ガチャ208回目:それはそれ、これはこれ

「なるほど、第三層を一度通り抜けて、第四層で準備を整える。良いんじゃないかしら。第四層は人が多い分、情報もそれなりに集まってるし、先に攻略するのも手よ」

「すみません、本来なら……」

「気にしないの。協会としては、通り道の第三層の危険性が少しでも明るみに出ただけで、十分なのよ。今回の映像、『オロチ』は良いとして『ラミア』は……。支部長会議に回させてもらうけど、たぶん一般公開は画像データとステータス、能力だけになると思うわ。泥試合を公開するわけにはいかないもの。それにアマチ君の悪評を流してしまうことにもなる。どうせなら、完璧に仕上げた物を撮ってからにしなさい」

「はい。今回のリベンジは、またいずれ」


 ステータスを見れば分かる事だが、『ラミア』は魔法型のレアモンスターだ。だが、『黄金鳳蝶』と違ってしっかり物理攻撃も扱える厄介なモンスターのようで、映像を見る限り魔法で牽制しつつも尻尾や爪なんかも適度に使っていて、アイラとエンキを苦戦させていた。

 そして一番厄介なのは言うまでもなく『邪眼』攻撃だ。エンキを除けば、誰も『ラミア』の姿を直視できずに戦う事を余儀なくされている。一度でも見てしまえば俺みたいに戦線脱落が確定しているのだから、油断ならない相手だ。


 今までは攻撃方法も多彩でステータスの暴力をふるえる俺が敵を倒して来たから無茶が通ったけど、俺がやられてしまえばその役目を皆に押し付ける事になるんだよな。そう思うと、酷い話だ。

 せめて……俺がやられてしまったとしても挽回できるような下準備は整えておかないとな。


「今回の映像で初めてアキとマキの戦い方を見て思ったけど、アキは完全に前衛で、立ち回りとしてはアイラよりも前。マキは槍を持ってはいるけど後衛寄りの立ち回りをしてた。それを前提に考えると、状態異常の治療役はアヤネとマキの2枚にしておきたいな」

「はいですわ」

「わかりました」

「あ、そうだ。今回のドロップは結局どうだったの? トドメはアイラだったよね」

「はい。結果としては、『オロチ』からは全て出ましたが、『ラミア』からのドロップは『魔力回復Lv2』と『特大魔石』だけでした」


 アイラが机の上にドロップ品を並べる。俺は気になっていた『オロチ』のスキルを手に取る。


「この『震天動地』って、結局謎なスキルなんだよね。支部長も知りませんか?」

「ええ、未知のスキルね」

「それじゃ、視てみるか……。『真鑑定』」


 名前:震天動地

 品格:≪固有≫ユニーク

 種別:アーツスキル

 説明:魔力を150消費し、地震を引き起こす。


「地震を起こすとしか書いてないけど、消費が多いな」

「魔法……ではないのですわよね?」

「魔法のような効果を発揮する魔法ではないスキル、ですか。確かに特殊な能力の様です」

「でも『オロチ』は使ってこなかったのよね? 何か条件があるのかも」

「ショウタさんが仰向けにして抑え込んでいましたし、それのせいかもしれないですね」

「地に足をつけてないと発動しないって事かな? うーん、このスキルが一番似合うのはエンキだよなぁ。字面的にも雰囲気的にも」

『ゴ?』


 皆がその言葉に頷いてくれた。その意味を理解してないのは当人くらいだ。


「そうよね。なんていったって地の神だし?」

『ゴゴ!』

「でも必要ないスキルが見当たらないんだよな」

「そうですわね。このスキルのどれをとっても、今日の戦いで活躍してくれましたわ」

『ゴゴ……』

「うーん、外す候補としては『鉄壁Ⅳ』か『迅速Ⅲ』くらいか……。よし、一旦エンキの『迅速Ⅲ』と入れ替えで」

『ゴ!』


 エンキが排出した『迅速Ⅲ』はアイラに一時収納してもらい、代わりに『震天動地』を取得してもらう。その様子を、支部長は何とも言えない表情で見つめていた。


「とんでもない物を見せられているわね……」

「あ、お母さん。これ内緒で」

「はいはい、わかってるわよ」


 改めて『真鑑定』でエンキを見るが、スキルの字面的にはめちゃくちゃ似合っていた。効果は使ってみないとだが。


「あ、支部長。エンキの事なんですけど、『鑑定』持ちなら誰でも所持スキルが見れてしまうので、いっそのこと公開する情報に制限は無くてもいいかもしれません」

「……分かったわ。データとして公式に乗せるのは一旦様子を見るとしても、人の口に戸は立てられないでしょうし、うちの職員にはそのように通達しておくわね」

「お願いします。あとは『魔力回復Lv2』のスキルだけど、アヤネ」

「分かりましたわ」


 さーて、これでスキルの分配は終わりかな。

 今日はゆっくり休んで、次に備えよう。


「ご主人様、何を終わった気になっているのですか」

「え?」

「今回の件、確かに皆も反省するべき点はあったけど、状態異常の認識の甘さは変える必要があるわよ」

「ちゃんと懲罰用ではなく普通のを使いますから、安心してください。でも逃げるのは駄目です」

「あら、楽しそうね。私も参加させてもらうわ」

「旦那様。どの状態異常から試しますか? わたくしは一番に『毒』をお勧めしますわ!」


 どうやら、許されはしても認識不足は看過されないようだった。てか、普通に忘れてた。

 まあ、知らないままダンジョンに潜る危険性は経験したし、受け入れるしかないよな……。


「それは良いとして、何で初手に『毒』?」

「嫌な事は一番最初にしてしまえば、あとは気が楽ですの」

「ああ、そういう……」

「あたしとしては最後に回すことをお勧めするかな。だって、初めての『毒』って結構衝撃的過ぎて、残りの状態異常を確認する際の気力まで持っていかれると思うし」

「そうですね。ご主人様は如何されますか?」

「あ、ショウタさん。指輪はこちらで預かっておきますね」


 やっぱ『毒』って、きついんだろうな……。どっちを後でも先でも、地獄を見る事に変わりはなさそうだ。

 怖いなぁ……。


 その後、俺は多種多様な状態異常の洗礼をこの身に受けることになった。幸いといって良いのか、彼女達の調整が上手かったのか、後遺症こそ残らなかったものの、メンタルを大いにやられた俺は、その日とその翌日は休暇とするのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る