ガチャ175回目:誓いを新たに

「幸い、シミにはなってないわね」

「匂いも……大丈夫そうです」


 パーティードレスを着こなして現れた彼女達に、俺とアイラはお叱りを受けた。幸いにも時間が迫っていたのでお説教は有耶無耶になり、急ぎで服装チェックを受けることに。流石に汚れがある状態でパーティーには参加できないもんな。

 服装のチェックをしてくれるのはアキとマキ。彼女達はいつもの私服とは違っていて、とても俺の語彙力じゃ言葉にできないほどに綺麗になっていた。そんな彼女達の容姿を褒めるべきなのは分かってるんだけど、流石に今この空気感の中言うわけにはいかないよな?

 逆に怒られてしまいそうだ。


「ご心配なく。その辺りは抜かりありません」

「それでも確認はしますわ。黙って立っていなさい」

「はい……」


 そしてアヤネは自信満々のアイラを咎めつつ、化粧が落ちていないかの確認をしている。そんなアヤネだが、醸し出す雰囲気が先ほどまでの彼女とは違っていて、いつも甘えて来る彼女とは似ても似つかない。見る人が見れば冷たい女の子だと思ってしまうだろう。

 これが余所行きのアヤネか……。これはこれでアリだな。


「まったくもう、するなとは言わないけど帰ってからにしてよね」

「申し訳ありません。例の賭けの件で大敗を喫しまして、気が昂ってしまいました」

「ああー……、アレね? それならまあ、分からないでもないわね」

「側から見れば分かりきった結果でも、意外と本人としてみれば分からないものなんですね」

「お恥ずかしながら」


 4人がお喋りする中、俺は褒めるタイミングを見計らっていた。


「ところでご主人様」

「ん?」

「例の物が先ほど届きました。如何なさいますか」

「お、間に合ったのか! 良かった、今渡してくれる?」

「はい」


 そう言ってアイラが取り出したのは4つの小箱。中には、俺が彼女達には内緒で用意してもらったサプライズが入っているのだ。


「皆、ちょっと並んで」

「「「??」」」


 3人はよくわからずとも、素直に横並びになってくれた。

 だが、アイラはさも当然のように俺の隣に立つ。


「いや、お前もあっちに並んでくれよ」

「おや、私はこちら側では?」

「謀をした意味ではそうだが、お前がどういう立場かは、さっきはずだろ」

「……はい」


 嬉しそうな笑みを隠そうともせず、彼女は列に加わった。

 さて、あまり放っておくと彼女達が妬き始めるし、話を進めよう。


 俺は小箱を皆の手に乗せていった。


「中を確認しても良い?」

「いいよ」


 蓋を開けた彼女達の目に、煌びやかに装飾されたネックレスが映った。


「これは……」

「もしかして……」

「綺麗……」

「良い出来です」


 先日のスライム連戦の折、ドロップした宝石は3種類。

 『七色のダイヤモンド』『ブラックダイヤモンド』『七煌ダイヤモンド』。それぞれ4個、2個、1個ずつという配分であり、これらのアイテムは原石ではなくカット加工が施された状態でドロップしていた。折角ならと、これらの宝石をアクセサリーに加工してプレゼントしたいと思ったのが発端だった。

 旅行初日、アイラにそれとなく伝えるとすぐに了承してくれ、丁度4つ分ドロップしていた『七色のダイヤモンド』を使って装飾品への埋め込みを依頼してもらい、4人分のネックレスが完成した。

 本来ならもっと時間がかかるはずなんだが、どうにもドロップしたダイヤモンドの大きさは、アイラが依頼をした店の規格と一致していたらしく、嵌め込むだけでほぼ問題なかったとか。


 規格が同一の商会があった事を驚くべきか、宝石のサイズから商会を探し当てたアイラに驚くべきか。

 まあともかく、4人にプレゼントするならこれくらいの質がなきゃな。


「皆、それを俺に着けさせてくれるか?」

「「「はい!」」」


 視界の端にアイラと、いつの間にかやって来ていたゴーレム達がサムズアップしているのが映る。

 君たち仲良いね。


 俺は雑念を払い、彼女達1人1人に、正面からネックレスを着けてあげる。すると誰もが、花開くような笑顔を浮かべてくれた。その反応が嬉しくて、それぞれにドレスの感想を含めた言葉を贈る。

 少し気障ったらしくなったかもしれないが、殊の外喜んでくれたみたいで何よりだ。


 それにしても、こんなに喜んでくれるのなら……。

 次からガワだけは俺が手作りしてみるのも良いかもしれないな。技術や知識は抜きにしても、『器用』だけはあまりある訳だし。そういったことでも覚えていけば、戦闘にも役立てたりしそうだしな。


 最終目標は、『七煌ダイヤモンド』。もしくは、それに準ずる価値を持った宝石を4つ集めて……。婚約指輪の作成だな。


 俺は密かに誓いを立てつつ、喜ぶ彼女達を見つめていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ここが、アヤネのお家?」

「はいですわ」

「でっか……」


 アイラに運転を任せ、俺たちは宝条院家のお屋敷へとやって来ていた。

 ちなみに今回の車は、旅行で使ったようなキャンピングカーではなく、近場を移動するために購入した普通のミニバンで、普段は家の車庫に入っている。ちなみにキャンピングカーは、普段使いはしないので近場のモータープールに預けてあるらしい。


 正面玄関の前で降りると、アイラは執事風の恰好をした人に車の鍵を渡していた。恐らく駐車場に移動させてくれるんだろうけど、こういうのもドラマや映画の世界でしか知らないなぁ。それにこの、西洋風の御屋敷もだ。

 日本にこんな所があったんだな。


「旦那様、大丈夫ですの?」

「ん、ああ。ちょっと圧倒されてた」

「大丈夫よ、そのうち慣れるわ」

「そんなもんかね」

「外に並ぶ車を確認しましたが、やはり招待客は我々だけではなさそうです。恐らくご主人様との関係性を周囲に知らしめることも兼ねているのでしょう」

「サクヤさんと関わりのある政財界の大物や、スポンサーの人達。縁のある冒険者や支部長クラスの人も集まっている事でしょう。ですが、今日の主役はショウタさんです。胸を張ってください」

「舐められないよう頑張るよ」


 さて、どうなることやら。

 俺達は、宝条院家の屋敷へと足を踏み入れた。

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