ガチャ207回目:反省会
「ただいま戻りました」
「あら、アマチさん。それに皆さんも、おかえりなさい。……ミキさんを呼んで来ますので、会議室で待っていてください」
「お願いします」
協会に到着した俺は真っ先にハナさんの所に向かった。彼女は俺達の様子で何かを察したのか、すぐに動いてくれたので、いつもの会議室へと向かう。すると、部屋の様式が変わっている事に気が付いた。
今までは会議室という名の通り、大き目のテーブルに椅子があるスタンダードな物だった。最初を思うとどんどん椅子の数は増えていたが、部屋の名前が変わるほどの変化はなかった。だけど今は、応接室と呼べるような格調高いものへと変化していた。明らかに部屋も広くなってるし、座り心地の良さそうな本革張りのソファーが人数分置いてある。
未だ眠りこけるアヤネをソファに寝かせて部屋を見回した。
「Aランク冒険者の待機場所ですから、お母さんが奮発してくれたんです」
「そうだったんだ」
「もう少しで『A+』だからね、期待してるのよ」
「それを思うと、今日のヘマは本当に申し訳が立たない……」
「そうね、反省しなさい。ショウタ君は状態異常を舐めすぎなのよ」
ぐうの音も出ない。
「お前は講習する必要なんて無いって言われて、今まで行ったことが無かったけど……。これからの事を思えばちゃんと参加しておくべきだった。反省してる」
「……姉さん?」
「あ、あたしが言ったんじゃないからね! 学生時代の話でしょ!?」
「あ、うん」
流石に奔放主義のアキでも、そんな事は言わないだろう。……言わないだけで確認は怠ってたかもしれないが。
「では反省会も兼ねて、ご主人様には状態異常の講義を受けてもらいましょうか」
「わかった。えーっと、どこかで予約すれば良いのかな?」
「必要ありません。私達が
「そうなの? ありがとう、助かるよ」
「マキ様、協会の保管庫に各種薬物の在庫はございますか?」
「え? 薬物?」
なんだか危険な香りのする単語が聞こえてきたんだが……。
雑学とかの、勉強的な物じゃないの!?
「はい、各種一通り揃ってたはずです。教材用と懲罰用、どちらが良いですか?」
「無論、懲罰用です」
「わかりました。至急準備しますね」
「……」
思ってた以上に、俺のやらかしに皆怒ってるらしい。
生きて帰れて安心してたけど、果たして今日の夜を越せるだろうか。不安になってきた。
そして不意にガチャリと職員側の扉が開く。
「お待たせ。……って、なにかしらこの空気」
「あ、支部長。ただいま戻りました……」
「その様子を見るにあんまり良い報告じゃなさそうだけど、無事に帰ってきてくれて何よりだわ。時間的にも精力的にも、あなた達、ちゃんとご飯を食べてないでしょ。今からでも良いからお腹に入れなさい。私もここで食べるから」
そういって支部長が来た道を戻り、お弁当を持って戻ってきた。
俺達は支部長の言葉に従い、アヤネを起こして皆で昼食をとる。そして食後、改めて支部長に何があったかを伝え、俺は頭を下げた。
「アキ、マキ。2人を連れてのちゃんとした初探索だっていうのに、こんな結果になってごめん!」
「「……」」
「話を聞く限り、今回の戦いは色々と準備不足があったようね。アマチ君、分かるわね?」
何も言わない二人の代わりに、支部長が話を振って来た。
今の支部長からは、最初に出会った時のような凄みを感じる。
「はい。まず、俺の状態異常への認識が甘かったこと。自制が効かなかった事。それから治療手段を持たなかった事……ですね」
「そうね。未知のモンスターに挑むんだもの。何が出てくるか分からない以上、準備にいくらでも時間を注ぎ込んでも問題ないのよ。最初にあなたに試験を出した時も、それなりに時間を与えたでしょう?」
「2週間……でしたか」
「そう。そのくらい、新しい何かに挑戦するなら時間がかかるものなの。それをあなたは、あの時は力技で突破して見せたけど。どうやって今までその時間を短縮してきたのかは聞かないけど、毎回それで解決するなんて甘い考えじゃ、今回みたいに足を掬われるわ」
「……はい」
「自覚なさい。あなたは4人の人間を束ねるリーダーでもあるのよ。いつまでもソロプレイの延長線でいられたら困るわ。彼女達の命は、あなたの行動次第なのよ」
「肝に銘じます」
「よろしい」
その瞬間、支部長からの重圧が消えた。
「反省しているようだし、私からのお説教はここまでにしましょう。あなた達もいつまでも拗ねてないで、許してあげなさい。今回の問題は彼の認識と準備、2つの不足があったけど、そのどちらも専属がカバーすべき点よ。彼一人に背負わせないの」
「「う……」」
「そりゃ、期待していた初めてのラブラブ冒険劇が大失敗に終わって悔しいと感じる気持ちはわかるけど。プロなんだから、しっかりしなさい」
「「ちょ、お母さん!」」
「おほほほ」
支部長はお茶目な笑い方で場の空気を緩ませる。反省はしないといけないが、今は今後の事を考えよう。
「うぅ。ごめん、ショウタ君。あたし、初めての冒険に浮かれてたかも。ちゃんとあれこれ準備しておくべきだった」
「私も、ごめんなさい。レアモンスターの発見報告はなくても、蛇のモンスターと分かってる時点である程度予想をして治療手段を用意するか、迂回策を提案するべきでした。ショウタさんの『運』なら、不幸な事にはならないかもなんて、馬鹿な事を考えていたかもしれません」
「わたくしも反省しなければなりませんわ。旦那様は今までまともにモンスターからの被弾が無かったから、忘れておりましたの。治療手段においてはわたくしの『回復魔法』頼みである以上、最善を準備するべきでしたわ」
「私も、ご主人様の素晴らしき才能と強運からなる、類まれな突破力に甘えていたかもしれません。ご主人様一人を責める資格が、どこにありましょう」
「いや、皆の言いたいことはわかる。けど、皆の命を預かってるリーダーである俺の認識が甘かったのは事実なんだ。だから俺に反省させてくれ」
誰もが自分が悪い事に気付き、反省すべき点を各々が口に出していく内に、段々と口調に熱を帯びていき、場も温まって来る。そんな空気をかき消すように鋭い音が鳴った。
『パシンッ!』
全員が沈黙し、音の発生源へと視線が集まる。
「はい、全員悪いんだから全員反省しなさい。ただ、リーダーである分、一番反省すべきはアマチ君よ。それを忘れないで」
「分かりました」
「さて、次の話題に入る前に1つだけ訂正よ。アマチ君、あなた先ほど3つ不足していたと言ったわね」
「はい」
「その内の1つが自制心だったわね。これについてはそのままでも良いわ」
「えっ?」
「この世界において、あなたのように謎を謎のままにしておかない熱意は大変貴重なの。そこに実力もあるなら尚更ね。抑えきれないくらいがちょうどいいくらいだわ。むしろ、その気持ちを自制せずとも無事に乗り切れるくらいの準備を前もって用意しておきなさい」
……あ、やばい。ちょっとどころかかなり嬉しい。
俺の今までの努力を否定せずに、真っ向から褒められるなんて、思ってもいなかったから。ちょっと涙腺が緩むって……。
「それじゃ、次は動画を観ながら、今後の対応策をどうしていくか聞かせて貰いましょうか」
今までちょっと苦手な部分があったけど、やっぱり二人の母親なんだなって。そんな気がした。
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