ガチャ171回目:鍵の行く先
「完成された『管理者の鍵』か……」
相変わらず実体はないが、それでも最初に入手したのがこのダンジョンというのは感慨深いものがある。
【管理者の鍵を使用しますか?】
「えっ」
突然目の前に黒いウィンドウが現れ、そう告げてきた。
ダンジョン関連のシステムから一方的な通知確認が来るのは、一般的にはスキルオーブ使用時と増強アイテム使用時だけと言われている。俺の場合はそれに加えて『圧縮』スキルがあるが、こうやって確認してくるのはそれくらいのものだったから、本当に驚いた。
使うかどうかと言われたら、そりゃ使ってみたいが……どうだろうか。
まずボスと銘打った初の存在を倒して得た鍵なのだから、そこからまた危険なボスが現れるとは考えにくい。鍵を使ってわざわざ現れるくらいなら、さっきのボスの後に煙が霧散せず次が出てくるはずだ。
となれば、ご褒美的な何かか、もしくはその名の通り『管理者』の為の専用の部屋が待っているかだが……。行かない手はないよな。
俺がそう決意していると、皆が集まってきた。
「ショウタ君、どうしたの? 神妙な顔しちゃって」
「何か見つけられたんですか?」
「え? ああ、そっか。さっきのモンスター、皆にはどんな風に見えてたの?」
「『ヒュージーレインボースライム』って名前でしたわね」
「レベルも『上級ダンジョン』中層並に高い相手でしたが、ご主人様にしか見えない情報があったのですか?」
「ああ、名前の後ろに『ダンジョンボス』ってついてたんだ」
「「「「『ダンジョンボス』!?」」」」
「それと、トロフィーや宝箱をすっ飛ばして、ここの鍵も落としたんだ」
俺の言葉に皆が驚いていた。鍵は当事者の俺しか見えないのは、トロフィーの前例があるから予想がついていたけど、まさかボス表記も見えていないなんてな。
「それで鍵を使用するかどうかの確認が出てきてたから、覚悟を決めてたところ」
「……それは、今使用するってことよね?」
「うん」
皆が視線を交わらせ、頷く。
「鍵ということは、何らかの封じられた物を解き放つことになるのでしょう。いつでも動けるように待機しています」
「十分に気をつけるのよ」
「心苦しいですが、見守っていますね」
「旦那様、ファイトですわ!」
「皆、ありがとう。……よし、使用する!」
【所持者の意思を確認】
【管理者キー 起動】
【管理No.777】
【ダンジョンコアへ移動します】
そのメッセージと共に、視界が一瞬にしてブラックアウトした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……お?」
気が付けば、俺は真っ白な部屋に1人で突っ立っていた。周囲を見ても誰もいない。鍵を使ってここに来れるのは、所持者だけなのだろうか……。
手を伸ばせば届く距離に、これまた真っ白な台座と何かのパネルがあり、それ以外に目立ったものは何もない。
いや、後ろを振り返れば真っ黒な穴があった。まるで、いつぞやの金の宝箱を開けた時のような、どこまでも続いていそうな暗闇……。もしかして俺は、ここを通って来たんだろうか。
となれば、ここを通れば帰れるのかな。
試しに『真鑑定』をしてみたが、パネルも暗闇も、情報を読み取る事は出来なかった。
「うーん……。安全を確認するならこの暗闇が使えるかの確認をするべきなんだろうけど、気持ちが抑えられない。このパネルに触れてみるか!」
俺はおもむろにパネルへと手を伸ばすと、中空に幾何学的な図形が浮かび上がった。けど、向こう側がぼやけて見えるし、実体があるようには見えない。これは、ホログラムか?
にしても、なんだろうこの図形は。数学の教科書で見たことあるな。
『ようこそ、管理者様』
「え、あ、こんにちは」
『私は当ダンジョンを管理する端末AI、ダンジョンコアです。ご用件をお願いします』
とりあえず挨拶をしてみたが、スルーされてしまったらしい。
にしても用件か。……そもそも何が出来るんだ?
「ダンジョンコア……つまりは心臓部か。お前を壊せばダンジョンは消えてなくなるのか?」
『否定。制御不可になり延々とモンスターを吐き出す事になるでしょう』
「うげ。じゃあ俺は今、何が出来るんだ?」
『確認。管理者様の権限レベルは1です。レベルに見合った事が実行可能です』
「レベルを上げる条件は?」
『提案。他のダンジョンコアへのアクセス権を獲得してください』
アクセス権……。つまりは、鍵を全部集めて、ここみたいな空間に入ればいいのか。
「権限レベルを上げると何が出来るんだ」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「なぜダンジョンが発生したんだ」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「なぜ1年周期で増えるんだ」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「今後もダンジョンは増え続けていくのか」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「ダンジョンの増殖を止める方法はあるのか」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「……ぐぬぬ」
どれを聞いてもレベル不足か。
だが、逆に良い事が聞けたかもしれないな。律儀に答えてくれたってことは、レベルさえ上げれば、さっきの質問の答えが分かるかもしれないってことなんだから。
「……じゃあ、権限レベル1で実行可能な事を教えてくれ」
『確認。当ダンジョンNo.777の、ダンジョンブレイクを停止可能です』
「マジか。ちなみに何日放置するとダンジョンブレイクが起きるんだ」
『確認。この世界換算で合計30日です』
そこは教えてくれるのか。にしても、意外と期間は短いんだな。俺は今回、約2週間ぶりの帰郷だったけど、あの密度でまだ半分だったのか……。
「完全放置ではなく、毎日数匹単位で倒した場合はブレイクするのか?」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
ええ……? そこは教えてくれないのかよ……。
「停止した場合、モンスターは増えなくなるのか」
『否定。増殖停止は、管理者様のレベルが足りません』
そこは中途半端に教えてくれるのか。
だが、このまま停止措置をしてもブレイクはしなくなるけど、無尽蔵に湧き続けると……。これもまたレベルか。
「とりあえず、ダンジョンブレイクを停止してくれ」
『許可。全ダンジョンにNo.777の停止を告げるメッセージを発信しますか?』
「えっ!? いや、しないしない!!」
『確認。承りました』
危な。
そんなことになったら、俺がやったって世界中にバレるじゃん。
……あ。
「他にも管理者の権利を持ってる奴は居るのか」
『肯定』
おっ。
「何人いるんだ」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「あ、さいですか……」
だが、収穫はあった。俺と同じ土俵の奴がいるのか。
最悪、そいつは俺よりも管理者レベルが高い可能性がある。そうなるともっと情報が得られてるはずだ。
俺も負けないように、レベルを上げていかないとな……。今のところ狙えそうなのは『初心者ダンジョン』と『ハートダンジョン』か……。『中級ダンジョン』はアヤネの実家次第だし、『上級ダンジョン』は……流石にまだ無理だろう。
あ、これも聞いておかないと。
「鍵が複数に分離している場合、全部集めた後どうやって1つにするんだ?」
『確認。全ての鍵が集まった際に、ダンジョンボスへの挑戦権が得られます。討伐して1つになった鍵を入手してください』
「ああ、なるほど。そういう……」
ここのダンジョンではトロフィーの対象がいなかったから、その過程をすっ飛ばしただけなんだな。
なるほどなるほど。
「1つのダンジョンで、複数の人間が管理者になる事は可能なのか」
『肯定』
「お! なら、既に誰かがトロフィーや鍵を取っていたとしても得るチャンスはあるし、宝箱も復活するという事だな」
『不明。他ダンジョンの情報は当端末にございません』
「えぇ……?」
そのはずだけど知らんって。そこは他のダンジョンだろうと知っとけよ。融通が利かない奴だな。
……まあともかく、聞きたいことは大体聞けたかな。
「帰りはあの暗闇を通ればいいのか?」
『肯定。またのお越しをお待ちしております』
……暗にさっさと帰れって言ってる? まあいいさ、俺の用事は済んだ事だし、さっさと引き上げよう。
彼女達が待ってるしな。
「それじゃ、近いうちにまた来るよ」
俺はそう告げて、暗闇へと飛び込んだ。
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