ガチャ168回目:新種魔法-黒-

 俺が前線に戻ると、2つの煙が膨張を開始し、残り2つは霧散した。アイラは邪魔にならないよう、即座にアイテムを回収して戻ってきた。


「ご主人様、今の『運』はいくつございますか」

「ちょうど3000を超えたところだ」

「なるほど、3000で半分が進化しますか……」


 進化、か。

 確かに、レアⅡなどのモンスターは大体がどこかしら、1つ前のモンスターに酷似していたり関連した姿で出現する。完全に別物として考えていたけど、進化として考えても、あまり的外れではないように感じた。


「アイラはまだ外装を残してあるか?」

「はい。2枚まるまる残しております」

「わたくしはお水を飲みたかったので、一旦消しましたわ」

「『魔力』は平気?」

「さっきのでまたいっぱいレベルアップしたので、満タンですわ!」

「そっか。念のため張りなおしておこう」

「はいですわ」


 2人で『金剛外装Ⅲ』を張りなおしていると、視界の端で煙の中から闇が生まれたのが見えた。その瞬間、世界が漆黒に包まれた。


「!?」

「えっ!?」


 攻撃を受けたわけではない。これといって衝撃は受けなかったはずだ。そして漆黒に包まれたからと言って、世界の全てが消え失せたわけではなさそうだ。自分の周囲には展開した外装の輝きが見えているし、左右にいるはずの2人の外装も辛うじて見える。

 姿は見えなくとも、近くに2人がいてくれてる事が分かり、心からほっとした。


「アヤネ、これも状態異常か?」

「分かりませんわ。けど、治せるか試してみますわ。『サークル・キュアリカバリー』!」


 先ほどと同じように淡い輝きが視界を照らすが、すぐに掻き消える。

 どうやら、これでは治らないらしい。


「ダメだったか」

「あうぅ。回復魔法のレベルが足りないせいでしょうか」

「ご主人様、3歩ほど前に出て頂けますか」

「ん? ああ」


『バンッ!!』


「うおっ!?」


 前に出た瞬間、見えない何かが障壁に激突し、外装が剥がれるのを感じた。


「敵の攻撃ですね。ご主人様は魔力が沢山ありますし、対処法が分かるまで囮になっていてください」

「主人使いの荒いメイドだな」


 まあ適材適所かもしれんが……。とりあえず、今回の戦いには関係なさそうなサングラスは外しておこう。真っ暗闇の中、黒いはずの敵を探すのにこの視界は足かせになる。

 そうして目を慣らせないか前を凝視している間も、2枚、3枚と外装が剥がされたので、すかさず『金剛外装Ⅲ』を張りなおす。このスキルの消費魔力は200とかなり重たく設定されているが、俺の持つスキル『魔力超回復Lv1』とのシナジーで普段なら無敵感が半端じゃないんだよな。超回復の詳細な効果はわからないけれど、『魔力回復LvMAX』が圧縮して出来たスキルだから、最低でも15秒に10以上は回復するはず。なので、5分に1回の頻度で張りなおせるのだ。……そう、普段なら。


「こんなに連続して剥がされると、すぐガス欠になっちゃいそうだな」


 とりあえず何もしないのもどうかと思うし、適当に剣を振ってみると何回かに1回の割合で、何か柔らかい物質を斬りつけた感覚を得た。恐らく、敵が伸ばしてきた触手の一部に触れたのだろう。


 ここまで戦ってきたから分かる事だが、連中の攻撃方法は一貫していた。

 その巨体を生かした体当たりや圧し潰し。離れた敵には3~4本の触手を伸ばしての鞭打ち攻撃だ。外装や激突した剣の感触からして、未だ奴らの本体は少し離れたところにあるのだろう。触手を斬りつけるだけじゃたいしたダメージは与えられないし、『自動回復Ⅲ』のせいですぐ修復される。このままではじり貧だな……。


「『フラッシュライト』!!」


 そう思っていると、アヤネの声と共に背後に太陽でも出現したかのような輝きが出現し、世界を覆っていた闇を晴らした。前方には2体の真っ黒な巨大スライムが蠢いていて、光を嫌ってか全身を波打たせていた。


『『プルプル』』

「よし、『真鑑定』!」


*****

名前:ヒュージーダークネススライム

レベル:100

腕力:1100

器用:1100

頑丈:1100

俊敏:500

魔力:2000

知力:1000

運:なし


装備:なし

スキル:物理耐性Ⅲ、自動回復Ⅲ、宵闇魔法Lv2

ドロップ:超濃縮スライムゼリー、ブラックダイヤモンド

魔石:特大

*****


 『宵闇魔法』……。さっきまでの暗闇はこれの効果か。


「旦那様、対抗策が思い付かなくて、さっきのモンスターからドロップした『極光魔法Lv2』を2つとも使ってしまいましたわ」

「ああ、この輝きの魔法の正体はそれか。いや、助かったよ。自己判断で使ってくれてありがとうな」

「は、はいですわ!」


 アヤネは心の底から安堵したようにホッとした。まったく、俺がそんなことで怒るとでも思うなんて心外だな。後で頭をわしゃわしゃしてあげなきゃ。

 それにしても2つも使用したって事は、『宵闇魔法』のLv2までに対抗出来る魔法が、同レベルでは使えなかったってことだよな。相反する属性なのに、酷い話もあったもんだ。


「さあ、反撃の時間だ」

「お返しですわ!」


 姿が見える以上もう怖くはない。一体一体順番に……。


「いや、待てよ?」

「旦那様?」


 レアモンスターを2体同時に倒した場合、経験値の計算はどうなるんだろうか? 今までも雑魚相手なら同時討伐はしてきたけど、そう簡単にレベルは上がらないから実際どうなのか分かってないんだよな。こんな機会中々訪れないだろうし、こいつの手札にはもう怖い所なんて無いはずだ。試してみるか。

 2人にはその旨を伝え前衛をアイラとバトンタッチする。そして俺は、昨日の再現ができないか試すことにした。


「『雷鳴の矢』!」


『バチバチバチッ!!』


 スキル名を唱えると、昨日のスキルが再現できたようだ。それは『紫電の矢』からの派生先としての再現に留まらず、発動させるために使用した『剛力Ⅲ』『怪力Ⅳ』『金剛力Ⅱ』『力溜め』も自動的に使われているような感覚だった。


「アイラ!」

「はい!」


 アイラは短剣と『風魔法』を使って器用にスライムの巨体を弾き飛ばし、俺から見て一直線に並ぶように整えてくれる。


「発射!」


『バシュンッ!』


 閃光が2体のスライムを突き抜け、奥の壁へと激突した。奴らは身を震わせ、同時に煙を吐き出し始めた。


【レベルアップ】

【レベルが41から128に上昇しました】


 レベルアップ通知は1回に収まった。どうやら、狙い通り2体分の経験値がまとめて入ってきたらしい。

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