ガチャ197回目:まるでヒーローショー

 支部長への報告を終えた俺達は、精算する物も特に無かったため、小さくなってもらったエンキを抱えながら帰路に着こうとした。だけど、想定外なことに協会前にはエンキの登場によって噂が人を呼び、沢山の人が集まっていた。そのほとんどが冒険者ではなく、一般の人達だった。

 俺が思っていたよりも、モンスターを連れて歩く人間という話は注目を浴びるらしい。目敏い人達は、すぐに俺や抱えられたエンキの姿を見つけ、声高に叫ぶ。


「わあ、小さい!」

「えっ、あれが?」

「キャーッ! 手を振ってるわ、可愛い!」


 バレてしまったのなら仕方がない。エンキには再び2メートルちょっとの大きさに戻ってもらい、無害な存在であることをアピールする。こう言う時、アヤネが思っている以上に活躍してくれるんだよな。率先してエンキの身体によじ登って、肩車をして貰ってる。

 その光景を見て安心したのか、遠目に見ていた子供達が駆け寄ってきて、後はもうお祭り騒ぎだ。ヒーローショーのヒーローよろしく、よじ登られたりペタペタ触られたり。無邪気な反応にもエンキは大人な対応をして見せた。

 俺だったら困惑して動けなくなるね、絶対。


 そんなこんなで、突発的なふれあいショーは協会横の空きスペースで小一時間ほど開催され、子供たちの惜しむ声を何とか振り切り自宅へと戻ってきた。実際対応したのはほとんどエンキと婚約者たちなのに、見ていただけの俺もかなり疲れてしまった。


「皆、お疲れ様。急なアレだったけど対応してくれて助かったよ」

「ふふ、囲まれてすぐにショウタさんが行動を起こしてくれたので、踏ん切りがつきました」

「まさかあんなに人気者になるなんてね」

『ゴ』

「エンキは子供たちのヒーローでしたわ」

「それを思うと、普通のゴーレムとは顔つきやフォルムが違う事で色々と助かったな。もしもモンスターのゴーレムと同じ見た目にしてたらどうなってたことやら……」


 討伐対象と同じ見た目をしていたら、子供はショックを受けるだろう。


「では、差別化のために服でも着せますか?」

「他の子達みたいに? えー……。エンキはどう?」

『ゴ?? ……ゴゴ』


 エンキは先ほどの大人びた対応と異なり全力で首を横に振った。


「イヤだってさ」

「子供は親に似るとは言いますが、エンキはかなりご主人様の感性に近い物を持ってるようですね」

「そうなのか?」

『ゴゴ?』


 よくわかんないらしい。

 まあでも、彼女達に預けたゴーレム達は、着せ替え人形にされても嫌がるそぶりを見せないもんな。


「まあそれはさておき、エンキも疲れたろ、ちょっと早いけど魔力の補給しようか」

『ゴ、ゴ』


 エンキは身振り手振りで、魔石ではなく俺の手を掴んだ。


「ん、直接が良いのか?」

『ゴー』

「わかったわかった」


 ゴーレム達は魔石でエネルギー補充が出来るが、どうやら『魔力操作』を覚えている俺から直接貰うことも可能なようだ。だがゴーレム達にも好みがある様で、最初の4体は俺よりも魔石のエネルギーを吸収する方が好きそうだったんだよな。

 けど、エンキは直接吸引の方が好みらしい。まあ、エンキは俺が育ててる子だし、好まれてるならそっちの方が嬉しいけど。

 そうして補給をしている内に、皆バラバラに動き始めていたので、俺はエンキを連れて家の案内をしていた。そして俺の部屋に辿り着いた時、1つのモノに目が行った。


「そういえばこの『魚人の種』。まるで変化がないよな」

『ゴゴ?』

「これはな、お隣の『ハートダンジョン』で手に入れた奴なんだが、いつまで経っても芽が出ないんだよ」

『ゴゴ』

「腐ったり枯れたりはしないから、『運』が足りないって事は無いと思うんだよな。だとしたら育て方か」

『ゴ』

「ん? そうだな。別のやり方を試してみるか」


 そうして詳しそうなマキとアイラを探しに行くと、二人で夕食を作っている様だった。ああ、そういえばアイラの労いが出来てないな。まあそれは後にするとして……。


「マキ、アイラ。小さい水槽とか、金魚鉢とかない?」

「どうしたんです、急に」

「おや、ペットにハマりましたか? たしかに熱帯魚や金魚などは場所も取りませんし、管理方法を誤らなければ鑑賞するだけで癒されますからね」

「いや、そうじゃなくて。『魚人の種』は土じゃダメみたいだから、今度は海水に完全に浸してみようかと思ってさ」

「「なるほど」」


 2人は相応しい物があったかと少し考えるが、珍しくアイラは首を振り、手を挙げたのはマキだった。


「テラリウムに使っていた小型の物ならいくつかあったはずです」

「借りても良いかな?」

「勿論です。本当に手乗りサイズくらいの物になりますけど構いませんか?」

「うん、最初は水に塩を適量投入したところに種だけを入れて様子見する。それでも反応が無ければ、海草やら珊瑚やら苔やら海砂やら……色々試してみるつもり」


 これでも芽が出なかったら……その時は、放置だな。

 俺より格上の『真鑑定』を持つサクヤお義母さんに聞けば、あっさりと答えてくれるかもしれないけど、それはちょっと悔しいというか。負けた気分になるから避けたいな。


『ゴゴ』

「ん?」


 エンキに腕を引っ張られ、何かと思ったらアイラを指さしている。


「私がどうかしましたか?」

「……ああ、そうだった。アイラを労うんだった」

「おや、覚えていて下さいましたか」

「ごめん、ちょっと記憶飛んでた」

「ふふ、エンキのおかげですね」

『ゴ!』


 エンキを撫でていると、マキが不思議そうな顔をしている。


「労い、ですか?」

「そうそう。今日アイラは滅茶苦茶働いてくれたからな。いつも働いてくれてるけど、ゴーレム100体釣りを何度もしてくれたり、『ボスウルフ』を手掴みで第二層を突っ走ってくれたり。まあ本当に色々だな」

「お話だけ聞くととんでもないですね」

「皆には助けて貰ってばかりだけど、アイラに関しては、活躍度が他と比較できないレベルだからな……。で、何が良い?」


 そう聞くと、アイラは少し考えた後ニッコリと微笑んだ。


「では本日のお食事。ご主人様のお口に運ぶ役をさせてください」

「それはつまり、あーんさせろってこと?」

「はい」

「そんなんで良いの?」

「主人に尽くす事に喜びを感じる。それがメイドですから」


 うーん、メイドの鑑だ。俺としてはもっとヤバイ要求が来るかと思っていたが、ちょっと拍子抜けした。そうして宣言通り、夕食時はまるで雛鳥のように、アイラが選んだ食べ物を次々と口へと放り込まれた。

 アキとマキから羨まし気な視線が飛んで来ていたが、俺はそれに気付くことはなかった。

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