ガチャ195回目:サイズダウン

 そう言えばと、宝箱の周囲に落ちた素材を見てみると、とあるものが無い事に気が付いた。


「あれ? スキルがドロップしてないな」

「レベルが表示されない相手は素材と魔石しか出さないようです。ご主人様もご存じの……いえ、忘れてるようですね」

「え? なんだっけ?」

「以前のスライム戦です。子分の虹色スライムが沢山湧いた時があったでしょう?」

「ああ、あいつらか。確かにあいつら、レベルは無かったけどスキルを持ってたような……。んん?」


 段々思い出して来たぞ。確か、あの無数に湧いてたスライム、『物理耐性Ⅱ』と『自動回復』の2つを持ってたはずだ。そして倒した時に、何か……スキルオーブっぽいものを落としてた気がするけど……。


「いいえ。奴らが落としたのは確かに丸い物ではありましたが、スキルオーブではありません。こちらです」


 アイラが見せてくれたのは、七色の光沢が綺麗な……ん? これは……。


「これ、旅行中に舐めてた飴玉じゃないか?」

「はい。イケる気がして舐めたら美味しかったので、ご主人様にも毒見させました」

「おま……」


 確かに、舐めてると時間経過で味がゆっくり変化して面白かったし楽しめたが、まさかあの強酸を撒き散らすスライムからのドロップ品だったとは……。知らぬが仏とはこのことか。


「ちなみに他のヒュージーシリーズが落としていた『濃縮スライムゼリー』。あれは旅行中にデザートに用いました。美味しかったでしょう?」

「……馬鹿みたいにでかい、ナタデココみたいな食感のアレのことか?」

「はい」


 頭を抱えたくなるが、過ぎた事なので良しとしよう。喉元過ぎれば熱さを忘れるというしな。もう消化されてるだろうけど。


「とっても美味しかったですわ」

「アヤネがそれでいいならいいや。まあつまり、あのスライムが落としたのは飴玉だけで、スキルは無かったって事だな」

「そうです。もしドロップしていれば、とんでもない数になっていた事でしょうね」

「だな」


 とりあえず、レベル表記のない特殊モンスターはスキルを落とさない、と。これだけ覚えてれば問題ないだろう。


「さて、脱出をしたいわけだが、こういう場合どうするんだ?」

「奥へ進めば出口につくはずです。出口の形態は様々ですが、行ってみればわかるかと」

「そうか。んじゃ、行くか」

「はいですわ!」

『ゴ!』



◇◇◇◇◇◇◇◇



 俺達がまっすぐ進み続けていると、無限に続くと思われた草原に変化が訪れた。まず、左右の歪みが消え、遠方に林や丘陵が出現。更に奥にはダンジョンの壁らしきものが見える。

 第二層特有の川が流れる音が聞こえ、そちらに目をやればゴブリンやキラーラビットの姿があった。

 あの不思議な場所に入るときは砂場に居たはずなのだが、今は全く別の場所にいる。マップを開けば、第二層のちょうどど真ん中にいるようだった。


「特に何事もなく出てこれた、かな?」


 振り向くと、仲間の背後にはこれといっておかしなものは何もなく、いつもの第二層の光景が続いていた。入るときも不思議だったけど、帰りも出口が認識できないまま脱出しちゃったな。俺達は一体どこから現れたんだか。


「ふむ……。私の知るものとは異なりますが、出口の方向は同じだったようで何よりです」

「無事の帰還ですわ!」

『ゴ!』


 アヤネとエンキはバンザイをして喜びを表現した。さて、これから帰る訳だが……。問題はエンキだ。このまま連れて帰る事は不可能だろう。他人の目とか仲間としての周知以前に、6メートルを超えるこの巨体では、第一層の天井に頭をぶつけてしまうからだ。あそこは、そこまで大きく作られていないんだよな。

 だが、リヴァちゃん達もそうだったのだから、エンキもアレが可能なはずだ。


「エンキ、俺と同じくらいのサイズに高さを縮める事は可能か?」

『ゴ? ……ゴゴ!』


 エンキは自身の身体を構成している『重層岩』を体外へと排出し、分離し始めた。エンキが小さくなるのに比例して、彼の傍には巨大なブロックが形成され始める。そうしてエンキが俺と同じ目線に立つ頃には、とんでもなく巨大な岩が隣に生まれていた。

 縦横奥、全てが3メートル近くある真四角の平らな岩。自然物ではまずありえないだろうな。

 アヤネはその光景に目を輝かせ、アイラは珍しく若干顔を引きつらせている。


『ゴゴ! ゴゴ~』


 サムズアップするエンキの頭を撫でてやると、嬉しそうに声を上げた。まるでアヤネだな。

 大型犬と小型犬みたいなもんだし、何も間違ってないか。


「しっかし、こんな岩が分離されるとは。一体何トンあるんだ」

「とんでもない量が出ましたね」

「ですがこれを使えば、いつでもエンキは最大サイズになれるという事ですわよね?」

『ゴ!』

「そうなるが……。アイラ、入るかコレ」

「想定よりも巨大ですので、厳しいかと。先刻話した武器としての槍はさておき、エンキがフルパワーを発揮するためにも何とかしたいところですが……。エンキ、これを賽の目に分解できますか?」

『ゴゴ!』


 エンキが手を払うと、50cmほどの四角いブロックへと変化した。単純計算で6x6x6で216個。正直、この岩ブロックを投げるだけで充分凶器になり得るな。


「ちょっと大きな積み木みたいになりましたわ。……むむ、重いですわ~」

『ゴゴ』


 アヤネが持とうとするが、そのサイズに縮んでも圧縮された岩であることに変わりはない。かなり重いらしく持ち上げるのは大変そうだった。


「このサイズであれば問題ありませんね」

「これでもかなりデカいぞ。重量や大きさがバッグの制限に引っかかったんじゃなかったのか?」

「1つの物で巨大かつ超重量というのが、バッグの口に合わなかっただけです。入りさえすれば問題ありません。それに普段から整理しておりますので、ある程度の空き空間は確保しております。ですが、消耗品や一時的な回収物としてではなく、常備品として持ち歩くわけですから、今後の活動に影響が出る可能性がありますね」

「そうか……。いつもありがとな」

「いえ。これが私の仕事ですから」


 今日は帰ったら、約束通り沢山労ってあげよう。


「本当にきついようなら、2個目を取りに行くのもありだよなー」

「このバッグを得られたのは、数多の奇跡と幸運が交じり合って起きた、再現不可能な事象ではあるのですが……。ご主人様なら叶えてしまいそうですね」


 そういえばこのバッグ、どのダンジョンで手に入れたんだろうか?

 俺、アイラの昔の事、何にも知らないんだよな。

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