ガチャ176回目:握手と掌握
玄関を潜ると、そこはダンスホールになっていて様々な人たちが歓談をしていた。入場して来た俺に向けてさまざまな視線が向けられたが、一体何人の人が、この歓迎会の主役が俺であると気付いただろうか。……いやまてよ。そもそもあの動画を観ていれば俺が誰だか分かるはずか。逆に、ここにいるのは知らない人ばかりだな。
そんな事を考えていると、数少ない交友関係の中でも見知った顔が視界に入った。
「あ、リュウさん!」
「おお、少年。元気そうじゃな!」
第128『上級ダンジョン』支部長、リュウさんだ。俺は早速彼の下に駆け寄り頭を下げた。
「先日は貴重な剣をありがとうございました」
「なーに、お主から融通してもらった『お願い』に比べれば安いもんじゃよ」
リュウさんと親交を温めていると、他の見知った人と一緒に複数の男女が近づいて来た。
「ほぉ、彼が例の」
「おお、アマチ君! 君が持って来てくれた『お願い』。とても助かっているよ」
「あら、動画で見るよりも可愛らしい子じゃない」
「この子がミキちゃんの新しい息子さんなのね?」
「も、もう。揶揄わないでください……」
うん、この反応と支部長の対応で彼らが何者かが分かった。全員がこの地域一帯の支部長格の人達なんだろう。アキとマキが普段からお世話になってるみたいだし、2人に紹介してもらいつつ全員と挨拶をして回った。
この人達皆フレンドリーだけど、全員が支部長なんだよな。今話しただけでも8人ほどいたし、ほんとにこの地区ってダンジョンが多いんだな。
……ああ、そう思うとワクワクして来たな。しばらくダンジョンから離れて彼女達に甘やかされて、幸せを感じていた。自分でもだいぶ腑抜けていたと思うんだが……。
どうやら、俺の牙は抜けていないらしい。俺の攻略したダンジョンはまだたったの1つ。手近なダンジョンがこんなにもあって、そこのトップはこんなにも協力的なんだ。滾ってきた。
それに、この人脈は彼女たちの努力のおかげで成しえたものだから、感謝しなきゃな。
「ショウタさん、楽しそうですね」
「そう見える?」
「はい」
「良いんじゃない? やっぱりそういう顔してる君の方が、あたしは好きよ」
嬉しい事を言ってくれる彼女達を抱きしめて、改めてその存在に出会えた奇跡に感謝をしていると、周囲の空気が変わった。
その空間の中で異様な気配を発している集団に目を向けると、幾人かの男女の中、一際異彩を放つ人物がいた。
『魔女』
それが彼女、宝条院家当主、サクヤさんに抱いた最初の感想だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
サクヤさんを始めとした宝条院家の人達が現れた事で、歓迎会の開催が宣言された。そして俺とアヤネはサクヤさんの前に呼び出されて、紹介してもらうとともに正式に付き合いを認めることを宣言してもらう。
普通、その前に俺がサクヤさんのところに顔を出して挨拶するべきだと思うんだけど……順番間違ってない? 良いのかな……。でもこんな大々的に発表してくれてるんだし、認めてくれてるとは思うんだけど。
俺の知らないところで。
俺が不思議に思っている内に、サクヤさんの挨拶はすんなりと終わり、奥へと引っ込んでいってしまった。それを皮切りに、会場の空気が元に戻り、参加者たちはそれぞれ会話に興じ始めた。
俺、まだあの人に挨拶すらしてないのにな。
「旦那様、大丈夫ですわ。恐らく後で呼び出しを受けると思いますから」
「そうなの? なら、良いのか……?」
本当に良いのかな?
流れについて行けずに困惑していると、サクヤさんと一緒に現れた男が順番に話しかけてきた。
「君がアマチ君だね。お初にお目に掛かる。私は宝条院家長男、ユズルと言う。よろしく頼む」
「あ、初めまして。アマチショウタです」
長男ということはアヤネの兄か。つまりは俺の義兄か。ユズルさんと握手をするが、彼は手を握ったままの姿勢で話し続けた。
「アヤネが母上より先に目を付け、更には手を出した男と聞いて興味があったが……。中々骨があるらしいじゃないか」
徐々に、手に込められた力が強くなっていく。普通の人間なら、そろそろ悲鳴をあげてもおかしくはない握力で握られているな。もしかして、試されてる?
「どうだ、うちの第二部隊の副長を務めてみないか? 君ならそれなりの戦果を出せるだろう」
「あ、そういうの結構なんで。俺は俺の自由にやりたいんで、誰かの下につく気はさらさら無いんですよね」
「……何だと?」
ユズルさんからの圧力と共に握力が増した。一般人なら骨が折れてるかもしれないな。流石は高レベルの冒険者といったところか。……まあ、俺には効かないんだけど。
「母上が認め、アヤネと婚約したことで調子に乗っているのかもしれないが、君はまだ世界の真実を知らない。アヤネと同程度の実力では、『初心者ダンジョン』を出ればすぐに通用しなくなる。多少レアモンスターを狩れたところで、すぐに限界が来るだろう。これは善意で教えてあげてるんだよ」
「まあ確かに調子には乗ってますよ。こんな従順で可愛い女の子を娶れるんだし。あと、俺の動画ちゃんと見ました? ユズルさん、
「貴様……。この程度の力しか出せない癖に随分と尊大だな。この俺の配下に加えてやると言ってるんだぞ?」
なんだこいつ、一瞬で化けの皮が剥がれたぞ。煽り耐性ゴブリン並みじゃないか?
一人称も変わってるし、アヤネが言ったようにレベルマウントしてきそうな考え方をしてるな。
一応この人は義兄になる訳だし、顔を立てる為に手加減してあげてるんだけどな。それに、俺は良いとしても、大事なアヤネの事を随分と舐めてくれてるみたいだし……。
さーて、どうしてやるべきかな?
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