無料ガチャ018回目:会議は踊る4【閑話】

「それじゃ、ショウタ君。今から会議してくるね」

「あ、そっか。もうそんな時間か」

「ショウタさんも参加されますか?」

「いやー……。邪魔になると思うから遠慮しとくよ」

「ご主人様、お風呂が沸きました」

「お、了解。それじゃ、また後で結果教えてね」

「はい」

「ごゆっくり~」


 彼を見送ると、二人は慣れた手つきでパソコンを操作し、IDとパスワードを入力して会議へと参加する。予定時間の10分前にもかかわらず、参加者は全員集まっている様だった。


「ごめんなさい、遅れてしまいましたか?」

『構わないよ。皆、逸る気持ちを抑えきれなかっただけですから』

『いやははは、お恥ずかしい』

『彼がまた何か始めるというのですもの』

『今回は何を見せてくれるんだい?』


 今回の会議、スキルオーブの『お願い』の件で急遽開かれたように見えたが、実のところ『ダンジョン協会第525支部』と『ダンジョン協会第810支部』で公開予定となるあの動画の件で、開催が前倒しにされたのだった。

 内容が内容ということもあり、発議者及び協会長以外に、議題の内容は事前に知らされていなかったのだが、発議者から既に皆察しはついている様だった。


 『上級ダンジョン』128支部の支部長、リュウは勝手知ったる顔で口を開く。


『うむ。聞くところによるとあの少年は2つのダンジョンで大立ち回りしたらしいな。2人とも、あやつは元気にしておるか?』

「はい、おじ様。とっても元気ですよ」

「あ、でも今日はちょーっと疲れてるかも」

「あ、そうだね……」

『なんじゃ、何かあったのか?』

『多分彼の事だから、休みなくダンジョンに入ったツケが回って来ただけだと思いますけど……』


 そう発言するのは『ハートダンジョン』810支部の支部長、ヨウコ。

 彼女の言葉に、姉妹は心当たりがあり過ぎた。


『あやつめ。こんな美人の姉妹をほったらかしにするとは』

『まあまあ、良いではありませんか。義務感ではなく、心から望んで潜れる人は貴重ですよ』

『さて。彼の話題は尽きないでしょうが、そろそろ本題に入りましょうか。2人とも、進めて貰えますか』

「「はい!」」


 協会長の言葉に従い、彼女達はまず動画の件から話し始めた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「と言う訳で、『ハートダンジョン』の第二層と『初心者ダンジョン』の第一と第二のレアモンスターを動画に収める事に成功しました」

『おお……!』

「前回話題になったレアモンスターの先。通称『レアⅡ』も『初心者ダンジョン』は全て動画と討伐共に完了したわ」

「それと同時にステータス、ドロップアイテムも全て網羅しています」

『素晴らしいわ!』

『この短期間で……なんともまあ』

『流石、ワシが認めた男じゃ』

『ふふ、すごいですね』

『えぇ……? うちから帰って2日しか経ってませんよ……?』


 支部長達の反応は上々だが、細かな日程を知る人物からは一部困惑の声が上がった。二日で10体のレアモンスター討伐。しかもほとんどが未知の相手であり、一部強化体も併せればもっと大量のレアモンスターが狩られているのだ。そのハードスケジュールを思えば、その反応も当然と言えた。


「動画は彼の安全を考えて、対象のレアモンスターが撮影されたダンジョン支部のみの限定公開とし、動画の撮影や複製、リークなどはかなり重めの罰則を設けるつもりです」

「ただ、皆も気になると思うから、今回に限りここで流すねー。無いと思うけど、もしこの動画を使って悪さをしたら、お爺ちゃんに処罰してもらうから」

「では順番に流していきます。まずは『ハートダンジョン』の『デスクラブ』と『甲殻騎士』から」



◇◇◇◇◇◇◇◇



「以上がこの数日間で撮影、確認、討伐まで行ったレアモンスターの情報です」

『これほどの量をたった3人で……』

『それで、ちょっと疲れただけですって?』

『あやつめ、張り切りすぎじゃ』

『それにしても、初心者ダンジョンの浅層でLv70のモンスターが出るとは。出現条件によっては接近禁止も検討する必要がありますね』

『ですが、『レアⅡ』を出すには相当の『運』が必要でしょう。となれば、この動画情報に『運』が高い冒険者は気をつける様に明記する事である程度回避ができるのでは』

『そうですね、冒険は自己責任。この動画を見ても挑戦するのであれば、その者らの自由と言えましょう』

『しかし、中央の露出したコアが弱点とはいえ、このステータスはやはり恐ろしいものがあるな。他の部位への攻撃も、その能力から自動修復するようだし、弱点を狙おうにも動きも素早く、更には地上からでは届かぬ位置にある。動画の様な超速の攻撃で防御の上から突破するか、不意を衝くしかないだろう』

『レベルだけ見れば『上級ダンジョン』にもこの手のものは無数におるが、能力やステータスが数段上じゃからの。初見で勝てるチームはどれほどいるか……。この動画は本当に参考になりそうじゃ。勉強のためにも、我が支部を拠点とするチームにも見せてやりたい。のうミキちゃん、525支部へ行けば見せてもらえるのじゃな?』

『はい、公開直後は人が殺到すると思われますので、協会員の監視のもと同時に視聴するチームの数を制限しつつ予約制にしたいと考えています。問題なければ今晩中に情報ページに告知をし、公開は昼以降とするつもりです』


 そうして支部長同士のやり取りで今後の方針が決まっていき、最終的に翌日の正午からの公開が確定した。


「では続きまして、皆さんも確認された通り、彼は沢山のレアモンスターを討伐しました。それに付随して沢山のスキルもドロップしました。彼とその仲間である程度分けたのですが、それでも余りは発生しましたので、それらのスキルを『お願い』に追加することになりました」

「それで、これがそのスキルの一覧だよ。ちなみに横の数値は、今実際に余ってる数だからね~」


 各種『俊足』と、余っているⅣ系統以外の全てが明記されたリストが公開され、各支部長達は目を輝かせた。


『おおお!!』

「ちなみにお値段だけど、定価の2割引きで良いよー。もしくは、それに準じたアイテムや、各ダンジョンでの優遇権とかでも相談に乗るからね」

『おおおお!!!』


 そうして順調に余り物のスキルが売れていき、値段の相談などを希望する者達から順番に個別通話を介してやり取りする事数回。各支部長とお互いに『Win-Win』な取引を済ませ、会議は無事終了となった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ショウタ君、お待たせー。あれ?」

「アヤネちゃん、ショウタさんは?」


 リビングに戻ると、風呂上りといった様子のアヤネとアイラが寛いでおり、オークションの放送を観ているようだった。その足元で、『川砂ゴーレム』が掃き掃除をし、『浄水ゴーレム』が雑巾がけをしている。どうやらゴーレム達への教育は、順調に進んでいる様だった。


「あ、お疲れ様ですわ。旦那様はオークションが始まる前に、お休みになってしまいましたの」

「お風呂の後、色々とあって本当にお疲れでしたのでマッサージをして差し上げたのですが、それがトドメとなってしまったようです。完全に寝入ってしまわれましたので、自室に運んでおきました」

「そうなんだ。でもどうしよっか、今日はマキの番なのに……」

「わたくしは1日繰り越しで構いませんわ」

「私もです。ご主人様にも休息は必要ですし」

「アヤネちゃん、アイラさん……ありがとう」


 姉妹は足元のゴーレム達の掃除を中断させ、『浄水ゴーレム』を抱え上げると、一緒になってソファに座った。2人はその際違和感に気付き、ゴーレムの身体をペタペタと触る。


『!』

『!?』

「あれ? この子達……形変わってない?」

「はいですわ。旦那様にお願いして、この子達の顔や身体を可愛らしく整えてもらいましたの」


 アヤネはいつもしてもらっているのと同じように、リヴァちゃんを撫でて可愛がった。


「お嬢様の注文は的確でしたが、細かい仕様にご主人様の目が死んでおりましたね」

「いや、もしかしなくても寝落ちした原因ってそれなんじゃ……」

「でも、デフォルメされた目とかがついてて、可愛らしくなったと思うし。私は良いと思うよ」

「マキがそういうなら、良いけどね」


 そうこう話している内に、オークションは進み、自分達が出品した黄金シリーズの番がやって来ていた。それらの行く末を見守りつつ、彼女達は明日以降の予定を改めて確認する。


「それじゃあ折角だし、旅行の件、最終確認としましょうか」

「ではお茶を淹れて参ります」

「あ、そうだアヤネちゃん。この前言ってた旅館、予約取れたよ」

「ほんとですの? 楽しみですわ!」


 彼女達は楽し気に旅行計画を立てていくのだった。

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