ガチャ179回目:烈火と蒼

 サクヤさんから一通り話を聞いた俺達は、パーティー会場へと戻って来ていた。


 色々と思う事もあるし、改めて皆と相談したいところではあるが、ここはまだアヤネの家。サクヤさんの手の中にあるのだ。彼女を初めて見て得た感想としては、警戒する必要を感じていないのだが、それと同時に本当に信頼していいのかの確信も持てないでいた。

 『直感』で何も感じない以上、彼女は警戒する必要がないのか。それとも俺の『直感』が仕事してないだけで、本当は危ない人なのか。どちらが真実か掴めていない以上、迂闊にこの場であの話の続きをする気にはなれなかった。


 で。

 サクヤさんへの……ああ、サクヤお義母さんへの挨拶が終わったからといってそそくさと帰るのも勿体ないし、パーティー会場に来ている人たちともう少し交流を深める事にした。先ほどの挨拶回りで主要な支部長には挨拶出来ていたようなのだが、アキとマキの祖父であり支部長の父、協会長は来ていないようだった。

 なので、挨拶出来ていないのは2種類の人間に絞られた。サクヤお義母さん個人と契約を結んでいると思われる、経済界のお偉いさん達。そして『中級ダンジョン』を主な活動の場としていて、サクヤお義母さんからある程度信頼を得ている冒険者チームだ。

 前者は俺では持て余す種類の人達なので、繋ぎに関しては婚約者達に丸投げをし、俺は後者の冒険者チームに挨拶をしに行く事にした。

 ただ、一人だと心細かったのでアヤネを連れてだが。


「一緒に来てくれて助かるよ」

「構いませんわ。ここにいる冒険者のチームの方々は、皆さま顔見知りばかりですの。わたくしに任せてくださいませ」


 どうやら、アヤネのアイラによるレベリングは、もっぱら『中級ダンジョン』で行われていたらしく、その過程でここにいる冒険者とは顔見知りになったそうだ。いつになく彼女を頼もしく想いながら、案内をしてもらう。


「『烈火の剣』の皆様、ごきげんよう」

「あ、アヤネちゃんだー!」

「久しぶりね、元気してた?」

「おめかししちゃって。今日もバッチリ可愛いわよ」

「はわわ、離してくださいまし!」


 アヤネは、まるで飢えた猛獣の檻に入れられた小動物のように一瞬で取り囲まれ、頬擦りされたり抱きしめられたりと全力の可愛がり攻撃を受けていた。まあ、アヤネは素直ないい子だし、同性にモテモテでもおかしくはないかな。


「君が噂の天地翔太君か。うちの妻達がすまない、皆突然ダンジョンに来なくなったあの子の事を心配していたんだ」

「初めまして、ショウタでいいですよ。えーっと……、『烈火の剣』の進藤灯夜さん、でしたっけ」

「ああ。俺もトウヤでいい。シュウから聞いてるぞ、なんでも期待の後輩だとな。俺達もあいつに誘われて動画を見させてもらった。まさか、古巣にあんな化け物が出るなんて、驚きを隠せない」

「いや、お恥ずかしい。先輩からしてみれば、俺の戦い方なんて見ていられない代物だったでしょう?」

「確かに、粗削りだしステータスやスキルに頼りっぱなしのように見えた。だが、それは誰もが皆通る道だ。恥じる心があるなら、君はもっと成長できるさ」

「ありがとうございます」


 トウヤさんとはその後、レアモンスターの情報の対価として彼が拠点にしている『中級ダンジョン』の情報をいくつか教えてくれた。その情報の中に、興味深いものがあった。

 それは、『鑑定』で見えているにもかかわらず一切ドロップしないスキルがあるという話だった。

 俺が知っているそのスキルは『限界突破』だけだが、他にもそういったスキルがあったのか、それとも他とは違って極小の確率に設定されているのか。是非とも対峙して検証したいものだ。


 その後、別れを惜しむトウヤさんの奥さんたちからアヤネを引き剥がし、次のチームへと挨拶をしに行く。だが、『烈火の剣』のような友好的なチームは相当珍しいようだ。何組かに挨拶をするも、アヤネへの当たりはきついし俺には睨みが飛んでくるし。まともな挨拶さえ出来やしない。

 だが、最後に挨拶にいったチームは、『烈火の剣』と同じく俺達を好意的に迎え入れてくれた。全員が女性で構成された珍しいチーム『蒼霧』だ。


「初めまして、天地翔太君。私はこのチームのリーダーを務めている五十嵐香織よ。ファンと同じようにカオリンって呼んでいいわよ」


 彼女は茶目っ気溢れる笑顔でそう言った。

 『蒼霧』はメンバー全員がAからBランク相当の実力者らしく、冒険者だけでなく一般の人達からも支持されてるチームだ。女性のみのチームというのもかなり珍しいそうなのだが、彼女達のチームが発足したのにはちゃんとした理由があった。

 まずレベルアップというのは、言わば身体の『進化』だ。その為、レベルは上げれば上げるほど、その人間にとって一番強く美しいスタイルへと進化し、また高いほど維持しやすくなる。という論文があるらしい。

 それが事実であるならば、冒険者を集める際の売り文句として使えそうだということで、実験的に何組もの女性チームが発足した。『蒼霧』はその中でも一際優秀なモデルケースとして注目を集めているらしい。

 アキやマキからはそう聞いている。


 実際、彼女達が冒険者になった当時と今とでは、明らかに容姿やオーラのレベルが段違いだそうなのだ。まあ、これは彼女達にとっては黒歴史というか、昔の自分なんて見られたくないだろうから、俺は見せては貰えなかったが。


「いやー、俺は別にファンではないので。普通にカオリさんで。俺もショウタでいいですから」

「ふふ、そう? 貴方の動画、見させてもらったわ。あのダンジョンにあんな連中がいたなんて驚きだけど、その内こっちの秘密も暴いてもらえるのかしら」

「ええ、そのつもりですよ」

「期待してるわ。君も挨拶したなら分かると思うけど、宝条院家の専属組は嫌な連中ばかりなのよ。レアなモンスターや宝箱はあの連中が独占状態。レアモンスターに関しては『運』の問題で仕方のない部分があるとはいえ、宝箱を独占されるのは収入的に辛いのよね。君が何とかしてくれるのを期待してるわ」

「ほどほどに頑張りますよ」


 カオリさんの話を聞くと、どうやら俺達が先程挨拶した連中は、宝条院家の子供達が率いる配下のチームばかりのようで、彼らの誘いを受けた俺が気に食わないらしい。その上、俺がばっさりと断ったもんだから、余計にこじれてしまったようだ。

 その後もいくつか情報交換をした後、カオリさんと握手をしていると、やっぱり女性陣から揉みくちゃにされていたアヤネがこっちへと逃げ出してきていた。


「旦那様、終わりまして?」

「ああ、アヤネもお疲れ。帰ろうか」

「かおりんさん、また今度ですわ」

「またねー、アヤネちゃん」

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