ガチャ202回目:不可視のデメリット

 俺はエンキに境界線への移動を命じて、彼女達のいる腕の中で休む事にした。


「ふぅ……」

「ショウタさん?」

「およ、どうしたの」

「マキ、膝枕して」

「あ、はい。どうぞ」


 前触れもなく突然降りてきてのこの発言だったが、マキは即座に用意をしてくれた。はぁ、気が滅入った時にはこうするに限る。


「旦那様、ここに抱き枕がございますわ!」

「ん」

「えへへ」


 腕を広げるとアヤネが飛び込んでくる。アヤネの感触で思い出したが、そう言えば俺、鎧着けて無かったな。まあ、レアモンスター戦をするつもりはまだなかったしな。ああ、駄目だ。頭が痛い。

 彼女を抱きながら気を紛らわせてると、出遅れたといった顔をしていたアキと目が合った。


「んん。ショウタ君、いつになく消耗してるわね。大丈夫?」

「エンキちゃんの頭に座ってる時、瞑想してましたが辛そうでしたよね」

「ちょっと問題があってね……」


 俺は皆に、『魔力』の消費について話した。


「なるほど。まとめると、ご主人様は初めて感じる『魔力』を消費し続けている感覚が、慣れなくて気持ち悪いのですね」

「まあ……そう言う事になるな」

「ふむ。高い『運』と『知覚強化』で感受性と感覚が急激に伸びた弊害ですか。……しかし、昨日まではそのような感覚は一度も無かったのですよね?」

「ああ。というか、『鷹の目』自体使う機会が無かったんだが」


 『鷹の目』は確かに視点を動かせば急激に『魔力』を持って行かれるし、視点の気持ち悪さで吐き気がしているが、それを使わずとも俯瞰視点を維持してるだけで『魔力』が持って行かれてるのだ。今までこんな経験は無かったから『鷹の目』が『Ⅱ』になったことで消費量が上がったと考えていたのだが……。


「ですが、武技スキルなどの消費では感じなかったんですよね。……今なら、矢を撃っても感じますか?」

「……試してみる」


 アヤネを降ろしてアイラから『カイザーヴェイン』を受け取る。この矢は1発につき『魔力』を1消費するのだから、何か感じるはずだが……。とりあえず、その辺の樹に10発ほど撃ち込んでみる。


「……特に、何も感じないな」

「なるほど、固定消費では感じないと。ではご主人様。次は何かしらのステータスバフスキルを使っていただけますか」

「わかった。じゃあいつもの『剛力Ⅲ』『怪力Ⅳ』『阿修羅』。……ん?」


 スキルを使用した直後、自分の中で何かが少しずつガリガリと削られて行くような感覚が発生した。これは間違いなく『鷹の目』同様『魔力』が削られている感じだ。その量としては微々たるものだが、この感覚は間違いない。

 だが、この組み合わせは普段からそれなりの頻度で使っているスキルだ。昨日も使ったが、その時はこんな感覚は受けなかったはずだ。試しに『阿修羅』を。続いて『怪力Ⅳ』も意識して止めたが、『剛力Ⅲ』単独でも削られてる感覚があった。

 俺はにわかには信じられなかったが、ありのままに皆に説明した。


「仮説としてはいくつかありますが、まず1つ目。ご主人様のステータスが上がったから途端に感じられるようになった、というもの。ですがこれは恐らく違うでしょう。あまりにも急すぎますし、感じられるようになったタイミングが不自然です」

「だよな」

「であれば、昨日から今日にかけて、何かご主人様にステータス以外での変化があったと見るのが正解でしょう。何をしましたか?」

「いや、何をって。特別変な事は……」


 視点を動かすと、不安そうな二人の顔が映る。


「二人がついてきたから起きたわけじゃないからね?」

「そうでしょうか……?」

「だけど、タイミングが……」

「改めて考えたけど、二人が来たことで俺に起きた変化なんて、『統率』2個分くらいでしょ。だから気にしないで」

「それだけって言われると傷つくんですけど」

「あ、ごめん。元気ももらってます」

「ふふ、冗談よ」

「あ、『愛のネックレス』の効果が近くでなければ発動しない、というのであれば分かるんですけど……。それも違いますもんね」


 恥ずかしがるマキに再び膝枕を要求し、心と身体を休める。今度はアキを抱き枕にしつつ、昨日の出来事を思い出す。経験値の入らないボス戦。エンキの公開、ヒーローショー。それから二人の参戦表明に……。

 うーん、昨日なんかしたっけ……?


「あ、そうですわ!」

「んぉ?」


 何も思い出せないでいると、アヤネが元気に手を挙げた。


「旦那様、昨日リヴァちゃん達のコアを『Ⅱ』に新調してましたわよね。きっとそれですわ!」

「あー……。確かに4人分アップグレードしたな」

『ゴゴ?』

「じゃあ、なに? もしかしてゴーレム達って、身体を維持するための『魔力』以外に、ショウタ君から常に『魔力』を受け取ってるって事?」


 確かに、エンキを含めた彼らとは、目に見えない特別なつながりを感じる事があるが……。それがそうなのか?


「この子達には皆、モンスターと違って自立した個々の意識がありますよね。不思議に思ってましたけど、そんな高度な生命体のような事を再現し続ける為に、それ相応の維持費がかかっている……。そう考えれば納得できますね」

「それが昨日のコアを入れ替えをしたことにより、成り立っていたバランスが急激に崩れたと。恐らく現在の消費量は、ご主人様の魔力回復量が同じくらいにまで膨れ上がっているのでしょう。下手にゴーレムの数を増やしていたら、取り返しのつかないことになっていましたね」

「『統率』を覚えられるけど、俺としてはエンキだけで満足してたんだよな。その判断は間違いじゃなかったという訳か」


 操作する『ゴーレムコア』の数が増えれば増えるほど、無意識に『魔力』が漏れ出て行っていた。そう考えると恐ろしい。もしも調子に乗って7体目、8体目と作っていたとしたら、今頃どうなっていた事か……。最悪、寝る直前に頭痛や吐き気に襲われ、原因不明のままのた打ち回っていたかもしれない。

 その上、『魔力』が尽きたまま『魔力』の徴収を受けていたらどうなっていただろう。命を削られたかもしれないし、徴収が停止する代わりにエンキ達の自立意識が消し飛んでいたかもしれない。


 そう考えるだけでゾッとした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る