ガチャ172回目:羽休めに

「ただいまー」

「「「「おかえりなさい!」」」」


 ダンジョンコアの部屋から出ると、皆近くで待機してくれていたようで、俺の出現に安堵した表情を浮かべた。マキに至っては目に大粒の涙を浮かべていたが。まあ、彼女達からすれば俺が突然消えたようにも見える訳だし、そうなるのも仕方がないのかもしれないな。

 飛び込んできた3人を纏めて抱きしめると、アイラは背後からハグをしてくる。ううん、前も後ろも柔らかい。……そう言えば、今日は元々、ただのスライムを相手するつもりだったから、鎧をつけて来なかったんだったな。

 あんな強敵相手にラフな格好で挑むとか普通ならありえないけど、それが出来ちゃうのが『金剛外装』の強みだよなー。……もう鎧、いらなくない? 流石にそれは慢心が過ぎるか……?


「……」


 皆から抱きしめられているこの時間は幸せだけど、ここじゃちょっと落ち着かないな。ここには本来普通のスライムしかいないはずなんだけど、さっきのようにいつデカスライムが出てくるか分からない。出現条件が分かっていない以上、ここでのんびりするわけにもいかないよな。

 同時に検証したい欲も顔を覗かせてるけど、それはまた今度にして、今日はもう終わりにしよう。


「とりあえず、帰ろっか。続きは外に出てからでも……」


 そう言っても皆、しがみついたまま放してくれなかった。特にマキとアヤネが。

 ……仕方がない。無理やり持ち上げよう。


「ひゃん!」

「はぅ!」

「ショ、ショウタ君、そんな所……!」

「前に3人だから持ちにくいんだよ。我慢して」

「ご主人様、私は?」


 思いっきり寄りかかって、柔らかいものを更に押し付けてきたアイラが、耳元で甘く囁く。俺は邪念を必死に追い払い、毅然とした態度で応じた。


「アイラは歩いてくんない?」

「仕方がありませんね」


 そうしていつも以上に変な体勢で3人を抱えながら、俺達は外へと出たのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 この旅行の為に購入したというフルコン仕様のキャンピングカーに乗り込み、俺達はそこで羽を伸ばす事にした。といってもアイラは旅行先まで運転をしてくれるようだけど。ちょっとは休めばいいのに。

 そう思いつつ車内のソファに腰掛けると、前方からはアヤネ。左右にはアキとマキといういつものポジショニングに彼女達は陣取った。どうやら俺を癒すために徹底的に甘やかしてくれるらしい。

 マッサージをしてくれたりジュースを飲ませてくれたりと至れり尽くせりだ。


 俺の心と身体が休まり、リラックスしたところで、ようやく彼女達も落ち着きを取り戻した。肩の力が抜けたのを確認した俺は、改めてあの空間で起きた事を話し始めた。

 『ダンジョンコア』という謎の物体の出現に皆驚きを隠せないでいたが、核心に入る前に小さなことから確認しておくことにした。


「あのさ、俺ってどのくらい離れてた?」

「んー……。30分くらいかな」

「え、そんなに?」

「ショウタさんが出てくる様子が無かったので、とっても心配でした」


 道理で、出てきた時マキが憔悴していたわけだ。


「俺としては、体感5分か10分くらいで早めに切り上げてきたつもりだったのに」

「旦那様の入られた空間は、特殊な場所だと思われますわ。時間の流れが違ったり、もしくは移動に時間がかかるのかもしれませんわ」

「なるほどね。次行く時はその辺も注意しないとな」

「次ってことは、そう何度も行く必要性がある場所だったの?」

「ああ。とりあえず簡単にいうと、鍵を使って入れるあの空間は、ダンジョンのシステムにアクセス出来る場所だったんだ。んで、今日の成果としては今後『アンラッキーホール』では絶対にダンジョンブレイクが起きなくなった」

「「「「!?」」」」


 皆ハッキリと驚いた顔をした。アイラも驚いたんだろう。車が若干揺れたし。


「アイラ、運転止めても良いよ?」

「いえ、問題ありません。続けてください」


 そうして順番に、あの部屋で見聞きしたことを告げていくと、マキが何か思いついたようにハッとなった。


「ショウタさん、そのダンジョンコアさんは」

「呼び捨てで良いよ」

「ふふ、はい。ダンジョンコアは他のダンジョンの事は知らないと仰ったんですよね」

「うん」

「なら、『アンラッキーホール』の事なら何でも教えてくれたんじゃないでしょうか」

「ああ、そうかもね。けど、聞きたい事なんて……。あ、デカスライムの湧かせ方とか?」

「それもありますけど、『レベルガチャ』の事を知ってるんじゃないでしょうか」

「!」


 確かに……。

 他のダンジョンの事については何一つ教えてくれなさそうだけど、仮にもそのダンジョンを制御するAIなわけだ。仕様を把握していない訳が無いよな。

 ただ、問題があるとすれば……。


「レベル不足で教えてくれない可能性があるわね」

「それなー」

「ですが、確認してみる価値はあるかと。戻りますか?」


 そう言ってアイラは道路脇に停車した。高速道路は目の前だし、これに乗ったら戻れないだろう。


「いや、別にいいよ。このスキルで今のところ何も困ってないし、十中八九レベル不足ですと言われるのがオチさ。そんなことより、今からはダンジョンの事は忘れて、旅行を楽しもう」

「承知しました。到着しましたらお呼びしますので、ごゆっくりお寛ぎください」

「そうする」


 ……あ、そういえばガチャするの完全に忘れてたな。

 レベルも消費せず200を超えたままだし、ガチャの新しくなった内容も確認してない。


 けど、今はそれらは全部忘れて、羽を伸ばそう。

 せっかくの休みなんだ、思い出すのは帰ってからでも十分だろう。

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