ガチャ187回目:新ゴーレム起動
「それじゃ、報告にあった無茶したチームには厳重注意をしておくね」
「私は今回の動画を編集して、事前に移動させていれば『レアⅡ』は他から移動して現れるのと、それに伴う危険性を閲覧部屋とデータバンクに明記しておきますね」
「よろしくー」
2人と順番にハグをした俺は、改めて『初心者ダンジョン』第二層へと戻ってきた。目的地は当然、ゴーレム地帯だ。
砂場と平原エリアの境目に辿り着いた俺たちはそこで準備運動を行い、装備の確認をする。その最中、アヤネが楽しそうに微笑んだ。
「旦那様、走って移動するの、とっても気持ち良いですわ!」
「そりゃ良かった。さてアイラ、事前に決めてたあの作戦を決行してくれるか?」
「お任せください」
アイラはそう言ってゴーレム地帯へと無防備に飛び込んだ。こんな場所に足を踏み入れれば、普通なら足は砂の中へと埋もれていくものだが、沈み込むよりも先に前へと移動することで、足を取られることなく走り続けた。
『ゴゴゴゴ』
『オオオン』
アイラの足音に気付き、無数のゴーレムが目覚めて手を伸ばすが、彼女はお構い無しに駆け抜けて行く。前回のちょっとずつ起こして回収して、という作業が大変だったので今回は別のプランを考えてみたのだ。それがこの『寝てる連中全部起こしたら楽なんじゃね作戦』。
発案俺、実行者アイラ、応援アヤネのこの作戦だが、アイラ無しには難しいのがネックだな。
まあドロップのゴーレムコアを全無視すればこれをする必要は全くないんだが、色々と使えそうなあのアイテムを捨てるのは勿体無いもんな。
「ご主人様、お待たせしました」
そう考えていると、アイラは疲れた様子も無しに戻ってきていた。彼女の後方からは振り切られたゴーレム達の軍勢がのっしのっしと歩いてくる様子が見える。この作戦、他に穴があるとすれば他所の冒険者がいたら巻き込んでしまいそうな所だな。
それにしてもあいつら、目はないはずなのにしっかりこっちを知覚して追って来てるよな……。いや、それを言い始めたらリヴァちゃんとかもそうか。今日は家にお留守番させてあるけど。
「100匹はいると思います」
「ご苦労様。それじゃ、1匹ずつ射抜いていくか」
そうして前回と同じく的当てゲームが始まるが、今更こいつら相手に外すわけもなく。実際にアイラの言う通り100体ジャスト連れて来ていたようで、全てを射抜けば煙が立ち昇り、定位置へと移動を始めた。
「アイラ、今からここでゴーレム作るから『ストーンゴーレム』を連れて来てくれるか?」
「お任せください」
アイラが岩場に登るのを横目に、事前にアヤネに持たせていた『ゴーレムコアⅣ』を手渡ししてもらう。
「たしかこれには1600も『魔力』が入るんだったな」
「旦那様、属性はどうされますの?」
「そりゃあ、こんなに砂があるなら砂でしょ」
「どれくらい大きくなるのか楽しみですわ!」
「元があの巨大ゴーレムだしなぁ……よし、『砂塵操作』」
目の前の大量の砂を操作し、『魔石操作』を駆使してゴーレムを作り上げる。顔や輪郭、その他造形は、全てリヴァちゃん達と同じ可愛らしいデフォルメのものにしていく。アヤネに徹底的に教え込まれたおかげでスムーズに作り上げることに成功した。
次に核となる『ゴーレムコアⅣ』に魔力を全力で注ぎこみ、入らなくなったらまた『砂塵操作』で限界まで砂を纏わせていく。次第に、俺が砂を操らなくともゴーレム自身が周囲の砂をかき集め始め、巨大な3メートル級の巨人が現れた。
『ゴ!』
完成した新しいゴーレムと目が合う。あとで知った事だが、造形として作ったデフォルメお目目は、そういう意味で作った場合、ちゃんと目として機能するらしい。
「お。お前、喋れるのか」
『ゴ!』
「可愛いですわ!」
いつものようにサムズアップをするゴーレムに安心感を覚える。うーん、これだとただデカいだけの通常ゴーレムだな。見た目は可愛いが、他とは差別化させたいし……。
「旦那様、この子の名前は何にされますの?」
「名前か。そうだな……」
土のゴーレムだし、これからは活躍させたいから強そうな名前が良いよな。土の王、土の神……。
「エンキ。お前の名前はエンキだ」
『ゴゴ!!』
「エンキですわね! よろしくですわ!」
「エンキ、とりあえず『自動回復Ⅳ』を覚えてくれ。これがあればそう簡単にやられないだろうしな」
『ゴ!』
「ご主人様、連れてきました」
エンキにスキルを渡していると、アイラが『ストーンゴーレム』を連れてやってきた。
うーん、そうだな。せっかくだし……。
「エンキ、やれるか?」
『ゴ!』
エンキは振り返り、『ストーンゴーレム』と対峙する。3メートルの巨人同士のぶつかり合いだ。
両者の違いは、まずエンキのコアは『Ⅳ』で材質は砂。スキルは『自動回復Ⅳ』のみ。
『ストーンゴーレム』のコアは『Ⅱ』で材質は石。スキルは『鉄壁』『城壁』『砂塵操作Lv1』。
どちらにも強みがあるが、果たしてどうなるか……。
『ゴゴ……』
『……』
睨みあう両者がよく見える位置に陣取りつつ、俺達は暢気に座り込んでいた。
「ちょっとサイズ感は小さいですが、怪獣大決戦のようですね」
「そうだなー」
それを思うと、ここにコーラとポップコーンがあれば完璧だったな。
「ご主人様、申し訳ありません。私の準備不足です」
「いや、今出されても砂まみれになるからね?」
「旦那様はどちらが勝つと思いますか?」
「んー、どうだろ。有利不利は互いにあるし、エンキはステータスが見えないからな」
軍配はどちらが上だろうか。まあやばそうなら手助けしてやるか。
リヴァちゃん達には彼女達がそれぞれ担当しているように、エンキを担当するのは俺なんだ。俺の子にする以上は、大事にしてやりたいからな。
「そうではありませんわ。こういう時はエンキを応援してあげるのですわ! 旦那様が応援すればエンキもやる気が上がりますの」
「そういうもんなのか?」
「旦那様は、わたくしに応援されても何も感じませんの?」
「いや、そりゃ滾るけど。……ああ、なるほど。よしエンキ、ぶちのめせ!!」
『ゴ!!』
俺の言葉に応えるように、エンキは拳を振りかぶる。対して『ストーンゴーレム』は腕を上げてガードの姿勢に入った。
『ドガン!』
例え材質が砂であろうとも、コアの出力の高さか、『自動回復Ⅳ』による修復力のおかげか。エンキの拳は見た目以上に高密度だったようだ。その一撃は相手の石腕を軽く粉砕してみせた。
「おお!」
「すごいですわ!」
『ゴゴゴ!!』
俺達の反応が嬉しかったのか、エンキはそのままラッシュを仕掛ける。相手は砂を使って腕を修復しようとするが、エンキの攻撃速度の前に、その行動は焼け石に水だった。そのまま残った片腕や頭部も吹き飛ばされ、最後には中心のコアに正拳突きが激突。
『ビシビシ……ガシャンッ!』
肝心のコアを叩き割られ、『ストーンゴーレム』は力を失い、全身から煙を噴きだした。呆気なかったが、どうやらエンキは思っていた以上に強いらしいな。
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