ガチャ160回目:魔石実験

 ガチャを回した後、俺達はそれぞれで残りのタスクをこなす事にした。

 アキとマキは動画作成。アイラもその技能を遺憾なく発揮し、2人を手伝っている。

 俺はというと、そんな技術を持ち合わせているはずもなく、アヤネと一緒に端末で情報収集に励んでいた。探している情報はもちろん、新しく取得したスキル『魔石操作』『砂塵操作』『看破』だ。


 ちなみにアヤネは、俺の膝の上でちょこんと座り込んでいて、自前の端末で俺の手伝いをしている。もはや彼女にとっては、定位置といっても過言ではないな。


「『看破』はある程度情報はあったし、『砂塵操作』もある程度『真鑑定』で読み取れたけど……『魔石操作』は一切情報なしか」

「わたくし達にとって身近な存在である魔石。その操作となれば、かなり重要なスキルとなるはずですが、ありませんわね」

「それが無いっていうのは、怪しいとみるべきか。それともガチャの特異性が高いだけと考えるべきか」

「悩ましいところですわね」


 2人してうーんと悩む。

 ガチャから出たスキルということもあって、『真鑑定』の対象外だったのが辛いところだよな。まあ、レベルで効果の変わる『砂塵操作』も、曖昧な事しか書いていなかったんだが。


「なら、手持ちの魔石で試してみれば良いんじゃない? 幸い、一般的な魔石は全部ここにあるわ。極小から特大まで、様々な魔石が溢れるほどにあるんだからさ」


 パソコンと向き合っていたアキが、振り返りながらそう言った。


「え、良いの?」

「良いも何も、ショウタ君が取ってきたものだもん。好きに使っちゃっていいに決まってるでしょ」

「いや、そういうんじゃなく……」

「ショウタさんは、私達の査定の事を心配されてるんですよね?」

「うん」

「それなら問題ありません。協会としては魔石の収穫が何よりも重要視されていますが、元よりショウタさんの収穫量は飛びぬけて高いんです。なにせ、たったの数日……下手すると1日で、他チームの1ヵ月分の魔石を納めてくれるんですから。更にはオークションに高額スキルを毎回出品されています。ですので、影響はないですよ」

「そっか」


 それなら、問題ないかな。


「それではご主人様、いくつ要りますか?」


 気配なく隣に座っていたアイラが、鞄の中に手を突っ込みながら聞いてきた。……うん、やっぱりステータスで勝っててもこの動きは真似できないし、何故か『予知』も発動しないんだよな。

 このメイド、規格外過ぎる。


「とりあえず3つずつ。あ、極小は30個くらい出しといて」

「承知しました」


 そう言ってアイラは並べ出すが、魔石とは違う物も置いていった。


「アイラ、それはなぜ?」

「『ゴーレムコア』は、ゴーレムにとっての心臓部。他のモンスターにとっての魔石に該当します」

「でもあいつら、魔石も落とすよ?」

「その理由は私もわかりません。エネルギーの貯蓄場所に使われているのかも知れませんね」


 貯蔵、ね。


「……そう言えば、魔石ってモンスターのどこに内包されてるんだ? 今まで散々戦ってきたけど、生きたモンスターの中に、その存在を見た試しがないぞ」

「モンスターを生きたまま解剖するという実験は行われた事があります。ですが、連中の体内からは発見されず、煙になる事で初めて現出すると、記録に残っていますね」

「え、生きたまま……? どうやって?」


 ダンジョン内でそんな事をやるなんて、かなりぶっ飛んだ事をする奴も居たんだな。


「いえ、勿論ダンジョンの外でです。他にモンスターがいる中、解剖用の器具もなしにそんな酔狂な真似は出来ません」

「でも外って……」

「はい。本来ならモンスターは外には出られません。ですが、自発的に出てきた場合は異なります」

「……ああ、ダンジョンブレイクか」

「はい。連中の構造を研究するため捕らえたそうですが、結局わかった事は、奴らの体内に魔石は存在せず、死ねば煙となり、その際に確率で魔石をドロップするという事だけでした」

「そっか。ありがとな」


 アイラはお辞儀をして、再び動画編集の作業へと戻っていった。『魔石操作』のスキルがどんな効果を発揮するにせよ、生きている限りモンスターの体内に魔石が存在しないのなら、戦闘中に直接影響を与える事は出来そうにないな。

 ……でも、常に物体として存在し、剥き出しにしているゴーレムなら? 何かできないだろうか。


 とりあえずは、目の前にある『極小魔石』から試してみるか。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「うーん、これも反応なしか」


 俺は極小から特大まで。全ての魔石を手に持ち『魔石操作』と唱えたり念じてみたり。手に一杯詰め込んだり頭におしつけたりと、色々と試してみたが何の反応も示すことは無かった。

 傍から見れば怪しい事をしている変人だが、今は自宅であり周囲にいるのは理解ある婚約者達だ。その辺りを心配する必要はない。


「なぜ反応しないのでしょう?」

「やり方に問題があるのかな? まあ、その辺はこっちも試してから考えよう」


 俺の目の前には3つのアイテムが残されていた。

 『ゴーレムコア』『ゴーレムコアⅡ』『ゴーレムコアⅣ』だ。見た目としては赤いスキルオーブのような感じで、宝石の代わりとして飾られていてもおかしくない輝きを放っていた。


「まずは普通のを……」


 そうして手に持った瞬間、今までの魔石とはどこか違った感覚を受けた。まるで、俺と『ゴーレムコア』との間で、何らかの力が繋がったかのような、漠然とした感覚。

 ダンジョン内ではアイラが全回収していたから、俺が直接触れるのはこれが初めてだった。


「……『魔石操作』」


 縋るように念じてみれば、確かにパスのようなものが繋がったように感じた。しかし、同時に何かが足りないように感じた。

 なんだ。一体、何が足りない……?


「旦那様?」


 俺が違和感を感じている事に気付いたのか、アヤネが俺の顔をじっと見つめて来る。そんな彼女に、漠然とした今の感覚を伝えてみた。


「……旦那様、それはこれがゴーレムの心臓部だからではありませんの?」

「というと?」

「身体を形成するモノがないのですわ。ゴーレムといえば……アイラ」

「はい」


 またしても突然隣に現れたアイラは、大きな袋を抱えていた。その袋には見覚えがある。確か、俺が『黄金の種』用に買っておいた園芸用の川砂のはずだ。

 ……ああ、なるほど。


「『砂塵操作Ⅲ』」


 スキルを行使すると、袋の中にあった砂が自動的に俺の周りへと集まってきた。その中から一定量の砂を『ゴーレムコア』に纏わせ、改めて『魔石操作』を念じる。

 すると、『ゴーレムコア』を中心として身体が自動的に構成されていき、少し経てば身長30cmほどの、ちょっとばかし不格好な砂の人形が誕生した。


「おお?」


 彼は俺の言葉に反応したのか、ぴくりと顔と思しき部分を傾け、こちらを見上げているような動きを見せる。その姿や動きは、材質や大きさは異なるが、第二層でみかけたゴーレムそっくりだ。


「か、可愛いですわ!」

『!』


 ゴーレムはまるで意思を持っているかのように、感謝するかのようにアヤネに向かってぺこりとお辞儀をしてみせた。

 もしかしてこれ……命令とかできるのか?

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