ガチャ164回目:禁製品と休日

「ほんっと弱いけど、最初はこれでも苦労して倒してたんだよな……」


 そう思うと泣けてくる。


「わわ、これがスライムですのね。実物も初めてですわ!」

「他のダンジョンにスライムっていないの?」

「いるにはいますが、ここと変わらず得られる物がなさすぎて敬遠されがちですね。お嬢様の育成にも向かないと判断し、生息域には踏み込んでいません」

「そうなんだ。他のダンジョンでも不人気なのか。可哀想だな……」


 でも、そういう風に不人気で、ほったらかしにされてるモンスターのレア枠やレアⅡがどんなステータスをしているのかとか、どんなスキルを持っているかは気になるよな。ここみたいにレアⅢ、レアⅣと続くことはないとは思うけど、目立ってないからこそ珍しい物を落とす可能性は十二分にある。


「旦那様、この子を戦わせてみてもいいですの?」

「ん? ああ、いいよ」

「ありがとうございますわ!」


 アヤネは嬉々として、抱えていたリヴァちゃんを地面に置いて、指示を出し始めた。そんな彼女を微笑ましくみていると、俺の腕が姉妹に抱き付かれる。


「ねえねえショウタ君。ここに来る前に事前に確認したんだけどさ、やっぱり君が来なくなってから、あたし以外だーれもダンジョンに入ってないみたいなの」

「え、そうなの?」

「だからいつも以上にいっぱい湧いてる可能性があるわ。マップに映ってない?」

「先日の第一層のゴブリンみたいに、溢れてるかもしれませんね」


 彼女達の期待を裏切るようで申し訳ないけれど、このスキル唯一の欠点を伝えることにした。


「あー、マップなんだけどさ。あれはどうにも手に入れた時から反映されていくタイプらしくて、ここはまだ真っ暗なんだよね。だから、視界に映ってるあの1匹しか見えてないんだ」

「そっか。まあでも、ここはショウタ君の独壇場よ、好きに暴れていいわよ」

「うん、任せて」

「頑張ってください」

「であれば、私に一案が」


 アイラは懐から謎の容器を取り出した。あれは……香水か何かか? 噴射ノズルみたいなのがてっぺんに搭載されてるけど……。がする。

 俺が身構えたのを見て、彼女はふっと笑う。


「流石ご主人様。これの危険性に気が付きましたか」

「なに、それ」

「直接ご覧になってはいかがです?」

「……そうだった」


 名前:改良型魅了香

 説明:モンスターが好む香りを誘発し、設置地点におびき寄せる禁制品。改良が施されており、従来の数倍以上の効果を発揮する。


「『魅了香』?」

「『魅了香』ですって!?」

「アイラさん、なぜそんな物を……」

「2人の反応からして明らかに良くないもの……。いや、説明も名称も何もかもヤバいってのは伝わってきたんだけど、具体的にどういう代物?」

「はい。こちらは疑似的なモンスターブレイクを引き起こすものとなります。もしも普通のダンジョンで使用場面が発見され、協会にバレるとこってり怒られる事間違いなしですね」


 果たしてそれは、こってりで済むのか?


「んで、何故そんなものを?」

「こちらは、モンスターを一カ所に集める事が出来る為、ご主人様にこそオススメ出来る商品となっております。ただ、広範囲に散布される性質上、草原型ダンジョンには不向きと言えるでしょう。複数種のモンスターがこぞって攻めてくるわけですから。効果的に使うならば洞窟型で、あちこちに散らばって出現し、なおかつ単一種であることが望ましいです。ですので今まで活躍する事はありませんでした」


 まあ、目的はモンスターの乱獲ではなく、同種のモンスター討伐によるレアモンスターの出現だからな。


「ここなら存分に効果を発揮するでしょう。また、他の誰かを巻き込む心配もありません」

「なるほどね」

「ご主人様から聞いているここのレアモンスターの性質上、これを使用した方が効果的なのは間違いありません。流石に今日一日で結果が出せるとは思えませんが、早く済めば済むほどご主人様は時間を有効活用できるでしょう。例えば、奥方様と過ごす時間であったりとか」

「「むっ」」


 笑みを浮かべたアイラと目が交わる。その時、左右からも視線を感じていた。

 ……やっぱり、2人に掛けてる時間、少ないよな? 分かってる。これに関しては俺が悪い。


「それから誓って、他の冒険者がいる場面では使用しません」

「……分かりました。他のダンジョンで使用しないのであれば、このアイテムの使用には目を瞑ります。ショウタさんの狩りに貢献出来るアイテムであるのは間違い無いですから」

「そうね。彼との時間が増えるなら……」


 ああ、禁製品の使用について、協会員の2人が説得されちゃった。決め手はほとんど俺との時間っぽかったけど。


「これからは、週一……。いや、週二で休みを入れる努力をするよ」

「「週三で」」

「え、週三!? ……いや、ううーん。せめて、週二と週三の交互で」


 アキとマキが顔を見合わせ、頷いた。


「仕方ないわね。いいわ」

「約束ですからね」

「はい」

「ダンジョンデートは休日とは認めないからね?」

「ハイ……」


 そうして、アイラがアイテムの使用準備をしている間、俺はダンジョン日と休日の違いについて、2人からいくつかの約束事を交わすのだった。


「えへへ、リヴァちゃん強いですわ~!」

『グッ』


 そしてその間、アヤネはずっとゴーレムと一緒にスライムを倒して遊んでいたのだった。

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