ガチャ206回目:敗者の帰還

 『石化』から目覚めて30分ほどが経過すると、予想通り全身が元通りになり、身体が動かせるようになっていた。慢性的な痺れと気怠さはあったが、それもアヤネがすぐに治してくれる。俺は改めて、一人一人を順番に抱きしめ、互いの無事を確認し合った。皆疲れてるみたいだが、アヤネが一際フラフラしてるな。

 そうしたところで一人、別の意味で元気のない奴がいた。


『ゴゴ……』

「どうしたエンキ、元気ないな?」

『ゴ……』

「あ、もしかして『魔力』がない?」


 エンキが遠慮がちに頷いた。

 そうか、身体が大きく削られるほどの激しい戦闘だったんだよな。大事な仲間を守ってくれたんだから、精一杯労ってやらないと。俺も『魔力』は『魔力回復』と維持費が拮抗しあっている関係上、一度減ったらレベルアップか、長期的な睡眠をとらなければ回復できそうにない。だが、帰りの事を考えてもエンキに与えるなら惜しくはないな。


「お前はよくやってくれた。だからそう遠慮するな」

『ゴ!』


 エンキのコアに触れて魔力を流し込む。するとエンキを作った時とほとんど同じくらいの『魔力』が流れ込んでいった。どうやら本当に、限界ギリギリになるまで戦ってくれたらしい。

 戦いの様子はアヤネがしっかり撮ってくれてるみたいだし、あとでエンキの頑張りを見てやらなくちゃな。


「あ、そう言えば皆はレベル上がったんだよね?」


 アイラを除いた三人がこくりと頷く。アキとマキは低レベル判定で急上昇して、アヤネも1つ上がったらしい。アイラは高レベルだから仕方がないが。


「急にどうしたの?」

「いやあ、実は俺のレベルは上がってなくてさ。一方的に攻撃されただけで、俺からは攻撃出来てないし、戦いが終わった時もあんなだったから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど」

「なら、『魔力』の根本的な解決は、また今度な訳ね」

「そうなりそう」


 帰りの第二層でゴーレム狩りをするような気分にもならないしな。今日は大人しく、すごすごと帰ろう。


「あ、でもせっかくだから、帰り道にある宝箱は回収しておこうか」

「そういうことなら」

「構いません」

『ゴゴ?』


 エンキが小首を傾げる。移動はどうするのかと言ってるようだ。

 まあ、今のエンキは削られすぎて3メートルほどにまで縮んでいるし、それでも尚、ところどころがボロボロだ。『魔力』は補充したから『自動回復』は働いているみたいなんだけど、この能力は色々と制約があるようだ。今はゴーレムとしての姿までしか復元できないらしい。

 名前からして便利な能力だと思ったんだが、万能ではないようだ。完璧に使いこなすには、スライムみたいな不定形な身体が必要になりそうだ。そういう意味では、水系ゴーレムとは相性が良いのかも。


「せっかくだし歩いていこうか。アヤネ、辛そうだし俺がおぶっていくよ」

「はい……。お願いしますわ」


 いつもは遠慮するアヤネだが、本当に疲れているようで背負うとすぐに眠りこけてしまった。そんな彼女を庇うように、アキとマキが前方を歩き、後方にエンキ。隣にアイラが並んで歩く。


「お嬢様は治療にかかりきりでしたから、疲れてしまったようですね」

「治療……。あれ? そういえばアヤネのスキルレベルって、『石化』を治すには足りてないって話じゃなかったか?」

「はい。ですが根本的な治療は出来なくとも、『回復魔法』には自然治癒能力を高める効果が付随しております。ですがそれも、1回の魔法行使では微々たるもの。魔法をかけ続けなければ明確な効果は現れません」

「……つまり、ずーっと魔法を使い続ける事で、対処不可能な状態異常のを短縮出来るって事か」

「『回復魔法』は他の魔法とは異なり融通が利くようで、本来のスキルレベルを満たしていなくとも、魔法を行使し続ける事で疑似的な上位治療が可能となるそうです。その為、レベル2の回復魔法では対処不可能な大怪我を負ったとしても、同様に魔法を重ね続ける事で完治させる事が可能です」


 それは、少しでも連続した魔法の発動が途切れた瞬間、パァになるってことじゃないのか? とんでもなく神経を使いそうだ。アキは今回の『石化』能力について、時間経過で回復するタイプだったと言っていたが、それは治ったから言える事。アヤネは、俺が回復すると信じてずっと魔法を掛け続けてくれていたのか……。

 それがなければ、目覚めるのにもっと時間を要したのかもしれない。


「アヤネには、頭が上がらないな」

「まったくです。……これでご主人様も、私と同じですね」


 最後にアイラは小さく呟いたが、それは俺の耳には届かなかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうして道中、合計2つの宝箱を回収した。開封はまた後に回して、第二層に到着。そうしたところで彼女達から提案があった。


「さ、ショウタ君。元気出していきましょ」

「無事に戻ってきたんです。落ち込むのは帰ってからにしましょう」

「ご主人様、笑顔を忘れずに」


 曰く、Aランクの冒険者が露骨に落ち込んだ顔をして帰還したとなれば、後輩達の不安を煽ってしまうのだそうだ。確かに今回、俺は大きな失敗をしてしまったが、幸いにも誰も失わずに済んだ。

 なので俺は意識を切り替え、顔を上げて堂々と帰還する事にしたのだった。

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