ガチャ185回目:生息域の移動(物理)
『ジェネラルゴブリン』。
奴らのその特性は通常モンスターだろうと『レアⅡ』だろうと何も変わらない。周囲にいる人間の中で一番弱く、か弱い女性を最優先に狙う。確かに俺とアヤネで比べた場合、レベルはアヤネが上でも相対的な強さであれば、アヤネの方がいつまでも弱いままだろう。
だが、本能に従う前に気付くべきだった。アヤネが自分よりも、圧倒的格上の存在であることに。
「ま、所詮モンスターか」
「旦那様。わたくし、うまく迎撃出来ましたわ」
「よしよし、偉いぞー」
「えへへ」
アヤネの頭を撫でていると、『ジェネラルゴブリン』の煙が消えるとともに、『ホブゴブリン』のドロップアイテムと合わせて両方のアイテムが出現した。
「やっぱ、移動した場合でも前のレアのドロップもまとめて落とすんだな」
「そうですわね。条件を満たして『レアⅡ』が出現する場合、死体が消えた時に通常レアのアイテムは何一つドロップしない事でも判別できそうですわね」
「あー、『運』の条件を満たせてないチームメンバーや外野が見てる時の話か? でも、ドロップアイテムってどれが確定出現するかどうかは分かってない訳だし、その判断は出来なくない?」
「あぅ、それもそうでしたわね」
「……あ。アイラいないけど、このドロップ品どうしよ」
アイラがついてくるようになってから、俺はリュックを背負うことは無くなっていた。そのため、アイテムを運搬するための道具は何一つ持って来てはいないのだった。
目の前には魔石2つ、スキルオーブ3つ、大剣1つに防具が1つ。どうしたものか。
「旦那様。魔石やスキルオーブくらいなら、わたくしもウエストポーチがありますから運べますわ」
「助かる。じゃあ装備は、俺が持って運ぶかな」
「う、うわぁ!?」
「な、なんだあれは!!」
そんな話をしていると、背後から悲鳴のようなものが聞こえた。
そちらには確か、先ほど居合わせた冒険者達が観客と化していて、俺達の戦いを見て盛り上がっていたはずだが……。
「あ、噂をすればアイラですわ」
アヤネの指さした先を見れば、確かにアイラがこちらに向かって走って来ていた。明らかにおかしなものを手にしたまま。
『ドドドドドド!!』
「おいおい、嘘だろ……」
現実逃避気味にマップを開けば、アイラと思われる白点に重なる様に大きな赤丸と、それを追う無数の赤点の表示があった。やっぱり、見間違いでは無かったのか。『ボスウルフ』の首根っこを掴んで、雑魚と一緒にこちらに向かってきている!
アイラは観客を避けるように大回りでこっちに回り込んでくると、散々引きずり回してきた『ボスウルフ』を地面に縫い付けた。
『ギャンッ! ……ゼェ、ゼェ』
長距離を乱暴な扱いで運ばれて来たためか、既に虫の息だが。とりあえず、折角連れて来てくれたんだし、勿体ないから雑魚からやるか。
「アイラはそのまま維持」
「承知しました」
俺は『カイザーヴェイン』を取り出し、彼女が連れてきたヒルズウルフの群れを速射で射貫いて行く。矢は実体ではなく魔力で作り上げられた存在であるため、連続撃ちや複数撃ちなどの高度な技も、わざわざ矢筒から取り出す必要はない為、簡単に行えた。まあ、それでも『身体超強化』『弓術』『体術』のスキルがあるからこそではあるが。
相手の数は大したことなく、30匹くらいだったようで、跳ね上がった俺の技量の前になすすべなく倒れていった。
『グルルルル……』
地べたに無理やり這いずらされ、召喚した子分を蹴散らされた怒りか『ボスウルフ』は唸り声をあげている。まるでこっちが悪者みたいだな。まあ客観的に見ればそうかもしれんが。
「悪いな」
『スパン!』
至近距離からの矢を受け、『ボスウルフ』は絶命し煙へと変わった。
「アイラ、結局これはどういう顛末で持ってきたんだ?」
「はい。思っていた以上に『ボスウルフ』が召喚するヒルズウルフと、再出現するヒルズウルフの襲撃頻度が高く、捌き切れなかったようです。救援を求められましたので報酬代わりに貰ってきました」
「動画はちゃんと見てた人?」
「はい。ですがご主人様があまりにもあっさり倒していた為、簡単そうに見えた様です」
「それは……慢心だな。そいつらは帰ったのか?」
「いえ、恐らく付近で休んでいるかと」
ふむ。なら、次はこいつの煙がどうなるかだが……。
「よし、アヤネとアイラに次の指示を出す」
◇◇◇◇◇◇◇◇
案の定、煙は元の鞘に収まるがごとく最寄りの丘陵地帯へと移動を始めた。
レアから『レアⅡ』への変貌は煙の膨張からすぐに出現する関係か、その移動速度は今までで群を抜いていた。俺の移動スキルを全力使用しても追いつけない速度で移動されてしまったが、移動する事は分かっていた為アヤネとアイラを先行させてある。もし沸かなければ、ドロップを回収して合流すれば良いだけだしな。
俺が辿り着いた時には、またしても観客が見守る中で、アイラと『ワーウルフ』が短剣と爪でバチバチに切り結んでいた。
「おまた、せっ!」
駆け抜けて来たその速度を威力に変換し、背後からぶった切る。威力のおかげかステータスの恩恵か、はたまた剣の力か。『腕力』系のスキルを使用せずとも『ワーウルフ』の首を一刀両断にした。
【レベルアップ】
【レベルが45から71に上昇しました】
『……お、おおおお!!』
その一瞬の出来事に、観客も何が起きたのか一瞬理解できていなかったが、俺の姿を認めると歓声が上がった。うーん、まあ。邪魔されないのならこういうのも悪くないか。
そして相変わらずの凄まじい速さでドロップアイテムを回収したアイラに労いの言葉を掛ける。
「おつかれ。観客に伝言は?」
「ばっちり反省させました。後で奥方様にもお伝えして悪い見本として協会内に伝達させましょう。そしてこれで、どれだけ離しても元の位置に湧くというのは検証完了ですね」
「検証できてしまった以上、突然煙がやってきて『レアⅡ』が出現するというのは事故の元ですわね。レアモンスター出現地点には、長く留まらないよう徹底させた方が良いかもしれませんわ」
「……いや、もう1つ確認したいことがある。例えばここの丘陵地帯を地点Aとする。他の3つをB、C、Dとした場合。例えばAで沸かせた『ボスウルフ』をB寄りのマップ角に持って行った場合、湧くのはBか、Aか。というものだ」
「なるほど……。それは確かに気になりますね」
「旦那様。その違いで、何か問題があるのですか?」
「ああ。Bで湧いてくれるのなら良いんだが、もしそれでもAで湧くというのなら、出現した地点で完璧に管理されているというわけだ。もし仮に、Aで出現した『レアⅠ』をずーっとキープされていた場合、他の誰かがAで条件を満たしても『レアⅠ』や『レアⅡ』が出現しない可能性がある」
「なるほどですわね」
実に面倒な話だ。
「あとは……そうだな。回避策の検証としては『レアⅠ』を沸かしたままもう100匹その場で狩った場合、2匹目が出るかの確認でわかることだな」
「なるほどなるほど」
「はわわ……。頭が混乱しますわ」
「はは。とりあえず、得られるものが多いし『ボスウルフ』でABの移動検証を始めようか」
「「はい」」
そうして俺達は観客のいない丘陵地帯に移動し、検証を開始するのだった。
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