ガチャ196回目:エンキを連れての帰還

 『迅速』があるとは言え、エンキは岩の塊だ。戦闘中に素早く動けるのと、道中を爆速で駆け抜けるのとは違う。なので俺達は、エンキの速度に合わせてのんびり歩きながら帰ることにした。

 移動速度が遅くなってしまっていることをエンキが申し訳なさそうにするが、本当に急いでいる時は50センチくらいのサイズにして持ち運べば問題ない。今はエンキを俺の仲間だと周知させることが大事なんだ。


 案の定、人型サイズのゴーレムの出現に冒険者たちは色めき立ったが、その光景を見て逃げ出す人はいなかった。前方を俺とアイラが進み、その後ろをエンキが歩いているのだが、人畜無害な事を証明するためアヤネを背負わせているのだ。

 これを見ても危険だと判断して攻撃してくる奴は、頭がおかしいだろう。


 ダンジョンを出てすぐ門番の人に呼び止められたり、協会までの道中通行人に指をさされたり、それなりに注目を集めたが大きなトラブルは無かった。

 まあ、協会に入った瞬間報告を受けて待機していた支部長が、アキとマキを連れて仁王立ちしていたけど。

 ……うん、お怒り半分呆れ半分といったところだろうか?


「アマチ君? 説明をしてくれるかしら」

「はい、新しい仲間のエンキです!」

『ゴ!』


 アヤネを降ろしたエンキが深々とお辞儀をして挨拶をする。


「それはモンスター?」

「いいえ違いますね。『鑑定』結果が通常のモンスターとは異なるでしょ?」

「……確かに。ステータス表記が存在しないわね。スキルが異常に強力だけど……まあ良いでしょう。『ゴーレムコアⅣ』と言うことは、アマチ君が作ったゴーレムと解釈して良いのかしら」

「はい、それでバッチリです」

『おお……』


 周囲から感嘆の声が上がる。

 先ほどまではその視線に恐怖が入り混じっていたが、モンスターとは別の存在と知る事で安心したようだった。


「報告では5メートルを越える巨人の姿をしていたとの事でしたが、それは事実ですか?」

「はい。可変式なので最大は6メートルちょい。『レアⅡ』のアレよりも少し大きくまで出来ます」

『ざわざわ』

「なるほど、分かりました。アマチさんにはゴーレムの仲間がいる事を周知し、誤って攻撃したりしない様にうちの冒険者達には通知しておきます。戦闘中などの映像データはありますか?」

「勿論」

「ではいつもの会議室に行きましょう。エンキ、でしたか。あなたもいらっしゃい」

『ゴ!』


 その後いつもの会議室へと入室……。エンキは身長は俺と同じでもガタイが良すぎるので扉を潜るのに多少苦労していたが、ようやく他人の目がないところへと入ってこれた。


「「おかえりなさい!」」

「ただいまー」


 アキとマキによる抱擁を受けていると、支部長は改めて興味深そうにエンキを見ていた。


『ゴ?』

「完全に自立意思のあるゴーレムね……。アマチ君、強さはどのくらいなのかしら?」

「直接はやらせてないですけど、多分『ジャイアントロックゴーレム』よりも上ですよ」

『ゴ!』

「それは……。はあ、貴方ときたら、とんでもないものを作ってくれたわね」

「ショウタさん、この子も連れて帰るんですよね?」

「ああ。流石に周知が完全に完了するまではこの状態のまま外を連れ歩けないから、他の子達と同じように小さくなってもらうけどね」

「他……? アキもマキも驚いていなかったからもしかしてと思ったけど……」


 支部長がジト目で見てくる。


「お母さん、これだよ」

「可愛いでしょ?」


 そう言ってアキとマキがスマホで撮った写真を見せ始めた。そう言えば、リヴァちゃん含め世話を丸投げした彼らは、彼女たちの手によって色々と着替えさせられてたな。


「あら、可愛いじゃない」

「「でしょ!」」


 そういえば、2人は仕事柄協会にいる事が多く、家にいる事が少ないから、一般的なペットが飼えなかったって話をしてくれたことがあったな。けど、ゴーレム達はご飯は魔石で済むし、自衛能力もあればダンジョンにも連れていける。というか戦闘しなければ消耗が少ないらしく、数週間飲まず食わずでもやっていけるらしい。どれだけコスパ良いんだ?

 まあそういうことで、職業柄、うってつけのペットというわけだ。


「特に顔やボディーがちょうど良いバランスで整っているわね。この子達は最初からこうだったの?」

「ううん、ショウタさんが調整したのよ」

「エンキもそうだけど、これなら一般受けも良さそうね。怖がられない愛嬌のある顔って案外難しいのよ。やるわねアマチ君」


 心なしか支部長のテンションが高い。支部長にも作ってあげようかな?


「いやー。俺に美的センスは無いんで、アヤネの言う様に整えただけです」

「それでも、形にしてくれた上に、構成を覚えてエンキを創り上げたのは旦那様ですわ。今回の製作にわたくしは口を挟んでおりませんの。旦那様はちゃんと、教えられたままにせず自分のものにしてますわ。だから誇っていいのですわ」


 アヤネは良い子だなぁ。よしよし。


「えへへ」

「思えば、表通りでエンキを見た子供も目を輝かせてたな。子供受けはバッチリと言うことか」

「ええ。ゴーレムを作り上げたなんてきっと貴方が初めてでしょうから、大きなニュースになるし、取材も来ると思うわ」

「ニュ、ニュース……」


 うわあ、面倒だなぁ……。

 そんな俺の反応に誰もが笑った。


「ま、アマチ君のことだから、そんなことよりもダンジョンに潜りたいんでしょう? 安心なさい、今日貰った映像データを駆使してなんとかするから。ただ、明日はダンジョン終了後にちょっと時間をもらいますからね」

「はい、助かります。お礼にゴーレム1体作りましょうか?」

「ほんと!? 嬉しいわ!」


 殊の外喜んでもらえたみたいで何よりだった。

 現状作れるのは『土』と『水』の2種類なのだが、『水』をご所望する辺り、やっぱり母娘なんだなぁ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る