ガチャ201回目:想定外の消耗
「んじゃ次に、モンスターの分布としてはどうなってるの?」
「はい。まず境界線から見て山側は蛇と猪が混合してます。更に奥に進むと山エリアとなるので熊のみのゾーンになってます。そして境界線の外側は、蛇と猪が交互に並ぶようになっています。書き込みをするとこんな感じですね」
「……なるほど。となると、今までの傾向からして蛇と猪は外側。熊は山の中にレアモンスターが湧きそうだな」
「そうなりそうねー」
「では旦那様、どうされますの?」
アヤネがワクワクした様子で袖を引っ張って来る。初めての階層が楽しみで仕方ないんだろう。それは俺も同じだ。
「とりあえず……そうだな。あそこの蛇地帯からマップ埋めをしていこうか」
「ショウタさんのマップは、見えている範囲が自動的に書き込まれて行くんですよね。エンキちゃんよりも樹の方が高いですし、見通しが悪そうです。マップを埋めるのはかなり大変なのではないですか?」
「いや、エンキの上から更に『鷹の目』を使う。これなら問題は無いだろう」
「あたし達はどうすればいい?」
「とりあえず全員エンキの手の中にいて。エンキは蛇が足元にいたら踏みつけ攻撃。もし登ってくることがあれば手の空いてる誰かで倒してくれ」
『ゴ!』
「んじゃ、出発ー!」
「ゴーですわ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
『鷹の目』は、頭上から自分を見下ろすような俯瞰した視点を得られるスキルだ。本来はそれだけのスキルなのだが、『自動マッピング』と併せる事で相乗効果が得られる。自身の目だけでなく、『鷹の目』で見えた追加の視点分もマップが更新されて行くものだ。
スキルの使用中は、本来見えている物とスキルによる物、2つの視点が同時に視界へと飛び込み、脳へと負荷をかける。そのため普段は、適度に足を止め、休み休み使っていくのが適切だった。
だが、今回の俺はエンキの頭上で座り続けている。自ら動く必要がない為、本来の視点を使う意味はない。目を閉じ、ただひたすらに『鷹の目』による俯瞰視点で付近を見ているだけで良かった。
『ゴゴ!』
『ズドン!』
俯瞰先では、エンキがもう何度目か分からないが、地面を這って近づいて来たグリーンスネークに、ストンピング攻撃を仕掛ける。6メートルを超え、ギチギチに詰まった岩の巨人による踏みつけだ。総重量は不明だが、ただの蛇に耐えられるはずもない。モンスターは一瞬で煙となった。
そして不思議なことに、こんな倒し方をしてもドロップは一切無傷だった。それに気付いたのはアイラが毎回律儀にエンキから飛び降り、アイテムを回収している姿が見えた時の事。どうやら隙間のない場所で倒されたモンスターは、漏れ出た煙が空間に余裕のある別の場所へと移動し、そこでアイテムを実体化させてから霧散する仕様らしい。
……レアモンスター出現の際、その地点に岩の塊を置いていたらどうなるんだろうか? ズレて沸くのかな?
グラッ。
「くっ……」
余計な事を考えていると、視界が揺れる。
第三の目は俺を起点として10メートルほどの直上に現れる為、俺が動けばその分移動し、俺がフラつけば同じように視点もフラつく。
これは先ほどから『鷹の目』を使っていて認識した事なのだが、どうにも身体から徐々に力が抜けているような感覚を受けている。
「……ふぅ。エンキ、次あっちに直進」
『ゴ!』
『自動マッピング』で更新されていくマップの範囲と照らし合わせつつ、ちょうど良い間隔でエンキを動かして行く。これ自体は楽しいし、マップが徐々に埋まっていく達成感は気持ちが良い。だけど、『鷹の目Ⅱ』って実は、かなりの『魔力』を消耗するスキルなのかもしれない。
以前ファイアーボールを手当たり次第に使って『魔力』切れを起こしたことがある。あの時は今まで経験したことのない頭痛と眩暈、吐き気に襲われ二度と経験したくないと思ったものだが、それを弱くした物が『鷹の目』の使用中ずっと続いていた。
このスキルは『アンラッキーホール』をクリアするタイミングで『Ⅱ』になったんだが、その際性能が少し変化していたらしい。自身の頭上、約10メートル付近に俯瞰視点を設置し、見下ろしをする。この点に関しては同じなのだが、俯瞰視点を動かすことが可能になっていた。それを使えばより広範囲が見渡せるので、一見グレードアップしたかのように思えるのだが……。
……これがまた酔う! すごい酔う!! めちゃくちゃ酔う!!
「ぅぷっ……」
普段、目を動かす時は誰も意識して動かしてなどいない。それを改めて意識しながら動かすというのはなんとも神経を使うものだし、更には本来存在しないはずの第三の目を動かすというのが、どうにも生理的な嫌悪感が出る。
その上、俯瞰視点が動くと俺が視界の中心にいなくなるため、バランスが崩れて世界が回るのだ。
最後に、視点を動かせば『魔力』の消費が桁違いに跳ねあがるらしく、襲い掛かる嘔吐感もグレードアップする。3重の意味で吐き気がするのだ。もう何回か試したのだが、この感覚は一生慣れないかもしれない。
「……ぶはっ! やっぱ無理、気持ち悪い」
いくら視界を動かす程効率が増すとはいえ、これを耐えながらはしたくない。しかも『Ⅱ』になったことでデメリットが発生しているようだ。視点を動かすことで追加で『魔力』を消費するだけでなく、視点を動かす機能が備わった事で『魔力』消費が増したっぽいのだ。
つまり、視点を動かさずとも無印の時以上に『魔力』がドカ食いされていく訳だ。
【レベルアップ】
【レベルが11から12に上昇しました】
レベルアップ通知と同時に、蓄積していた気持ち悪さがリセットされる。
「ふう、楽になった」
何度目かのレベルアップ。先ほどからこれの繰り返しだ。
レベル上昇で気持ち悪さが消失するのなら、あの気持ち悪さは間違いなく『魔力』を急激に消耗したことによる精神的疲労だろう。完全に枯渇した時に比べれば随分マシだが、どうにも『魔力超回復』の回復量よりも消費の方が上回っているらしい。
「最初は座ってるだけで楽できそうだと思ったんだがな……」
世の中そんなに甘くないらしい。
「気持ち悪さが消えたとはいえ、滅入った気までは回復しないよなぁ……。仕方ない」
マップ埋めの作業を一時中断して、俺は休む事にした。
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