ガチャ184回目:アップデート

 レアモンスターの湧きポイントにてたむろする一団。傍から見れば安全地帯で休んでいるようにも見えるが、以前の横取りされた苦い経験が思い浮かぶ。だが、今の俺のランクはAだ。『A+』になるには少し審査が必要になるとかで時間はかかっているが、それでも邪魔をされるような相手とかち合う事になる可能性は低いはずだ。

 俺の心配を察してか、アイラは一足先に到着し、その連中に牽制する。


「今からレアモンスターと戦います。巻き込まれたくなければお下がりください」

「え、いきなり……ってメイド服!?」

「この人、動画で見なかったか!?」

「悪いがもう到着だ」


 彼らと煙の間に立つ。

 すると煙は膨張を開始し、中から『ホブゴブリン』が現れる。


『グオオオオオッ!!』

「うわ、ほんとに出た!」

「じゃあこの人が、レアモンハンターさん!?」

『グオアッ!』


『ガシッ』


 振り下ろされた『鋼鉄の大剣』を片手で白刃取りする。流石に指2本で掴むような曲芸じみた真似はまだ出来なくとも、片手で掴むくらいなら簡単に出来てしまった。まあ、相手が第二層の『ホブゴブリン』という、取るに足らない相手だからこそ出来る芸当なのだが。

 そして『ホブゴブリン』は、性質として頑なに剣を手放す真似はしないらしい。なので、もうこうなってしまっては、コイツはただの木偶の坊な訳だ。


「アヤネ、アイラ」

「ご主人様、それはもう不要かと」

「おっと、そうだったな」


 彼女達に一撃を入れるよう合図をしたが、もうその必要はない事を思い出した。

 俺がプレゼントした『愛のネックレス』。この装飾品は隠し効果として、戦闘に参加していなくても俺が戦って得た経験値が、自動的に割り振られるという、とんでもない性能を持っていた。

 この性能、自分で見つけられたのなら良かったのだが、まさかサクヤお義母さんから教えてもらうことになるとは。少なくとも、あの人は俺よりも『真鑑定』のスキルレベルが高いことを意味している。それに、明らかに『真鑑定』で出来ることを俺より把握してるっぽいし。

 今まで出会ってきた中で、一番俺が目指した道の先を行く人だよなぁ。あと綺麗だし、どこか可愛らしいところもあるし。熱い視線を送って来るし。あれでアヤネの母って。なんなんだよあの美魔女は。姉にしか見えないっての!

 あれがレベルを上げた結果、綺麗になった上で、美しさが保たれてる証明か。


 4人の婚約者達のことは好きだし、2人の義姉には心は動かなかったけど、あの人にお誘い受けたらフラッと行っちゃいそうで怖い。

 ……ああ、思い出したら段々と会いたくなってきちゃったなぁ。


「……様。旦那様!」

「んぇ!?」

「戦闘中に考え事はしないでくださいまし」

「あ、ああ、ごめん」

『グオッ、グオオオッ!!』


 そういえば『ホブゴブリン』の剣を掴んだままだったな。


「ご主人様。姉妹丼、主従丼の次は親子丼ですか。節操無しとは度し難いですね」

「やかましいわ」


 考えがバレてるのはもう良いとして、そういうのを周りに人がいる状況で口走るのは何とかならんのか。あと、度し難いのはそのなんでもそっち系のネタに昇華させてしまうお前の頭だ。


「観客は?」

「少し離れたところに退避されました」


 ちらりと見れば、距離を置いてこちらを眺めてる。どうやら本当に休憩をしていたらしい。

 やっぱり、横取りは気にし過ぎだったかな……?


「アヤネ、カメラは?」

「ずっと回しっぱなしですわ」

「じゃ、ここまでカットで」

「仕方がありませんわね。……はい、出来ましたわ」

「それじゃ。……どおりゃ!!」

『グオッ!?』


 俺は『体術』と相手の力を駆使して、背面に転がりつつ巴投げをした。投げ飛ばされた『ホブゴブリン』はゴロゴロと転がっていく。

 投げる際に、思いっきり相手の胴体に蹴りをかましておいたおかげか、ダメージがそれなりに入ったようで、上手く起き上がれないようだ。


「3倍マジックミサイル」


 数十メートル先で蹲る『ホブゴブリン』に、魔法を放つ。マジックミサイルは一瞬で距離を詰め、敵の身体を貫いた。『ホブゴブリン』は文字通り。相変わらずえぐい威力してるなぁ。3倍マジックミサイルは。

 『ホブゴブリン』程度では誰もレベルは上がらないので、後は煙の行く末を見守るだけだな。


「どうなるでしょうか?」

「どうなるかなー」

「もしも投げ飛ばされたあの位置が、出現ポイントに定められた範囲内なら無駄骨ですね」

「ああ、そうか。それもあったな。もうちょっと飛ばしとけばよかったか……?」


 暇なのでマップを開いて周囲の状況を確認しようとすると、違和感に気付いた。


「……お?」


 モンスターは赤、人間は白。ここでは見かけないが宝箱は緑のアイコンで示されるのだが、あの煙が出ている地点。死骸であるため今までは非表示だったはずのそれは、薄く赤い点で表示されていた。しかも、その点は他の赤点に比べて数倍以上大きな赤で描かれていた。


「もはや、点ではなく丸だよな」


 これは『自動マッピングⅢ』になったことで追加された機能なのだろうか。しかもマップに触れれば、拡大と縮小する機能までついていた。流石に1つ1つの赤点が何なのかの確認は出来ないが、一際大きな赤点……いや赤丸は、つまりはなのだろう。

 何故なら、ここから近い位置の丘陵地帯。ヒルズウルフのクレーターにも同じ反応があるからだ。しかも、戦闘中なのか複数の白い点と無数の赤点が入り乱れるように映っている。


「アイラ」

「はい、ご主人様」

「マップ機能がアップデートされた。ここから近い位置にあるあっちの丘陵地帯で『ボスウルフ』が沸いてる可能性が高い。戦闘中みたいだし、心配だから見にいってやってくれ。必要なら手助けを」

「承知しました」


 アイラは何も疑問に思わず、俺の指示に従い全力で移動した。まるで風のように移動した彼女はすぐに視界から消えたが、マップには高速で移動する白点が見えた。あれならあと数十秒で到達するだろう。

 ほんと、うちのアイラは優秀だわ。


「旦那様、わたくし達は如何しますの?」

「予定通りこの煙の行先を見守る」

「はいですわ」


 なんて話をしつつ待機をしていると、煙は膨張し、俺の背後へと急速に移動を開始した。

 そして定位置に辿り着くと中からモンスターが現れる。


『ギギッ!』


 そしていつもの様に、周囲で一番弱い対象に向かって突貫しようとするが……。


『ガゴンッ!』


『ギェッ!?』

「わたくしはもう、あの頃のわたくしとは違いますの」


 アヤネは自分の手で迎え撃ち、カウンター気味の杖による打撃で『ジェネラルゴブリン』の脳天をかち割った。


「あ、やりすぎてしまいましたわ」

「いや、死んで無いから大丈夫だよ」


 奴が身に着けていたヘルメットは大きく陥没していたし、息も絶え絶えだが、まだ煙にはなってない。瀕死の重傷を負った『ジェネラルゴブリン』に対し、俺は容赦なく追撃を入れた。


【レベルアップ】

【レベルが44から45に上昇しました】


 実験はひとまず成功。『レアⅡ』はちゃんと移動してから出現してくれたし、アヤネの成長も間近で感じられた。

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