのだが、彼は一般人からすれば早くても、俺達の全力移動にはとてもじゃないがついてこれない。砂の鎧をパージしてしまえば俺が抱えていけるが、それでは戦力が減ってしまう為本末転倒。

 続いてはアイラだが、彼女はドロップアイテムの回収業務がある。100体目を討伐した直後であれば、煙の移動と共にその場にアイテムが散らばるし、場合によっては近くに他のモンスターが集まってることだってある。その為彼女もすぐには動けない為除外。

 そして残るはアキ、マキ、アヤネとなるのだが。このメンバーで唯一、俺のスピードに自力でついてこれるのがアキだけだったのだ。ちなみに、アキが動けない場合は他の二人のどちらかを抱えて移動すれば良いという話になった。


「……ん?」


 煙はまだ俺の視界にギリギリ映っているが、そこで妙なものを見た。今までの煙は、それを見た他のモンスターは逃げ惑っていた。だが、煙を目視したゴブリンの軍団は、僅かに動揺した後、俺達の方を睨みつけたのだ。


『ゲギャ!』

『ゲギャギャ!!』

「なんだ!?」

「な、なにこれ」


 奴らは俺達に向かって吠えると、周囲にいたゴブリン軍団も呼応するかのように叫び、突撃をしてくる。何だか分からないが、ここで足止めをされる訳にはいかない。そうこうしている間にも、煙はさっさと奥へと抜けて向かっているのだ。


「そこを……どけ!」



◇◇◇◇◇◇◇◇



「リーダー、あれ!」

「なんだい? ……あれは、レアモンスターの煙か! 誰かが条件を満たしたようだね」

「撤退するか!?」

「ああ、少し離れよう」


 先日、レアモンハンターの情報公開に付随して、関連する情報も同時に取り上げられた。『運』はアイテムのドロップ率の他に、レアモンスターの出現率も同時に上昇させる。これは以前から、確証はないものの噂されていたものだ。そこに加え、公開された情報には『運』が必要値を満たした冒険者は、レアモンスター出現の前兆である『移動する煙』を目視することができるというものが含まれていた。

 この煙は肉眼でしか確認出来ず、映像や写真には薄っすらとしか映らないという点から、今まで確たる証拠はなかったのだが……。かのレアモンハンターが断言したことにより、一気に真実味が増した。

 その為『運』を高めた冒険者は、以前よりも価値が急増している。あればあるほどチームの稼ぎが増加するという実用性が確定し、更にはもしもの時の危険を、事前に察知する能力が得られるのだ。全てを注ぎ込むと例の『罠』が発動する為、慎重にならざるを得ないが、あの動画の公開以降、『運』にSPを注ぐ冒険者は後を絶たない。


 かくいう俺たちも、もしもの時の為に温存していたSPの半分ほどを『運』へと注ぎ込み、チームメンバー全員の『運』を50へと上げておいたのだ。それにより、この階層であればゴブリンの煙はハッキリと全員が認識出来ているし、1度は自分達の手でレアモンスターを湧かせ、討伐することにも成功している。

 本当に彼の情報には助けられている。


『グオオオオ!!』

「湧いたか。近くに冒険者はいないようだね」

「で、どうするよリーダー」

「……煙が来ていたのは砦とは正反対の方向からで、スピードもかなりあった。彼から情報通りなら、恐らくかなり遠距離で条件を満たしたんだろう。それは討伐出来ないから安全圏から沸かせたのかもしれないし、不意に出現させてしまってこっちに向かっている最中かもしれない」


 レアモンスターの様子を見る。奴はこちらには気付いていないらしく、出現地点の集落には、お供の『ヒーラーゴブリン』以外に、敵は居ない。あいつを狩るのであれば、通常モンスターが再出現していない今を置いて他にないが……。


「もう少し様子見しよう。あと5分待っても誰も来ないようなら、集落から釣り出す」

「「「了解」」」


 そして数分後、俺達はとんでもない物を目撃する事になる。

 先程と同じ方向から、が飛んで来たからだ。

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