ガチャ163回目:久々の帰還
リビングで待っていると、アキとマキが長い物を大事そうに抱えながらやって来た。あれは……剣袋か?
「それは?」
「昨日おじ様にお願いして、ショウタ君に合う新武器を調達してもらったの」
「おじ様は『統率』4つを希望されていたので2本合わせて時価12億相当の武器になりますね」
「12億……」
今使っている『ミスリルソード』も、確か1億5000万したよな。
うーん、値段のインフレが激しい。
「それが2本合わせてって事は、片方6億相当ってこと?」
「はい。『上級ダンジョン』の奥で少量しか取れない、『精錬ミスリル』で作られた『ハイ・ミスリルソード』です」
剣袋を受け取り、中身を確認する。
名称:ハイ・ミスリルソード
武器レベル:33
説明:精錬ミスリルを使って造られたハイグレードの剣。
「おおー」
通常の『ミスリルソード』は武器レベル26の武器だったけど、それが一気に33か。刀身も、元々のエメラルドグリーンよりも少し透明度が高くなっている気がする。
それが2本も……。
「今度リュウさんにはお礼を言わないとな」
「工房もこれを作ったは良いものの、値段が値段なので持て余していたそうなんです。それをおじ様が先日自費で買い取って、使い手を探していたらしくて。今回はタイミングが良かったですね」
「そうなんだ。俺も、これに見合うくらいには強くなれたのかな」
「勿論よ。このくらいの性能がないと、今のショウタ君に釣り合わないわ!」
「そっか……ありがとう。大事にするよ」
なら、今までメインで戦ってきた『ミスリルソード』もお役御免か。
たった1週間程度の付き合いだけど、長い間一緒に戦ってきた気がする。こいつも、『御霊』と一緒に武器ラックに飾っておこう。
「さてと、予定していたよりだいぶ早く着いちゃったけど、どうしよっか」
「ああ、昼まで待っててほしいって言ってたのは、コレ待ちだったんだ?」
「それもありますけど……」
「旦那様にはゆっくりしていてほしかったんですわ」
「そんじゃ、お言葉に甘えて。予定通り昼過ぎまでこうしていようかな」
そうして彼女達に全力で甘やかされながら、怠惰で享楽的な時間を過ごした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
どうやら、俺の用事が終わり次第旅行先に直行するらしく、沢山の荷物がアイラのバッグに詰め込まれていった。うーん、何度見てもこの光景は凄いな。
そしてしばらく留守にする為か、『魚人の種』を植えた植木鉢と、4体のゴーレム達も持って行くことになった。なんでも、留守の間にマイホームを少し改築・改装するらしく、ダンジョン協会御用達の業者にリフォームをお願いするらしかった。
改装発案者のアイラは現在車を運転中だが、まあ彼女なら話しかけても大丈夫だろ。
「何か問題でもあったの?」
「はい。使ってみて初めて分かるような細かな点でしたが、いくつも積み重なっていてはその内ストレスになりそうでしたので早めに手を打っておくことにしました。後々になってくると、恐らくご主人様の能力で世に出せない代物で溢れるでしょうし、情勢がどのように傾くかも未知数です。なので、敵対勢力がいないうちに済ませておこうかと」
「褒められてる?」
「多少は」
「……で、その問題って言うのは俺が聞いても良い話?」
「勿論です。まずは――」
そうして彼女から生活中に感じた様々な不便な点がツラツラと上げられた。俺が気付かないような細かな点に始まり、『黄金の実』を採取するための専用空間の増築案。更には……。
「ご主人様の部屋の壁を分厚くしておこうかと。結構漏れるようですので」
「んなっ!?」
その発言にアキが驚愕し、マキも真っ赤になった。
この反応を見るに、俺の部屋を改装する件は知らなかったように思える。
……てか、筒抜けだったんだ。
「漏れるってなんですの?」
ただ一人、よくわかっていなさそうなアヤネは……。多分その日も、スヤスヤと眠ってたんだろうな。この子、夜更かしが苦手そうだし。
とりあえず誤魔化すためにアヤネを撫でていると、車が停止した。窓の外を見れば、懐かしい光景が広がっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
誰も見張りを立てていない『アンラッキーホール』へと入場し、深呼吸する。今日はアキとマキも付いてきてくれていた。
なんでも、昨日の動画で彼女達が抱えていた仕事は全て消化したらしく、する事が無く暇らしいのだ。支部で仕事を手伝おうにも、そもそもここは冒険者が訪れない。ぼーっとするしかないとのことなので、ついてきてもらっていた。ここはスライムしかいないので、危険なんてあり得ないしな。
「あー……帰ってきた実感がする」
「もー、まるで実家に帰ってきたかのような清々しさね」
「ふふ」
実家? 実家、か。
思えば、碌に……帰るどころか連絡すらしてないな。
……うん、まあいいか。毎月の仕送りはしてるし、あの家の事は別に。まあ今月の仕送りをどうするかはまだ考えてないけど。
相談、すべきかな……?
そう考えていると、物珍しいのかアヤネは興味深そうにキョロキョロと辺りを見回していた。
いやほんと、何にもない場所だけどね。今まで潜ってきたような、黒い支柱やガードマンすらいない場所なのだ。事前に知らされていなければ、ただの大きい洞窟くらいにしか思えないだろう。
「なんだか、普通の洞窟のようですわね?」
「そう言えばアヤネは初めてなのか」
「はいですわ。周りから行く意味がないと言われてたので、一度もないですわ」
「あー、まあ、そうかもね」
ここ、本当にスライムしかいないし、得られる物なんて『極小魔石』だけ。
なんの特産品もない寂れたダンジョンだ。
「でも、来なくて正解でしたわ」
「えっ」
「だって、もしもここで旦那様と先に出会っていたら、今の様な関係は築けなかったかもしれないんですもの」
「……確かに、そうかもね」
アヤネは自分より弱い人間を見つけても、甚振ったり貶したりはしない子ではあるけれど、先に俺を知っていたら、多少『運』が向いてきたばかりの頃の俺にアタックはしないだろう。
一切の前歴を知らない俺が突如として現れたからこそ、彼女は俺との接近を望んで、関係を築こうとしたのだ。
感慨深くそう思っていると、マキが腕に抱き着いてきた。
「ショウタさん、実は私も来るのは初めてなんです」
「あ、やっぱり? アキが配属されてすぐに俺が通い始めたから、見てないと思ったんだよね」
「はい。ですから今日は、ちょっと楽しみでもあったんですよ。ショウタさんがどんな風にここで過ごしていたのか。話では聞いていましたけど、直接見たかったですから」
「あはは。見るも何もスライムを倒すだけだけどね」
そう話していると、目の前にスライムがやって来た。
*****
名前:スライム
レベル:1
腕力:2
器用:1
頑丈:2
俊敏:2
魔力:0
知力:0
運:なし
装備:なし
スキル:なし
ドロップ:なし
魔石:極小
*****
魔法的ステータス0って。
……ほんっと弱いな、こいつ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます