ガチャ157回目:友との再会

 いつもと比べるとかなり早いが、俺の疲労を鑑みて皆で帰宅する事にした。

 実のところアキとマキは、ここのところ協会内であまり大きな仕事を割り当てられていない。何故なら彼女達の仕事は、Aランクの俺をサポートする事であり、それ以外の優先度は低いからだ。更には、現在彼女達は近々公開予定の動画を編集する作業がある為、支部長からも家で出来る仕事との理由で、早めに帰るよう勧められた。

 なので正直な所、彼女達が協会にいるのは俺がダンジョンにいるからであり、俺がダンジョンに入らないのであれば協会に行く意味はないらしいのだ。


 Fランクの専属とAランクの専属とでは、だいぶ仕様が異なるみたいだな。まさか、出勤すら免除されるとは……。まあでも、それは嬉しい情報でもあった。俺が彼女達を連れまわす事で、業務に支障をきたすのは心苦しいと考えていたからな。


 そう考えながら協会の出口へ向かっていると、懐かしい声に呼び止められた。


「おお、ショウタ君ではないか!」

「あ、シュウさん。久しぶりですね!」


 チーム『一等星』のリーダー、シュウさんだった。

 他のメンバーの人達もいる。まだ日も傾いていないこんな時間にいる上に、防具にも汚れが見える。という事は、ダンジョンでのキャンプから戻ってきたタイミングらしい。


「旦那様、この方々は?」

「ああ、アヤネは知らなかったね。紹介するよ、この人達はチーム『一等星』。ランクは……」


 そう言えば知らないや。


「Cランクですよ」

「ああ、ありがとうマキ。んで、この人はリーダーのシュウさんだ。『マーダーラビット』と最初に挑んだ時に知り合ったんだ。ちょっと暴走癖があるけど、気の良い人達だよ」

「旦那様のお友達ですの?」


 友達か。

 ……そうだな、友達みたいなもんだよな。


「ああ、友達だ」

「そうなのですわね、初めまして皆様方。ご紹介に預かりました、ショウタ様の婚約者、宝条院 綾音と申します。以後お見知りおきを」

「おお、これはどうもご丁寧に」


 そう言ってアヤネは『一等星』の人達に順番に挨拶して回った。

 うーん、いつもは子犬ムーブしてるアヤネが、急にお嬢様のように見えてきたな……。目をこすってみるが視界に映るモノは何も変わらなかった。どうやら現実らしい。

 お嬢様なアヤネ、なんだか新鮮だなぁ。


「なあショウタ君、向こうで少し話さないか」

「良いですよ」


 俺は彼女達をちらりと見ると、皆頷いてくれた。

 俺とシュウさんは協会のフロントエリアに設置されているテーブル席についた。ここは基本的にチームの待ち合わせであったり簡単な相談などを行うスペースで、本格的な話し合いをする場合は談話室や会議室などを使うようになっている。

 言うまでもなく、俺がこのスペースを使うのは初めての事だった。


「シュウさん達は、今帰りですか?」

「それもあるんだが……。実を言うと、ここにいれば君に会えるんじゃないかと思ってね」

「俺に?」

「ああ。ちょっと会わない間にAランクに昇進して、数々の活躍をしている君がどんな風に成長したのかこの目で見てみたかったんだ。そして君を見て、はっきりしたよ。明らかに漂う風格が、前回出会った時とは隔絶している。『男子、三日会わざれば刮目して見よ』とはよく言ったものだが、たったの10日ほどしか経っていないのに、一体何があればこんな風になるんだか。正直言って、自分の目を疑っているところさ」

「あはは……。『運』が良かったんですよ」

「『運』か……。確かに、君ならそうかもしれないね」


 まあそうだよな。

 『レベルガチャ』なんていうぶっ飛んだスキルの効果で、数日会わなかっただけで急成長してるんだもんな。このスキル、強くなればなるほど強敵と戦いやすくなって、低レベル補正の影響も受けて更に成長しやすくなって、それがまたガチャを回す為の弾薬になって……。

 沼に目を瞑れば、俺の成長係数は本当に異常だ。混乱するのも仕方がない。


「しかし、君から感じる強者の香りを嗅いでみると、どうしても1つ聞きたい事が出来てしまったな。……あっ、いや、すまない。やめておくよ、忘れてくれ」


 シュウさんは何かを思い出し、ばつが悪そうな顔をした。

 少し前までならその反応から真意を読み取る事は出来なかったが、ここの所色々と経験した俺は、すぐに言い淀んだ理由を理解した。


「もしかして、ランク差の事を気にしてます? シュウさんなら構いませんよ。勿論、答えられることに限りますが」

「……ああ、ありがとう。君はランクが上がっても、真っ直ぐな君のままだね」


 シュウさんはそう言うと、姿勢を正した。


「ショウタ君は掲示板をよく見るかい?」

「あー……。レアモンハンターの事ですか?」

「ははっ、知っているなら話は早い。今朝からうちの掲示板で1つの事が話題に上がっていたんだが、君は見たかい? ここの講習室の1つが、急遽改装工事を始めたそうなんだ」


 ああ、動画の専用部屋ね。確かに、協会内の改装工事なんて滅多に無い事らしく、掲示板でもかなり話題になっていたな。常駐している協会員達の口が普段より重いからか、余計に推察が捗っている印象だった。


「皆騒いでいたが、俺もこの件はどうにも気になってね。さっき、ちらっと覗いて来たんだけど……。匂うんだよ、とびっきりのお宝の匂いが。君はその件の詳細を知っているかな?」


 匂いって。

 さっきも香りがどうたらと言ってたし、シュウさん『嗅覚強化』でも持ってるのかな? まあ『直感』って、言い換えると『鼻が利く』ともいうけども。

 もしくは、何気に『運』を伸ばしてるのかも。


 うーん、それにしても、俺と講習室の改装を結び付けて来たか。

 今朝ちらりと見た限りでは、誰も俺と絡めた事象だとは呟いていなかったよな。それを思うと、本当にシュウさんは『鼻が利く』人なのかもしれない。

 さて、シュウさんには世話になったし言ってあげたいところだが、何処まで言ったものか。


 現状で公開できる情報を吟味していると、『一等星』の紅一点、アヤカさんがやってきた。


「ちょっとリーダー! また無茶を言ってるんじゃないでしょうね?」

「アヤカ!? いや、まぁ、その……」

「言い淀むってことは自覚があるのね。ほんとごめんなさいショウタ君。こいつにはあとできつく言っておくから」

「ああ、良いんです。なるべく答えられそうなところを考えてただけなので」

「そ、そう?」

「はは、ショウタ君。それは答えたのと、ほとんど同じじゃないか」

「……あっ」


 そういえば、知ってるか否かという質問だった。

 言い淀んで答え方を考えた時点で、知っていると言ってるようなものだ。


「全く、本当に君は変わらないね。だけど、協会の施設という大事な部分にも関わらず君の専属達が割って入って来ないということは、債権は君が持っていて、信頼もされているという事か」

「ありがたい話です。……そうですね、早ければ明日にでもあの部屋とその中身は公開されるかと思います。シュウさん的にもとびっきりのお宝だと思いますので、楽しみにしていて下さい」

「おお、そうか! ありがとうショウタ君、胸のつかえが取れたよ。では、また会おう!」


 そこで彼らとは別れ、彼女達と合流する。


「宜しかったのですか、旦那様」

「ああ、俺にとって数少ない冒険者の友人だしね。あれくらいは別にいいかなって」

「そういえばショウタ君、他の冒険者と交流してる姿、全然見なかったわね」

「ご主人様はぼっちだと思っていたのですが、情報を改める必要がありますね」

「うっ。仕方ないじゃないか、古巣には誰も寄らないんだから……」

「安心してください、ショウタさん。私達がついてますから、寂しくはさせません」

「はいですわ!」


 それはそれでどうなのかと思うけど……まあいいか。

 改めて、俺達は帰路についた。


 だが、玄関を開けリビングに入ると、またしても眩い光に出迎えられた。

 くそ、もうかれこれ5度目だっていうのに、この光には慣れないな。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る