ガチャ174回目:歓迎会の前準備
3人でなんてことない話を続けていると、いつもなら突撃してくるはずの子が、朝食後から部屋に籠ったまま出て来ていない事に気が付いた。様子を見に行ってみれば、何か考え込んでいるようでベッドの縁に座って微動だにしていなかった。
いつも元気な彼女だが、今日向かうのは厳格だと噂の彼女の実家なのだ。緊張するのも仕方がないかもしれないな……。
「アヤネ、入るよ」
「……あ、旦那様」
「行くのが怖いとか?」
「どうなのでしょう? よくわからないですわ」
おや? どうやら、怯えて縮こまっている訳ではないようだ。
「ただ、お母様やあの人達がどうでるかが本当に読めない事が心配なのですわ。旦那様の価値はわたくしと出会った直後と今とでは、雲泥の差がありますの。あの頃はまだ宝条院家の者達からは、わたくしがお母様より先に手を出した、『運』を自力で伸ばした少し珍しい人。それだけの認識だったはずですの。ですが、ここ最近の活躍で、協会や一部の冒険者からも『A+』ランクはほぼ確実という話も出てきておりますわ」
「ふむ。俺の価値が急激に爆上がりした訳だ」
「旦那様は、旅行から帰ってからもガチャは使われていないのですわよね?」
「ああ。完全にダンジョンから離れるためにも、起動してすらいないから、レベルも200ちょっとのままだぞ」
「そうですのね。……これは使えるかもしれませんわね」
「というと?」
「お母様はわかりませんが、あの人達はレベルをかなり重要視しておりますの。それで会話の最中、もし公表する事になった場合、レベルが50前後であれば、以前旦那様と出会ったばかりの頃と同じくらいの強さと判断されますわ」
『鑑定偽装』があるとは言え、見破られないという保証はどこにもないしな。
「レベルが低いと御しやすいと舐められてしまいますの。ですが200を超えているのであれば、簡単に取り込むことは出来ないと思わせられますわ」
「レベルが200もあれば、出会ってすぐのアイラよりも上だしな。でも、相手にどう思われようと、俺は今のメンバーのままやっていくつもりだけど」
新たに人を増やすつもりもなければ、誰かの下につくつもりも毛頭なかった。
「旦那様はそうでも、あの人達はこちらの都合などお構いなしですの。一度舐められたら、あの手この手で勧誘したり邪魔してきますわ。ですので、舐められない為の回避策として、覚えていて下さればと思いますわ」
「そっか。アヤネがそう言うなら、それも選択肢の1つとして考えておくよ。でも、実行する前に皆の意見も聞いておかないとね」
「はいですわ」
「それにしても、アヤネはあんなに怖がってた実家に帰るのに、俺の心配をしてくれてたんだね」
「当然ですわ。旦那様は、あの夜あんなにわたくしの事を求めて下さいましたもの。婚約者として、未来の妻として。貴方様の想いに応えなくては女がすたりますわ」
こんな子に出会えて、俺は幸せ者だな。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「どうかな?」
「ばっちりです、ご主人様」
軽い昼食を終え、歓迎会に行く準備の最中。俺はアイラの手によって、フォーマルなスーツ姿へと着替えさせてもらっていた。
「こういうのを着るのは初めてだな。他の小物類と違って、用意するのも時間がかかったんじゃないか?」
「実はですね、これを用意したのは私1人ではなく全員で確認して、複数取り寄せてから吟味して購入しました」
「取り寄せまで? 一体いつそんな事を……」
そんな事までしてたら流石に俺でも気付くんじゃないか?
「はい、それは旅行中に。ご主人様が武術の基礎を学んでいる間に」
「ああ、なるほど」
「その際、奥方様のドレスも購入致しました。これよりお披露目ですが、ワクワクしますか?」
「そりゃもう。……ところでアイラのドレスは?」
「私ですか? 私はメイドですから」
胸を張ってドヤるアイラ。メイドである自分に謎の誇りを持っているのは今更ではあるが……。
「確かにアイラはうちのメイドで俺の世話役だ。けど今回の歓迎会、アヤネと俺との婚約を認めてもらう為に行くってのもあるけど、改めて俺には他にも婚約者がいる事を伝える為でもある。だからアキもマキも連れてく訳だし、アイラもその中に入ってるんだよ? だからアイラもドレスをつけていって欲しいんだけど……。って、もう直前だし間に合わないか」
「いえ、ご主人様。ご安心下さい。私の分のドレスも用意がございます」
「あれ?」
「ドレスが無いなどとは、一度も申しておりません」
「……」
こやつめ。
「ですが、ご主人様の気持ち、大変嬉しく思います。賭けは私の負けですね。あの時、奥方様の説得に応じておいて良かったです」
ははーん。
説得されなければ……。いや、もしも今日、俺がこのタイミングで言わなければ、アイラはメイド服で参加するつもりだったな?
「そんな分の悪い賭けなんてしちゃって。アイラは俺の婚約者としての自覚が足りないんじゃない?」
「……そうかもしれませんね。ですのでご主人様?」
トンっとアイラに押されて、俺はベッドの上に寝転がされた。
「自覚の薄いダメなメイドに、
「いや、お前が上なのかよ」
その後、アイラに搾られた俺は、事がバレたことで彼女達にこってり絞られたのだった。
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