ガチャ156回目:戦略的

 地上に降り立った俺は二人と合流し、砂場地帯の外へと脱出した。


 この第二層では、エリアの境目は基本的にモンスターがいないことは常識となっているようで、それを逆手に境目を休憩所として利用する者は多い。俺達もそれに倣って休む事にした。


「旦那様、ご無事で何よりですわ~」

「ご主人様がお星さまになった時は、背筋が冷えました」

「うん、ごめん。心配かけたね。初見の敵相手に、無暗に突撃しないよう次から気をつけるよ」

「そうですわ。わたくし達は皆『金剛外装』があるのですから、是非そうしてくださいましね!」

「モンスターの種類によっては、逆に接近した方が先手を取りやすく推奨される行為です。本来ならゴーレムも、その手のタイプなのですが……。今回は相手の方が上手でしたね」


 そうなんだよな。

 速度の遅い巨大な相手の場合って、懐に潜り込んでしまえば後は好きに出来るというものだ。『ストーンゴーレム』なんかは正にそれで、弾き飛ばすことをしなくても裏に回ってしまえば振り返る事すら難儀するだろう。けど、あいつのステータスは400と、それなりに高い相手ではあったが、あの巨体に全身岩の重装兵だ。もっと鈍間なやつだと思ってしまった。

 『俊敏』がもっと高い奴とも戦ってきたはずなのに、気付いたら奴の腕が目の前まで来ていた時は本当に焦った。一体いつの間に攻撃をされたんだか。


「ご主人様、こういう時の為の、録画ですよ」


 アイラの言葉にハッとなる。


「また心で会話してますわ……」


 アヤネはいじけていたが。


「……そうか。なにも、初心者の為だけの動画じゃないもんな」

「はい。昨日のように、振り返りや参考にするためにも、何度も見て構わないのです」

「旦那様が吹き飛ばされた姿は、バッチリ納めましたわ!」

「あー……そこはカットで」

「それを判断するのは、残念ながら奥方様達です。受け入れましょう」

「……無茶をして怒られる未来が見える」

「反省してください」

「はい、気をつけます……」


 一人落ち込んでいると、アヤネが袖を引っ張ってきた。


「旦那様、旦那様。お疲れみたいですから、今日も膝枕しましょうか?」


 アヤネがちょこんと座り込んで、太ももをポンポンする。なんとも魅力的な提案だ。


「んー……。そうだな、とっても心惹かれるけど、今日はもう撤退しよう」

「えっ? 旦那様が、撤退……!?」

「よ、宜しいのですか?」


 あれ、思った以上に驚かれてる。

 俺、何だと思われてるの?


「ああ。想像以上にあいつとの戦いで心が疲弊したし、慣れない攻撃を受けたせいで思った以上に疲れが溜まってるみたいなんだ。それに、サブウェポンの『御霊』がリタイア間近でさ。折るまで酷使したくもないから、こいつは休ませてあげたい」


 剣芯の中央に大きな亀裂が入った『御霊』を二人に見せる。

 こいつには世話になったし、せめて部屋の武器ラックに飾ってやりたい。その為にも、完全に破損する前に持ち帰ってやらなきゃ。


「これは……。そうですね、継戦は難しいでしょう。ゴーレムとの戦闘は主に弓となりそうですが、ご主人様が難しいと判断した以上、その指示に従います」

「旦那様、今日もお疲れさまでしたわ」

「ああ。帰ろう」



◇◇◇◇◇◇◇◇



「「おかえりなさい!」」

「ああ、ただいま」


 アキとマキ、二人に出迎えられると、やっぱり安心するな。

 俺の様子を察したのか、二人は不安そうな顔をする。


「ショウタさん、もしかして……」

「めっちゃ疲れてる?」

「うん」


 そう告げると、次の瞬間には鎧は脱がされ、椅子に座らされていた。

 あれ? 今何が起きた??


「想定よりも早い帰還だったもんね。なにかイレギュラーがあったの?」

「怪我はないようですが、どうされたんですか?」

「ああ。『エンペラーゴブリン』や『甲殻騎士』よりも、数段ヤバイのが出てきてさ。連戦はしたくなかったから、引き揚げてきたんだ」


 そう告げたところで、急遽支部長も会議室に呼んだうえで、動画が再生された。

 最初のゴーレム、そして『ストーンゴーレム』の際には、比較的御しやすい相手として初心者冒険者の狩りの対象としても申し分ない相手として評価された。だが、『ジャイアントロックゴーレム』が出てきた瞬間、部屋の空気は重苦しい物へと変わった。

 そのあまりの巨体。そして強大なステータスに、強力な能力。それらを目の当たりにして、三者三様に絶句していた。


「ああっ……!」

「なんてこと……」

「うわ、打ち上げられてんじゃん」


 俺の超絶ダサイシーンに、悲観に溢れた感想が3人から漏れ出てしまった。マキは若干悲鳴に近かったけど。

 間抜けな醜態晒してごめん……。


 そして動画では、俺の『空間魔法』による立て直しも見事にカメラに収められており、アイラの鬼ごっこによって立て直し、徐々に形勢は逆転。

 最後に、俺の新技でフィニッシュ。そうして動画は終わった。


 マキは俺の無事を再確認する様に抱きついてくるし、支部長はこのレベルのモンスターが現れたことで今後の対応策を検討しているのか、何やらぶつぶつと言っている。けど、アキは気になることがあるのか、映像を何度も巻き返しては同じ場面を見て思案していた。

 いや、それ俺が吹っ飛ぶシーンなんだけど。笑うでもなく真面目に見られると反応に困ると言うか……。


「やっぱり……」


 ん?


「ショウタ君、無意識にだけど踏ん張りをやめて、自分から飛んでるわね」

「え?」

「本当ですか、アキ様」

「ええ。ほら見て、このシーン。ショウタ君、インパクトの直前に後ろに飛んでるでしょ。きっと無理に耐えると危ないことを本能と直感で理解したのね。ほら、マキも落ち着いて見返してみなさい。思っていたような悲惨な映像じゃないわ」


 アキにそう言われて、恐る恐るといった様子でマキが顔を上げたので、俺も一緒になって動画を見る。アキがそのシーンをコマ送りで再生しながら説明をしてくれた。

 確かに、俺……後ろに飛んでる様に見えるな? いやまったく、覚えがないんだけど……。


「さすが旦那様ですわ!」

「これが意識的に可能になれば、ショウタさんは……」

「そうよ。無意識でこんな芸当が出来るのなら、意識してやればもっと効果的だわ。吹き飛ばされたのが自分の意思で行ったのかどうかで、リカバリーの速度も段違いだしね」

「確かに、そうだね」


 あの時は何とかエアウォークを思い出して復帰する事が出来たけど、慌てたままだと事故が起きる可能性もある。まあ今回の事で、落下なら『金剛外装』でどうにでもなる事は知れたけど、それで毎回魔力を200も使っていたら、その内『魔力』が必要な場面で足りないなんて事にもなりかねない。

 取れる手段が多いに越した事はないよな。


「んー……。次の連休、どうやらアイラさんの言う通りになりそうね」

「ええ。面白くなってまいりました」

「え?」


 なんだろ。どんな計画がされてるんだ?

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