無料ガチャ020回目:宝条院家2【閑話】
会場から離れ、自室に戻った宝条院家次女、ユキネは苛立ちを隠せないでいた。
「なんなのよアイツは!!」
「ユキネ、落ち着きなさい」
「タカ姉は悔しくないの? あたし達の『魅了』も『誘惑』も効かなかったのよ!」
「……悔しいに決まっているでしょ」
妹を嗜めつつも、タカネもまた無力感に苛まれていた。
「こんなの、初めての経験よ!」
「そうね。……この力が上手く働かないのは、私達に対して欲情していない男の人だけ。自制心がとてつもなく高い人も該当するけど、彼は間違いなく私達の胸に目が行っていたわ」
「でしょ!? 胸に触った時、明らかに鼻の下が伸びてたのに、能力が効かないなんて……。ロリコンじゃなかったらなんなのよ。自信無くすわ」
今までこの力を使って、2人に落とせない男はいなかった。それを念には念を入れての2人での同時使用をしたにも関わらず、失敗してしまった。スキルによる付け焼き刃とは言え、母と同じ能力で落とせない相手との遭遇は、彼女たちの自信を打ち砕くには十分すぎた。
「……でも、アヤネ。愛されていたわね」
「……そうね、聞いていた話とは違うわ。あの睦まじさ、絶対肉体関係あるでしょ」
「あの子は、本当の愛を手に入れたのでしょうね。……少し、羨ましいわ」
「アヤネのくせにズルい……」
2人同時にため息を吐く。
「あの子が身に付けてたペンダント。装飾はありきたりだけど、中心に据えられたダイヤは格別の輝きをしていたわね」
「うん……。あれを見せられたら、毒気を抜かれちゃったわ」
またしても、2人同時にため息を吐く。
「あーあ、アヤネに男もダンジョンも、先を越されたかぁ」
「そうなるわね」
「ダンジョン競争とか、どうでもよくなってきちゃった。タカ姉、あたし一抜けするね」
「あら、どうしたの急に」
「あたしだってそろそろ、ちゃんとした彼氏欲しいし」
「部下の男達は?」
「『魅了』を解いてから考えるわ」
「本気なのね。……私も、身の振り方を考えようかしら」
◇◇◇◇◇◇◇◇
ショウタ達との挨拶は終わり、一人部屋に残ったサクヤはうっとりとしていた。
「アマチ、ショウタさん……。ふふ。あんな掘り出し物がこの国にいたなんて。私の情報網も、まだまだ改良の余地がありますね」
サクヤは、密かに手に入れたショウタの写真を指でなぞりながら、妖艶に微笑む。
「自覚無しに、婚約者へ特殊なアクセサリーをプレゼントしていたようですし、そういう星の元に生まれてきたのかしら」
アヤネを『真鑑定』した際に目に入った『愛のネックレス』。あれには、隠し効果が付与されていた。
「『邪気を払い、心で通じ合うパートナーが得た経験値を戦闘の有無に関わらず取得可能』だなんて、ね。教えてあげたら驚いていましたし……。ふふ、可愛らしい反応だったわぁ……。隠し効果が見れないのなら、彼の『真鑑定』のレベルは3~5といった所でしょうか。どのようにして『真鑑定』を手にしたかは謎ですが、今は彼に友好的に見られるよう努力しましょう」
端末を操作し、ショウタが気に入りそうな情報をリストアップしていると、部屋にノックの音が木霊した。
「お母様」
「あら、タカネちゃん。どうぞいらっしゃい」
「失礼します。……お母様、申し訳ありません。彼を篭絡できませんでした」
「あら、良いのよ。私としては失敗してほしかったから」
サクヤの意向を感じ取れなかったことに、タカネは少なからず衝撃を受けた。しかし、その感情を表に出さぬよう必死に取り繕い、続きを促す。
「……と、言いますと?」
「肉体的な快楽とスキルによる合わせ技のハニートラップは、国外からのスカウトでもよくある手口だわ。その搦め手で、一体何人の有望な人材が引き抜かれて行った事か……。タカネちゃんとユキネちゃんの2人で落ちないのであれば、彼についてはその手の方法で他国へ流れ出る心配はほぼ無いと見ていいでしょう」
サクヤとしては、娘たちの行動はその試験に丁度良く、それで落ちても落ちなくてもどちらでも良かったのだ。だが、気持ちとしても、今後の課題としても、落ちてほしくはなかったのでこの結果は最上と言えた。
「ああ……、お母さまの御心が読めず、先走ってしまい申し訳ありません」
「いいのよ。ただ、彼がいつまでも簡単に落とせる相手と見下していた点については、3人とも減点ね」
「どのような罰でもお受けします」
「でも、今はそんな気分ではないの、その件は追って伝えます。ところで、ユキネちゃんはどうしたのかしら?」
「競争から降りたいそうです」
「そう……。許すわ」
「感謝します、お母様。彼の邪魔もしないよう厳命します」
「そうしてちょうだい。……それとあなた達、誰もあの子の動画をチェックしていないそうね? 時代に置いて行かれたくなければ、必ず見るようになさい。前線から退くとしても、ユキネちゃんにも見るよう伝えるように」
「承知しました、お母様。……それから、1つ質問があります。宜しいでしょうか」
「あら、なんでも聞いて?」
いつになく上機嫌なサクヤに、タカネは軽い嫉妬を覚えた。
過去、これほど上機嫌だったのは、トロフィーを獲得した時くらいだろうか。
「先ほど会場に出向いた際、彼を見てお母様は何か確信した様子でした。私はそれを、別の意味で捉えてしまいましたが、あれは何を感じ取ったのですか」
「あら、きちんと見ていたのね。さすがタカネちゃんだわ。そうね、彼が発していた2種類のオーラが格別だったのよ」
「相手の所持するスキルのレア度と、運命力の程度が視えるお母様の能力ですね」
「そう。本当に素晴らしかったのよ」
タカネはサクヤの反応に満足したのか、一礼し部屋を出た。
サクヤは改めてショウタの写真を眺める。
「……新しい私の息子。あなたがこの国のホルダーとなれるように、お母さん全力で支援してあげなくちゃ。そしていずれは……。フフフ、楽しみだわぁ」
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